不死王からの招待状
聖水の光に包まれ、体を失ってからしばらく経った。
地面に転がった漆黒の腕輪――それが今の私の姿だ。それを、少年がつま先でつつく。
「死んだ、のかな?」
《勝手に殺すな》
突然、頭の中で響いた私の声に、少年は目の前の腕輪を何度も何度も踏みつける。
私は少年の行動に構わず、霧散した体を繋ぎ止めるべく魔力を練り始めた。
私の体が徐々に再生していく――
再生していく私を茫然と眺める少年。
その瞳に邪悪な光が宿り始めた。
「……なあ、骨の旦那。魔法が使えるんだろ?」
少年は再生していく私の姿を見上げ、ニヤリと笑った。
「一生のお願い! 旦那が使ってた『誰からも見えなくなる魔法』をかけてくれない?」
(ほぅ……)
完全に体が再生した私はしばらく考え、パキッと首の骨を鳴らした。
「よかろう。だが、姿が見えないだけだとケガをするかもしれないからな。『衝突回避の魔術』もかけてやろう」
「最高だよ、旦那!」
術を施された少年は、意気揚々と駆け出していった。
その背中に、私がどれほどの親切心を詰め込んだかも知らず――
◇◇◇
あの骸骨のおかげで、商会の外に立つ男たちのそばを通っても、誰も気づかない。
少年は、街の外れにある貸金商会に潜入していた。
開いている扉から建物に入り、内階段を上っていく。
少年が二階の扉の取っ手を掴もうとした瞬間、奇妙なことが起きた。
指が触れる直前、まるで磁石の同極同士が反発するように、取っ手を触ることができない。
(ん?)
試しに壁を触ろうとするが、結果は同じ。
触れようとしても、直前に見えない壁があるように、指先一つ掠めることすらできない。
(骸骨のしわざか?)
せめて借用書だけは処分したい。最低でも在処くらいは把握しておこうと散策する。
そして、建物の最上部まで探しにやってきた、その時。
「…………っ」
少年の動きが、凍りついた。
建物の最上部の奥。陽光が差し込む特等席で、一人の男が優雅に日向ぼっこをしていた。
逆光に塗りつぶされ、一見するとそれは、ただの黒い人間の横顔にしか見えなかった。
少年はさらにそっと近づく。
人間と思っていた頭部の眼窩に宿る紅い焔を認識した瞬間、少年の背筋に凍りつくような戦慄が走った。
(あれは、あの骸骨……)
骸骨は少年を見ようともせず、低く、重圧の籠もった声で告げた。
「金を返しに来たのか? 少年」
普段の温和な響きは微塵もない。
そして、立ち尽くす少年の前で、骸骨は肉のない顎を歪め、カタカタと鳴らしてみせた。
少年の脳裏に、あの日の光景が蘇る。
自分だけが見えていたのではない。あの骸骨が、自分にだけ見せていたのだと。




