付きまとわれる不死王
「またか……」
湖畔でバラバラになった骨を繋ぎ合わせ、ようやく人型を成した私の前に、その男は立っていた。
中年の魔法使い、レヌン。
ひどく執念深く、そしてなにより――私の正体をおそらく知っている厄介な男だ。
彼との最初の出会いは湖だった。
空からの自由落下を楽しんでいた際、湖畔で釣りをしていた彼をずぶ濡れにしてしまったのだ。
詫びとして金貨を置いて立ち去ったのだが、彼はそこから私を追いかけてきた。
私が衛兵に捕まり、毒殺刑をやりすごした姿まで見ていたらしい。
「不死王様。どうか、その研鑽の果てを、この端くれに……」
地面にこれでもかと、額をこすりつけ、レヌンは不死の法を懇願する。
その目的は、現国王ロレスマークへの復讐。
(面倒な男に目をつけられたものだ)
不死の法など、生身の人間が知ったところでロクなことにならない。
私は適当にごまかし、煙に巻くことにした。
だが、この男は諦めない。私が街を歩けば影のように付きまとい、食事も必要ない私に差し入れをし、隙あらば魔法理論の議論を吹っかけてくる。
いつしか私は、彼を退屈しのぎの話し相手として、そばに居ても気にならないようになっていた。
◇◇◇
ある夜、いつものように私は薬草屋で店主からレクチャーを受けていた。
最近は色々な薬草の知識を吸収することに夢中なのだ。
そこに現れたレヌンが、愚痴をこぼした。
「王城を包む結界……あれがある限り、私の復讐は届きません。まさに鉄壁です」
私は薬草の匂いを嗅ぎながら、つい反応してしまった。
「必ずどこかに結界のない場所がある。もちろん衛兵が立っている箇所は張られていない。さらにもう一ヵ所あるんだ」
「そうなんですか?」
「まあ、それを見つけるのは難しいと思うが……」
私はそれ以上詳しくは語らなかった。
しかし、目の前の男が、たったそれだけで執念深く探し出すとは思いもしなかった。
◇◇◇
後日、それからしばらくしたのち。
ロレスマーク王とその一族が王城に集った、祝祭の夜。
王城を覆っていた結界はそのままに天地を揺るがす轟音とともに、王城が下から崩落した。
燃えることなく、瓦礫の土埃をまき散らすことなく、結界の中で王城は消えた。
轟音と振動がなければ、王城が消えたことに気づかなかったかもしれない。
私はいつもの薬屋から出て、呆然と空を見上げた。
城は跡形もない。王一族は、その瓦礫の下で全滅しただろう。
しばらくして、埃まみれのレヌンが私の前に現れた。
その瞳には、長年の呪縛から解き放たれた者の、空虚な輝きがあった。
「不死王様……。あなたのおかげで、王の首を取れました……」
レヌンは私の足元に膝をつき、涙を流して感謝を述べた。
「やってくれたな。まさか城を粉々にするとは……」
私は頭を抱えた。
聞けば、彼は王の地位にも、その後の権力にもまったく興味がないという。
ただ、殺したかった。それだけのために、私の失言をヒントに目的を達成したのだ。
一国の王家が消滅し、城が崩れた。次の王の誕生まで国全体が安定することはない。
せっかく気に入っていたこの街が、混乱の渦に巻き込まれてしまう。
「おいレヌン、泣いている場合か! このあとはどうするんだ?」
「不死王様。私にはもう、未練はありません……」
「ふぬ……」
数百年の眠りから覚めた不死王は、図らずも一国の滅亡に加担してしまった。
その後悔と、この街の未来を思い、眼窩に宿る紅い焔が力強く灯り始めた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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