コマゾスの悩み
漆黒の巨城・玉座の間。
朝からヘーレスが来ていた。
「何しに来た?」
「傷つきました。謝ってください」
「質問しただけだ。謝る必要はない」
ヘーレスはにらむ。
「もういいれす。口、聞きません」
(書類仕事が捗る……)
コマゾスの筆を持つ手が、いつもより力んでいる。
ヘーレスはそれを見逃さない。
「何、怒ってるんですか、何かあったんですか? 特別に聞いてあげますよ」
「お前じゃ無理だ」
「私、友達がいないから、口が固いんです」
「自分のことをやってろ」
手を握る。
すぐに払いのける。
「やめろ……。娘のことだ……行方が分からない」
「そりゃ王様のようなことをしてたら、誘拐もされますよ……。誰かに相談しましたか? 前の王様とか?」
「前? 今もだろ……。ここ数日は会ってもいない」
「連絡できないんですか?」
「いつも気づいたら後ろにいる」
ヘーレスは突然ハッとしてコマゾスの後ろを見る。
コマゾスもそれに気づき、ゆっくりと振り返る。
誰もいない。
「ふざけるな!」
机ドンッ!
ヘーレス爆笑。
足をバタつかせて喜ぶ。
「私が呼んであげましょうか?」
「できるわけないだろ……ウソをつくな」
「これで呼べるのれす」
ヘーレスは小さな白い板を人差し指と親指で持って小刻みに動かして見せる。
「証明してみせますよ。見ててください。もし、娘さんが無事戻ってきたら、私の前で膝まずいて、膝をすりすりしながら『一生ついていきます!姉さん!』って言ってくださいよ」
「ああ、無事戻ってきたら、いくらでもしてやるよ」
ヘーレスは板に指先で触れようとして止まる。
「おじいちゃん。名前おしえて」
「コマゾス。知らんのか。最初に聞くだろ普通。だから一人部屋に隔離されるんだよ」
コマゾスの心無い言葉にヘーレスは少しピキッとなる。
ただ、今日は華麗にスルーする。大人の女性としての余裕もあるのだ。
『コマゾスの娘が行方不明になりました。心配で仕事に支障が出ています。早く見つけてあげてください。あと、暴言も吐いていました。「狙われるのはわかってんだろ、なんで護衛とかつけないんだ」って……。ブチギレて机ドンドンしてました。早く見つけてあげてください。私もなぜか殴られました。色んなところも触られました。とても苦しいです……。』
~~~
その日の昼すぎ。
玉座の間の扉が開いた。
入って来たのは……コマゾスの娘――クーリャだ。
顔だけを入れて、中を見回している。
コマゾスは顔を上げる。
目を細める。そして、立ち上がると、クーリャのもとへ向かった。
クーリャがコマゾスに気づいた。
玉座の間に足を踏み入れると、コマゾスのもとへ駆け寄った。
「パパ!」
「よかった……ケガはないか?」
クーリャは涙ながらにうなずく。
「ヴァンフか? 誰だ?」
クーリャは首を振る。
「わからない……」
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翌日、玉座の間。
全力でヘーレスとの約束を果たすコマゾスの姿があった。
「一生ついていきます!姉さん!」
「苦しゅうない」
「一生ついていきます!姉さん!」
「苦しゅうない」
「お父さん……」
心配そうな表情でコマゾスを見つめる娘クーリャ。
クーリャは玉座の間にはいない。
ただ、石枠の外からこっそり見ているようにとヘーレスに指示されていたのだった。
ある意味、コマゾスが家族を失った瞬間となった。
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【あトがき】
さらに翌日。玉座の間にて。
ヘーレス「会った?」
コマゾス「誰とだ?」
ヘーレス「前の王様と」
コマゾス「誰だ?」
ヘーレス「顔の白い王様」(不死王のこと)
固まるコマゾス。
コマゾス「……今の王様は?」
ヘーレスはコマゾスを指さす。
コマゾス「私は王様でない」
コマゾス「会ってない」
ヘーレス「ホント?」
コマゾス「会ってない」
ヘーレス「おかしいなぁ……」
コマゾス「何がだ?」
ヘーレス「何でもないよー」
コマゾスはヘーレスをにらみつける。
(絶対、こいつ、何かしている……)
ちなみに不死王はヘーレスの虚言癖を承知しているので、ヘーレスからの連絡板の内容を真に受けて、コマゾスに鉄槌を下すということはしなかった。




