不本意な玉座
「嫌だと言っておるじゃろう! わしは騒がしい場所には行きたくない!」
「どうしても、お前の力が必要なんだ!」
魔龍の背の上。街のはるか上空。
絶景をバックに、私は、稀代のネクロマンサーである老婆タウィンガノスをなんとか説得しようとしていた。
しかし、旋回する魔龍の風圧に煽られながら、婆さんは一歩も引こうとしない。
「降りぬ! 絶対に降りぬぞ! 無理やり降ろすと言うなら、今ここで飛び降りるぞ!」
婆さんは下を見て、少し顔を引きずらせながらも、私と下を交互に見るのを繰り返す。
結局、空の上ではこの婆さんを丸め込むのは無理だと思った。
私は街から遠く離れた平原に魔龍を降した。
ぶつぶつと文句を言い続ける婆さんを両手でしっかりと抱きかかえる。
そして、崩壊した王城の跡地へと歩き出した。
◇◇◇
街の民たちは、絶望の淵にいた。
王家は全滅し、城は瓦礫の山。
法の守り手がいなくなった街に、暴徒と略奪の足音が迫っている。
そんな中、私は瓦礫の山の中に立っている。
私は両手を天に掲げ、魔力を解放した。
瞬間、かつて城があった空間全体を覆い尽くす巨大な『死の帳』が展開される。
その中では漆黒の魔力が激しく渦巻き、瓦礫が形を成しながら、ゆっくりと盛り上がっていく。
バキバキと音を立てて瓦礫が組み合わさり、かつての王城を遥かに凌駕する、禍々しくも荘厳な漆黒の城が再構築されていく。
一気に吹き出す禍々しい魔力の圧倒的な衝動。
城を見上げる民たちが恐怖と畏怖で声を失う中、私は城門の前から街を見下ろし、言霊を放った。
「王は死んだ! 本日より、この地は私が治める! 不満がある者は、いつでもこの城の門を叩くがいい――私が、直々に相手をしてやろう!」
◇◇◇
……と、ここまでは完璧だった。
城門がうまく閉まらないのだ――
「見てたよ、旦那! 派手にやったねぇ! 特に不満はないけど、やってきたよ!」
最初に現れたのは、あのスリの少年だった。
威厳たっぷりに宣言した「門を叩け」という言葉を、文字通りに受け取ってやってきた。
私はそのあまりの早さに思わず二度見してしまった。
「……お前、何しにきた?」
「いやあ、新しい王様の側近が必要かなって! ほら、ぼくなら大人の懐に入り込むの得意だし!」
「だから信用できんのだ! お前は手癖が悪すぎる、とりあえず帰れ!」
少年の襟首を掴んでつまみ出そうとするが、彼は必死に城門の隙間から入ろうとする。
ようやく少年を外へ押し出すと、城門をしっかりと閉めた。
絶対にまた来る。
◇◇◇
ようやく玉座の間で一息と思っていたのだが。
予定通りには行かない。
レヌンは大の字になって眠っており、婆さんは日の当たるバルコニーでお茶を飲んでいる。
今、城の中にはたった三人しかいない。
私は玉座で一息つく暇もなく、婆さんに頼みごとをしなければならない。
「お願いだから、出してくれないか?」
「……何をかい?」
「あんたが得意なモンだよ」
婆さんは、どこか頬を赤らめ、恥じらうような仕草を見せる。
「……これかい?」
婆さんが懐から取り出したのは、使い古された靴下だった。
「……頼むから、『それ』を出してくれ。まずは城の防御を固めたい」
「あんたなら自分でもできるじゃろうに」
「できるが……『それ』をすれば、他の事ができなくなるし、そもそも準備ができていない。お前なら、すでにたくさん持っているし、『それ』を出したままでも茶を飲むくらい容易いだろう?」
私の言葉に、婆さんは小さく息を吐くと、右手で宙に円を描いた。
すると、その円が影になり、そこから死霊兵たちがとめどなく出てきた。
「魔龍はここに連れてこないのかい? 一人では寂しかろうに」
「そんなことをしたら、魔龍の瘴気で、この街の住人が全員死んでしまう」
「ふふ、そこでわしの出番というわけだね」
「冗談でもそんなことを言うな。……本当にやりかねんからな、お前は」
不死王、二度目の統治生活が始まる。




