婆のぜいたく品の有効活用
リンセンドルク商会の商会長の妻――通称・婆の隠し部屋に溜まっていくぜいたく品。
完全に自分のものにするためにヘロックが考えたトリックとは?
「まずは聞いてほしい」
ヘロックはいつになく真剣な顔をしてチージョイルに切り出した。
チージョイルは部屋の中に並ぶ引き出しを一通り見回す。
そして、ヘロックの対面にある小さな椅子に黙って腰かけた。
「ここには団地が3棟ある。各棟に婆の隠し部屋がある。|103号室、204号室、302号室《最初の数字は団地の棟番号、2つ目の数字が階数》」
「そうなんですか」
チージョイルは部屋を見回しながら、イヤそうにそっけなく返す。
「3棟の隠し部屋が埋まりそうになったら、4棟目の団地を作る。勘違いした婆が4棟目の部屋にも買ったものを入れていく。しばらくしてから1棟目の隠し部屋の中身を頂いて一時的に団地ごと見えなくする。4棟目の隠し部屋が埋まりそうになったら、退避しておいた団地を5棟目にする」
「勘違いしないでしょ? 商会長の奥さんをどこまでバカにしてるんですか」
「婆は夜中にこっそりやってくるし、部屋番号とか覚えてないんだろうな。鍵を手あたり次第挿していく。そして、部屋の中にある引き出しの中に順番に買ったものを入れていくだけ。鍵も同じ。なので、気づかない」
「部屋番号は覚えてないかもしれませんが、さすがに気づくでしょ?」
「婆は3世代分の隠し部屋があればいい。4世代目の隠し部屋の中身はオレが頂戴するという作戦だ」
ヘロックは説明し終えると、座り直し、満足そうにチージョイルの目を見つめる。
「どうだ?」
「何考えているんですか」
チージョイルはうつむき加減に首を傾げ、つぶやくように答えた。
にもかかわらず、ヘロックは自信満々に続ける。
「婆の性格が大雑把だからこそ成立する完全犯罪だ」
「どこが完全なんですか。成立したら奇跡ですよ」
チージョイルはヘロックの目を見た直後に目をつむると、ため息をつくように言った。そして、続ける。
「団地を作ったりしますけど、採算取れるんですか?」
「それは婆の装飾品のセンスと”協力者”次第だ。ここはその部屋だ」
チージョイルは立ち上がると、引き出しをいくつか開けてみる。
チージョイルの背中に向かって、ヘロックは言った。
「どうせ商会の金を使って買い漁ったものだ。一部はオレの金でもある」
チージョイルは引き出しの中身を見ながら、たずねる。
「以前も売り払ったって言ってましたよね?」
「あれは骨とう品の類だ。一つ一つが超高価でめったに買わないし、しばらくしたら買ったことさえ忘れてる。だから気づかれない。装飾品は買う頻度は高いが、たまに使うことがあるので、少し頭を使わないとバレる」
「その頭と労力は商会のために使った方がいいと思いますよ。商会を大きくして自分の使えるお金を増やそうとは思わないんですか?」
「それが婆のぜいたく品になるのはなんかムカつく」
「……」
ヘロックは人差し指を立て、上下に動かす。
「それでだ。……の力を借りたい」
「……無理ですね」
「一晩であの巨大な城を作ったんだろ? できるだろ?」
「陛下ならできると思いますよ。でも、私からは言えません。目的を知ったら、一瞬で消されますよ」
「オレは改心したんだ……」
ヘロックはもう一度、人差し指を立て上下に動かす。
「もう、……を封印しようとしたりはしない」
「利用したいからでしょ」
チージョイルは早口で冷たく突き放す。
それでもヘロックは顔色一つ変えない。
「間違っても、王妃お披露目の席でお願いしたりしないで下さいよ」
「なるほど……さすがだ」
ヘロックは満足そうに軽く頷く。
それを見たチージョイルはうつむき、頭を抱えると、掻き毟った。
◇◇◇
王妃お披露目の翌朝。
漆黒の巨城・二階打ち合わせスペース。
いつものメンバーに加え、一人、ゲストが参加していた。
不死王だ。
チージョイルの隣に座り、ヘロックの話を真剣に聞いていた。
チージョイルはうつむき、顔を引きつらせている。
|護影ニルタス《チージョイルの護衛の鎧男》は珍しくヘロックの隣に座り、兜で完全に隠されたその瞳から、一挙手一言動を凝視しているようだった。
不死王はヘロックの話を聞き終えると、茶色い薄い小さな紙袋を机の上で滑らせ、ヘロックの前にスッと差し出した。
「それを飲ませれば半年前のことを忘れさせることができる。わざわざ団地を作ったり、隠したりする必要はない。もっと簡単だろ?」
ヘロックは紙袋を見て固まっている。
チージョイルは目を大きくして、紙袋を見る。
「陛下!」
「少々手荒だが、これがいちばん丸く収まるのではないか?」
「それに婆が金を使うことはいいんだが、一部の者にしか金を落とさないのはよくないんだよ」
不死王は少し語気を強める。
「ヘロック。それで得た金は万人のために使うのだな?」
「……はい……」
「ならば、富の再分配となり経済が回る」
チージョイルが素朴な疑問をぶつける。
「でも、日記とかつけていたら思い出すかもしれないですよ?」
「「大丈夫だ」」
不死王とヘロックの発言がかぶる。
さらにヘロックが続ける。
「あの婆はそんなマメなことはしない」
「長年連れ添った夫みたいな発言ですね」
ヘロックは不死王と発言がかぶったことなど気づいていない。
チージョイルはヘロックの手にある紙袋をじっと見つめたまま、話す。
「陛下。準備がいいですね。もしかして、知っていたのですか?」
「うむ……たまたま持ち合わせていただけだよ」
チージョイルは目線だけでチラッと不死王を確認したが、変わりない様子。
ただ、ぎこちないセリフに不安はぬぐえなかった。




