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不死王の手ほどき  作者: 森山すぱこ。
アバンフ攻略
64/79

コマゾスの天敵


漆黒の巨城・玉座の間。

玉座には誰も座っていない。

背筋を伸ばした壮年の男性(コマゾス)が長机の前に座り、てきぱきと書類仕事をしていた。

ようやく王としての仕事に慣れてきたのであろう。


その前に座って、興味なさげにコマゾスの仕事ぶりを観察している若い女性がいる。

やる気のない首輪文官ヘーレス。


コマゾスはヘーレスの目をじっと見る。


「昨日、見なかった顔だな」


昨日の王妃お披露目会。

そこにはほとんどの首輪文官が参加していた。

ただヘーレスの顔には見覚えがなかった。


「私は早く寝る派なのれーす」


コマゾスは書類に目を戻す。

ヘーレスは手を組んで、ゆるい笑顔でコマゾスに顔を近づける。

鼻筋が通り、鼻先に向かってしなやかなラインを描く美しい鼻。それが付きそうなぐらいに。


「王妃様はどんな人でしたか?」

「ん? 結局、鎧を着たままで……顔は見てない」


「ふーーーん……本当に見てないの?」

「いつのまにか居なくなったな……」



しばらくコマゾスを観察したのち、ヘーレスは唐突に独り言のように話し始めた。


「日々平穏に過ごせれば、それでいいんです」

「……それ、つけていたら気持ちが休まらないのではないか?」


コマゾスは自分の首をつまんで、たずねる。


「首輪? 別にいいですよ。何かするつもりはないし……」

(こういうのもいるんだな……)


コマゾスはチラッと見て、書類に目を落とす。


「王様は楽しいですかーー?」

「酒でも飲んでいるのか……」


目線を上げることなく、答える。


「お前こそ楽しいのか?」

「楽しくないれーす!」


コマゾスは気づかれないように息を吐き出す。


「お前のような者が増えたら、この国はつぶれるな」

「あっ、傷つきました。謝ってください」


ヘーレスは急に真顔になって謝罪を要求する。


「はい。ごめんなさい」

「わかればよろし(・)!」


コマゾスはわずかに口角を上げる。

形だけだが、それは以前のコマゾスなら絶対出ない言葉だった。


~~~


翌日。


「私の名前はいつ聞くんですか?」


一回転して手をあげてポーズを決める。


「ヘーレスれす」

「聞いてないぞ」


「毎日、私を呼ぶんですね。そんなに気に入ったんですか?」

「誰を呼ぶかは、私は一(・)切(・)関わっていない」



「私、書類仕事しかさせてもらえないんれす」

「そうだろうな」

「ひどい! なんでれすか?」


ヘーレスは演技で目を潤ませる。


「文官として明らかにあらゆるものが欠けている。よくなれたな」

「何度も何度も通ってぇ~、私の魅力を伝えてぇ~」

「私なら始末するかもしれない」


「ひどい! その前に……私が始末してやりますよ」

「やめろ!」


無言でしばらくフンフン言い合いながら、立って小競り合いをする二人。

首を絞めあったり、こちょこちょしあったり、ブタ鼻にしあったり……。

若い女性と壮年の男性。ちょうど力が釣り合うようだ。


お互いに息が上がり、疲れたのか、どちらからともなく座った。

コマゾスは服を正すと、眉間にシワを寄せ、書類仕事に戻る。



扉が開く音がした。

チージョイルが入ってくる。


ヘーレスは鼻歌混じりにスキップしながら扉へと向かう。

そして、軽く会釈するチージョイルに寄っていくとコマゾスにも聞こえるように言った。


「権力をチラつかせて、いっぱい触られました。気を付けてください」


チージョイルは戸惑いながらも、軽く頷く。



コマゾスのこめかみに血管が浮かび上がる。

ヘーレスをにらみつける。


「わかってますから、落ち着いてください」


小走りでやってきたチージョイルに両手を下にして諭されると、目を閉じて深呼吸した。



~~~



首輪つきの次席文官の青年チージョイル。

コマゾスはチージョイルとのくったくのない議論を楽しみにしていた。


コマゾスは早速切り出す。孤児院に出す予算についてだ。


「元々高額ではない。わざわざ減らしていく必要はない」

「減額理由は書いています。事業や寄付で賄えるように努力してほしいのです」


「子売り事業か?」

「そうは言ってません」


「恨みでもあるのか……」

コマゾスはつぶやく。そして、予算減額のリスクについてぶつけてみる。

「資金が不足すれば子売りとかにつながるのでは?」


「だから金銭以外の支援を行います」

「人は出せないぞ……自分でやるのか、あと卒業生……」

「いえ、今のところは私のほかには一人(ヘロック)だけです」


コマゾスはじーっとチージョイルを見つめる。


「変に肩に力が入っているな」


ヘーレスが出て行った方向を指さすと、チージョイルに提案する。


「あれ(ヘーレス)にも協力させればいいのではないか?」

「えっ?」


コマゾスは少し悪い顔をする。

外で仕事をさせれば、もうヘーレスの顔を見ることはないだろう。


「どうだ?」

「別に構いませんが……今考えているのは畑仕事ですよ?」

「本人も書類仕事はつまらないと言ってたところだ。ちょうどいい」


コマゾスは何度も頷いた。



~~~


翌日の夕方。

今日はすごく気持ちのいい一日だった。

いい仕事をした気がする。

石枠の窓辺から見る夕日、体に当たる風が実に爽快に感じる。

コマゾスは柔らかな笑顔でまぶしそうに外を眺めていた――



その視界が突然、塞がれる。


「だーれだ?」

「……」

「だーれだ?」

「おまえか!」

「オマエではありません。ヘーレスれす」


コマゾスは振り返ることなく、膝から崩れ落ちた。


「今日は呼ばれなかったから、来てやりました」

「来たくても来られるところじゃないだろ……」

「……来れます!」


コマゾスはこめかみを押さえ、眉間に深いシワを作ると、そっと目を閉じた。


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