王妃お披露目②
王妃のお披露目会も終盤。
水泡がゆるやかに宙を舞う中、不死王が玉座の横に立った。
「最後にもう一人、紹介したい。今、私の仕事を手伝ってもらっているコマゾスくんだ。しばらく王をやってもらう」
(今、紹介する?)
冷たい目で不死王を見上げるコマゾス。
「しばらく王をやってもらう」という言葉を聞いていなかった。
静まり返ったあと、湧き上がった拍手にコマゾスは身震いする。
コマゾスを知らない首輪文官はほぼいない。
すでにほとんどの首輪文官と、ここ玉座の間で言葉を交わしていた。
どことなく煮え切らなかったコマゾスの表情は、とめどない拍手で少しずつ和らいでいく。
コマゾスに一言喋らせようと、不死王は脇を抱え、無理やり立たせた。
眼差しが集まるが、コマゾスは物怖じすることはない。
毛量のある白髪のオールバック。その艶のある髪は少々動いてもそのままだ。
自信に満ちた目で一人一人の顔を見ていく。
徐々に静かになっていき、やがて何も聞こえなくなった。
その瞬間。
「コマゾスだ。よろしく頼む」
コマゾスは一言だけ口にした。
その声を聞いた不死王はコマゾスの肩を抱き寄せ、ささやくように言った。
「それでは聞こえないぞ」
(聞こえただろ……)
不死王がコマゾスの肩に置いた手がギュッとなる。
「コマゾスだ! よろしく頼む!」
城内に響き渡るような突き抜ける声で不死王は言った。
一瞬の沈黙ののち、すぐに再び拍手で包まれる。
不死王は骨々しい手でコマゾスの肩を軽く揺すった。
~~~
コマゾスが二度目の拍手を受けている頃。
王妃は扉に近い場所にいた。
すでに甲冑をまとっていない。
誰も王妃に気づいていない。
不死王でさえも。
王妃からあふれ出るエネルギー。
動き、表情。それらを肌で感じ取っていたのは、ヘロックだけだった。
ふと目線を王妃に送る。
長く伸びた茶色の髪。
白と水色の薄いベールを羽織った飾り気のないドレス。
コマゾスを見る目は輝いており、シュッとした鼻、そして少し開いた唇は瑞々しい。
調子がいいのだろう、頬がわずかに赤らんでいる。
微笑みも自然だった。
さらによく見ると、ポッコリおなか。
「おい! おい! おい! おい!」
チージョイルの袖をギュンギュンと下に引っ張るヘロック。
しかし、チージョイルはコマゾスの方を見ている。
その間に王妃は口元を押さえ、扉の外へと出て行った。
ヘロックは思わず、あとを追う。
扉から顔を出し、目を凝らす。
パチパチとまばたきするも、そこにあったのは暗闇だけ。
冷たい夜の風がやさしく顔をなでていった。
◇◇◇
コマゾスの慰労会がささやかに執り行われた。
不死王と首輪文官たちが玉座に座るコマゾスを囲んでいる。
不死王はコマゾスに用意した皿の料理が全く減っていないことに気づく。
「どうした? まったく手をつけてないではないか?」
不死王は奥に置いてある鉢から葉っぱを一枚ちぎって持ってくる。
「どこか悪いのであろう? 効くぞ」
無理やり唇の間に葉っぱを差し込もうとする不死王。
口をつぐむコマゾス。
その時、辺りを見回してチージョイルがこぼす。
「ヨトフさん、いないんですね」
「家の用事でな……急遽、帰ってもらった」と不死王。
コマゾスのあごを押さえ、慎重に唇の間に葉っぱを差し込もうとしている。
「どうした? ん?」
そう言うと不死王は少し屈んだまま固まる。
そして、突然消えた。
しばらくして、紙の束を持って、すぐに現れた。
その紙の束をコマゾスの脇の机の上に置く。
「期限は設けない。よーく考えてからサインするのだぞ」
不死王はコマゾスの耳元でささやくように言うと、肩をもみ始めた。
アバンフとの取り決めをコマゾスに宿題として出す。
「あと、しばらくここが家だ」
コマゾスは即座に不死王を見上げる。
紙の束をくくるヒモの内側には葉っぱが一枚差し込まれていた。




