王妃お披露目①
漆黒の巨城・玉座の間。
そこは普段、特定の人間しか立ち入りが許されない場所。
漆黒の巨城が姿を隠す夜、その部屋にはたくさんの人々があふれかえっていた。
長い木製の机が二列。
その上に肉、野菜、酒、色とりどりの果物が並べられている。
よく見れば豪勢ではない。しかし、旬の食材を使った料理は十分満足させるはずだ。
そこにいるのは主に城で働いている文官たち。他にはその家族や関係者もいた。
それぞれ食事をしながら、和やかに歓談をしていた。
そんな中。
玉座には顔をひきつらせた壮年の男性が座っている。
目の前の光景を一切、視界に入れることはない。
小さな机に書類を置いて、必死に考えを巡らせながら目を通し、筆を走らせていた。
玉座の間の正面にある大きな扉がゆっくりと開いた。
一瞬静まる。
一斉に視線がそちらへと向く。
不死王と、その腕に手を添えた全身鎧姿の人間が入ってきた。
長いテーブルの間を進み、玉座へとゆっくり向かう。
コマゾスは大いに顔を引きつらせる。
(ここにいていいのか?)
不死王は身をかがめ、小さな声でささやいた。
「気にするな。そのまま続けたまえ」
(続けられるか!)
コマゾスは喉元まで出かけていたその言葉を飲みこむと、慎重に言葉を選んで発言した。
「これは別の場所でもできるので……」
「それは王の仕事だ。ふさわしい場所でやるべきでないのか?」
「あなたが王でしょう。ふさわしい人が利用すべきだ」
「玉座? それに何の価値がある? ただの腰かけではないか。私は立っている方が楽だ」
(そういうことではないだろう……)
そして、続けざまにさりげなく不死王は言った。
「私を王と認めるのだな。フフッ」
不死王の背中を見て、目を見開くコマゾス。
しばらく固まった。
~~~
玉座の前に立つ不死王。
不死王は場内に響き渡る芯のある声で言い放った。
「紹介する。我が妃エリヴァティスだ」
不死王は隣に立つ鎧姿の人間に手を向ける。
王妃はまったく肌が露出していない。髪一本すらもだ。
すべてが銀色に輝く金属で覆われている。
場内は完全に静まり返った。
後ろの玉座に座るコマゾスは口を半開きにしたまま、まだ固まっている。
「実は少しワケありで安定しないのだ。ここぞというタイミングで顔を出すとのことだ。見逃さないでくれ」
「「「「「?」」」」」
鎧姿の王妃は遠慮がちに手を挙げて見せた。
声すら発しない。
不死王と王妃で一人一人に挨拶していく。
王妃は兜の開口部を頻繁に開閉し、次々と口に入れていく。
開くのは一瞬。外から凝視していても口元を見ることができない。
不死王はそもそも食べる必要がない。
しかし、あわてて小皿に料理を盛り始めた。
そして、王妃をその場に残し、どこかへ姿を消した。
王妃はそれに気づかぬまま、食事を続けている。閉じられた兜の開口部が小さくカタカタと音を立てる。
玉座の間の周囲に立っていた銀色の鎧を着た兵士たちが準備を始めた。
グルグル巻きされていた穴の開いた大きな布テープを三人がかりで転がし、玉座の間の外周に敷いていく。
布テープを敷き終えた頃、ちょうど不死王が戻ってきた。
不死王は、小皿を持った王妃の手を引き、布テープの端に連れていく。
二人してしゃがむと、布テープの端にある丸い模様に同時に手をかざす。
すると、布テープの穴から一斉に水泡が勢いよく噴き始めた。
水泡がはじける音がメロディーのように聞こえる。
それは水泡の演舞のようだった――
その場にいた人間は大小の水泡が浮かぶ宙を見つめ、言葉を発することなく、ただじっとそのメロディーを聞いていた。
玉座で水泡を見上げ、固まっているコマゾス。
その側まで不死王は向かうと、同じ方向を見てしゃがむと問いかけた。
「名曲とは何だと思う?」
「えっ?」
コマゾスは不死王のどこまでも暗い瞳を見る。
少し考えると答えた。
「万人がいいと思えるものでは?」
「統治はそれでいいかもな。ただ、曲だとそれでは退屈だ」
不死王はスッと立ち上がった。
「私は一部の人に深く刺さるものが名曲だと思う。名曲は聴くタイミングや人によってそれぞれ違うものだ」
そう言うと再び王妃のもとへと向かった。
コマゾスの机の上には料理の盛られた小皿がいつのまにか載っている。
コマゾスはそれに気づくと思わず二度見し、再び固まった。




