やりすぎたヘーレス
漆黒の巨城、玉座の間。
ヘーレスがいつものように朝からやってきた。
今日は何かを手に持っているようだ。が、背中に隠しているので見えない。
「何を持っている?」
コマゾスは鋭い上目遣いでヘーレスにたずねる。
ヘーレスは背中からそれをチラッと見せ、すぐに隠す。
口角を上げてみせる。
「見せろ」
背中から少しだけ出す。丸い刃が光っているように見えた。
「危ないだろうが! 出せ!」
立ち上がるコマゾス。手を出して、ヘーレスの手に触れようとする。
ここで初めてヘーレスが言葉を発する。
「あなたが余計なことをしないなら、危なくない」
「お前は本当に余計なことしかしない。何か起こってからでは遅い。さっさと渡せ!」
ヘーレスは渋々片手を見せる。
その手には、薄黄色で細かい装飾の施された防具がついていた。
コマゾスはそれを取り上げる。
ずらすと半円の刃が出た。
「いい子だ……。そっちの手も見せなさい」
コマゾスの何気ない言葉。
それを聞いたヘーレスの目が鋭くなった。
「渡すわけないでしょ!」
もう少し。あと少しでコマゾスの手が届くところで手を引っ込めたヘーレス。
その動きにコマゾスは目を見開いて、固まる。
「護身用だから渡せません。これ以上触られたら……私……」
ヘーレスは急に涙ぐみ始めた。
少し口を開け、唖然とするコマゾス。
しかし、すぐに大きな声で話し始めた。
「よし、わかった! 不死王を呼んでくれ! はっきりさせようじゃないか! 私が直接、話をする!」
「……」
ヘーレスは涙を拭くような素振りをする。
「それともう二度とここに来るな。来なければ、触られることもない! 断れ」
「いえ、来ます。これが私の仕事れすから!」
コマゾスはヘーレスの手を掴む。
両手で組み合い、その手が互いに震える。
「なんだと? 不死王を呼べと言っているだろうが……私が言う」
「イヤれす……」
「あの板を出せ……」
「あれは私の……私の……タイミングで……使いま……す」
コマゾスとヘーレスはいつものように手を組み合う。
しばらく力比べをしていた二人。
コマゾスは不敵な笑みを浮かべ、急に手を離して一歩下がった。
「こちらにもやりようがある」
(ヨトフも同じ板を持っていたはず……それを使えばいい……)
口角を上げて頷くコマゾス。
眉をひそめ、首をかしげるヘーレス。コマゾスの目をじっと見つめる。
突然、ヘーレスは、手の甲につけた防具から刃を出し、自分の衣装を切り裂き始めた。
コマゾスは唖然とする。
「あなたが私に刃を向けた証拠れす!」
そう言うとヘーレスはコマゾスが持っている刃のついた防具を指さす。
そして、自分が持っている同じ防具の刃をしまった。
「よし」と小さく言うと、全速力で走って出て行った。
◇◇◇
翌日。
玉座の間に入った途端、ヘーレスが声を上げる。
「なんでれすか!」
小走りにやってきて、コマゾスの前に座る。
コマゾスは澄ました表情で落ち着いて仕事をしている。
ヘーレスの顔を見ることもなく、独り言のようにつぶやく。
「天罰が下るのはお前の方だ」
さらに続ける。
「絶大なる不信を買ったな」
口角を上げてみせる。
「もぉ!」
ヘーレスは大きな足音を立てて、出て行った。
【あとがき】
その日の夜。玉座の間。
床の上に置かれたローソクの灯りだけが揺らめいている。
その前に不死王が座って、書類を次々とめくっていた。
不死王の眼孔は灯りに照らされても暗い。
その奥は見えない。
そこに奥の部屋から出てきたコマゾスが近づいていく。
不死王「悪いな。寝る前に……少しだけだ」
コマゾス「私は断じて、彼女に対していかがわしいことは何一つしてません」
不死王「あぁ、わかってる」
コマゾス「彼女がいると仕事の邪魔になります。ここに来させないで頂きたい」
不死王「それは少し難しい……この下に住んでるからな……」
コマゾス「えっ……」
不死王「もう少しガマンしてくれ……武器は取り上げるから……」
コマゾス「……」
コマゾスは膝から崩れ落ちる。
不死王「どうした? どこか悪いのか?」
不死王は鉢植えからちぎった葉っぱをコマゾスの口に何度も何度も突きつける。
口は少し開いているが、中には入っていかない。
コマゾスはボーッとしていた。
ふと我に返ると、右足で何度も何度も床を強く蹴った。
そして、何度も何度もジャンプした。
見開いた目で床をしっかり見つめている。
ひとしきりジャンプしたあと。
辺りを見渡す。
もう不死王の姿はない。
ため息をつくと、肩を落とし、玉座の裏にある部屋へと戻っていった。
ローソクの炎は揺れることなく、細く長くまっすぐ燃えていた。




