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不死王の手ほどき  作者: 森山すぱこ。
アバンフ攻略
67/79

絶大なる信用があるヘーレス


ヘーレスはどこか虫の居所が悪い。

対面に座って黙々と書類仕事をしているコマゾスに容赦ない言葉を立て続けに浴びせる。


「こき使われて終わりですよ」

「目の前に玉座があるのにね」

「本当は何の権力も持ってないでしょ?」

「その額のシワは何ですか? 無駄ジワですか?」


徐々に赤くなっていくコマゾスの顔――

そして。

ついに限界に達した。


バンッ


コマゾスは両方の手のひらで机をバンと叩くと、ヘーレスをにらみつける。


「おーのーれぇーー」



それでも平然とヘーレスは自慢げに首輪をチラつかせる。


「首輪をつけないと何の権利も与えられないんですよ?」

「お前は首輪をつけてても何の権利もないだろうが」

「ありますよー」


ヘーレスは連絡板を取り出して見せる。

コマゾスはそれを見て、バカにしたように口元を緩める。


「それは権利か?」

「絶大なる信用があるから持ってるんれす」

「絶大なる信用があるならこんなところでおしゃべりしてないんじゃないか」

「絶大なる信用があるから朝から優雅にお茶を飲みながら国の将来について相談に乗ってあげてるんれす」

「そんな話題、一度もしたことないだろうが……自分の将来でも心配しとけ」


ピキッ(ヘーレスがキレる音)


「絶大なる信用があるので報告します!」

「『みんなに迷惑をかけているから辞めます』という報告か?」



「絶大なる信用がある者に対して、言ってはいけないことを言いましたね」


ヘーレスは静かに立ち上がる。


「絶大なる信用がある者……三回目は許しません!」


そう言うとヘーレスはコマゾスの手を掴み、押し倒そうとする。

小刻みに互いの手が震える。

互いにウンウン言って押し合ったのち、両者立ち上がった。

コマゾスが歯を食いしばりながら言う。


「まだ二回目だろうが」


いつものようにフンフンと互いに息をもらしながら取っ組み合う二人。

そこにやってきたチージョイルがあわてて間に入る。


互いの手を離そうとするが、離れない。

一本一本指を外そうとしてダメ。完全に二人だけの世界に入ってしまっている。

一度離れ、腰に手を当て、どうしようかと考える。

一度、大きく息を吸った。


「落ち着いてください!」


チージョイルの言葉にコマゾスもヘーレスもハッとする。


「ごめんなさい」


スンッ、スンッ

涙を拭くような仕草をし、伏し目がちにそう言うと、ヘーレスは静かに扉へと向かう。



バタンと切ない扉の音が響いた。

すると、コマゾスはチージョイルと窓まで小走りで向かう。


扉の外にはスキップして一回転するヘーレスの姿があった。

チージョイルは唖然、コマゾスは再び赤くなった顔で奥歯を噛みしめながら、その背中を見つめていた。



◇◇◇



鼻歌を口ずさみながら、踊って入ってくるヘーレス。

今日は朝から機嫌がいい。


コマゾスはそれをチラッと見ると、わずかに眉間にシワを寄せる。

そして、ヘーレスはドサッと少しバランスを崩しながら、コマゾスの対面に置かれた椅子に座った。

ヘーレスは手を宙に上げ、見上げて、いきなり言い放つ。


「私は歌手です!」

「いいえ。ただの文官です」

「私は歌手です!」

「いいえ。ただのバカです」

「私は歌手です!」

「いいえ。ただの足手まといです」


「もし。居心地のいい楽屋が用意されているなら、私はずっとそこにいます。ステージでは歌いません!」

「……名言だな」

「でしょ? でしょ?」


ヘーレスは目を閉じ、気持ちよさそうに歌を口ずさむ。


「初めて褒めてくれましたね」


ヘーレスは椅子を右に一回転、左に一回転してみせる。



バシッ!


「何するんれすか!」


「ステージで歌うから、居心地のいい楽屋が用意されてるんだろうが!」

「……」


「履き違えるなよ!」


ヘーレスは口を開けたまま、固まる――

しばらくして、だまって立ち上がると出ていった。



(少しは反省しただろう……)


コマゾスは小さくなっていく背中を見て、そう思った。


~~


いつものようにチージョイルがやってきた。

対面に腰掛ける直前、さらりとつぶやく。


「胸に手を入れられたと騒いでましたよ」

「なんだと!」


コマゾスは鋭い視線でヘーレスが出て行った扉を見る。

こめかみの血管がプクッと浮き上がった。


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