ヘーレスに向いている仕事
「私にはもっと向いている仕事があると思うんれす」
「書類仕事も立派な仕事だ」
「爺のお世話している場合じゃないと思うんれす」
「私が人事権を手に入れたら、真っ先にクビにするな」
ピキッ。
ヘーレスは少し苛立ったが、まだ大人の女性を演じる。
「だから、得意な部分を伸ばして、簡単にはクビにできないようにしようと思うんれす」
「それを私に相談するのか?」
「そんなに都合のいい答えがすぐに思いつきますか? 私のいない静かな日々を取り戻し、かつ、私をすぐにクビにできるような程よいスキルを身につけさせるような都合のいい答えが」
「あっ……?」
コマゾスはいつもと少し違うヘーレスの返答に半開きの口が塞がらない。
だまって顔を上げるだけだ。
「私に向いていることってなんれすか?」
コマゾスは固まったまま。
しかし、しばらくして、ようやく自分を取り戻す。
「外周を走れ。そしたら、思いつく」
コマゾスは手で大きく円を描く。玉座の間の周りを走れと体で表現した。
さらに言葉を続ける。
「自分で気づくことが大事だ」
そして、少し半笑いで言葉をつづけた。
「それでも思いつかなかったら、王都の外周を走れ」
ピキッ。
「なんれすかそれ! 真剣に悩んでいるのに!」
ヘーレスは立ち上がる。
「大人しく隅で座ってろ」
「そんなの仕事じゃないれす」
ヘーレスを座らせようとするコマゾスと立ったままでいようとするヘーレス。
小競り合いが始まった。
次第に手の動きが互いを押さえつけようと激しくなる。
「じゃあ、私に残りの人生働かずに暮らしていけるくらいの遺産を残してください」
「どさくさに紛れて何言ってるんだ?」
「明日死んでもおかしくないんだからいいでしょ?」
「それはお前も一緒だろうが」
コマゾスはたて続けに言う。
「金なんかいくら持ってても意味がない」
「稼ぐ力がないとな」
「それは自分で考えろ」
一通り言い終えると、ハッとするコマゾス。
それに気づいたヘーレスが歯を食いしばりながら、たずねる。
「何か気づいたんれすね? おしえてください!」
「気づいていない。別のことだ」
「いいや。私のことを考えてました!」
「本人が違うって言ってるだろ」
ヘーレスと手を組み合う。
「ウソれす! なんなんれすか! おしえないつもりですか!」
パシッ
ハッとして、目を見開きヘーレスを見るコマゾス。
コマゾスの目の色が変わった。それに気づいたヘーレスが先に言い訳をする。
「暴力ではないれす。頭皮のマッサージれす」
「マッサージの度合いを超えているだろうが!」
ヘーレスはふてくされたように椅子にドシッと座る。
「しょうがないなぁ……何か王様に伝えたいことはありますか? 伝えてあげますよ」
「なんだ? 気持ち悪いぞ。どうした?」
「早く言わないと伝えませんよ?」
「わかった……。しばらく家に帰ってないから、家に帰りたいって伝えてくれ」
「……コマゾスが家に帰りたいと言ってます」
「今日はやけに素直だな……ちょっと見せろ……」
コマゾスは連絡板をヘーレスから受け取ると、板の角で親指の腹を当てながら、内容を確認する。
「よし……。コマゾスさんな」
ヘーレスは連絡板を受け取ると「コマゾスさん」と言いながら、『本当の』という文字をサッと書き足す。
コマゾスはそれに気づかなかった。
◇◇◇
夜。
辺りは真っ暗だった。
コマゾスは前に手を出し、慎重に歩いていた。
ここがどこかわからない。
なぜか有無を言わさず、骸骨に連れて来られたのだ。
コツコツ。
コマゾスは咄嗟に肩をすくめ、音の鳴った方を見る。
何も見えない。
おそるおそる歩みを進める。
暗闇の向こうに何かが見えた。
地面の上だ。
目を凝らしてもそれが何かわからない。
ほのかな光に照らされ、何かが揺らめいている。
ゆっくりゆっくり、それに向かい、足先で地面が平らであることを確認しながら近づいていく。
照らされている物ではなく、光が動いているようだ。
さらに近づいていく。
――地面の上に力のない女の顔がコマゾスを見上げていた――
「おぉぉぉぉー」
震えあがり、情けない声をあげるコマゾス。
その女は無表情から笑みがこぼれると、一気に噴き出す。
光る石を握りしめ、上体反らしをしているヘーレスの姿があった。
ヘーレスはコマゾスと目が合うと、地面に転がり、涙を流してお腹を抱えて笑い出した。
「お前か!」
コマゾスの手はまだ震えていた。
笑い涙を流し、立ち上がったヘーレスがたずねる。
「どう? ひさしぶりの家は?」
そう言うと、光る石を真上に軽く投げて見せる。
辺りが照らされる。
コマゾスは辺りの景色を見渡した。
「……そういうことか! ふざけるな!」




