裏と表の長は一息つく間もない
王妃お披露目の前日の朝。
コマゾスは目覚める。
地下の食糧庫で。
そこには銀の分厚い天井と壁がある。
ここでは魔法の干渉を受けることはない。
昨日は玉座の間で書類仕事にこき使われた。
後ろに不死王が立って常に監視している状態では、休憩すらままならなかった。
このままのペースで働き続けると確実に寿命が縮む。
麻袋に首を預け、目を閉じた。
しばらくして、給仕係がやってきた。
「コマゾス様。食事をお持ちしました」
「わかった……」
~~~
「なぜ、これを否認する?」
「?」
突然、首をガシッと掴まれた。
「ぉゎゎ……」
「なぜ、これを否認する?」
目を開けると、昨日、コマゾスが否認した稟議書がある。
振り返ろうにも首を掴む手の力が強く、全く動けない。
「城?」
「そうだ。約束の時間になったからな。次は私の質問に答える番だ。否認の理由は?」
やはり不死王だ。
銀の壁は不死王には効果がないのか……。
「どうした? 何を考えている?」
首を掴む手の力が強くなる。
必死に思い出す。
不死王の苛立ちが首からじわじわと伝わってくる。
「それは……根拠の一部に疑問がありまして……」
「その場合は保留でいい。調査依頼を出して、その結果を待ってから判断すればよかろう」
不死王はコマゾスの首を離さない。語気の強弱に比例して、首の締まり具合が変わる。
コマゾスの引きつった唇がわずかに震えた。
◇◇◇
アバンフ、中央の塔。
アバンフの新しい長となったモノジの執務室。
朝一番にモノジの補佐ボイトがやってきた。
キチッと髪を整えた姿勢のいい男だ。モノジより少し年下の30才くらいだろうか。
澄ました顔で淡々と報告する。
「一晩中探したのですが、王都からの書類は見つかりませんでした。そもそも存在しないようです」
モノジはボイトの胸に目をとどめたまま、しばらく黙り込んだ。
「わかった。……で、その子は?」
「はい。今日から新しく執務の補佐を担当するティクシーです」
ティクシーは深々と頭を下げる。
まだ若い女の子だ。
「向かいの部屋に待機しておりますので、何なりとご用命ください」
「わかった」
「それでは失礼します」
二人が出て行くのを見届けると、モノジは振り返った。
そこには銀色の鎧が鎮座している。
「おそらく彼女もヴァンフの配下でしょうね」
銀色の兜からしっかりと芯のある女性の声が発せられた。
「そうなの? あの初々しい感じからは想像もつかないけど……」
「くれぐれもお気を付けください」
モノジは不死王への連絡板を指先でなぞる。
『陛下、書類が見つかりません。そもそも存在しないようです。』
書き終えると、連絡板を裏返しにした。
コン、コン
「どうぞ」
ヴァンフの秘書サランデが不機嫌そうに立っている。
「ヴァンフ様がお呼びです」
「は?」
「ですから、ヴァンフ様がお呼びです」
「……わかった」
サランデはモノジをにらみつけると勢いよく扉を閉めた。
「行かないですよね?」
「もちろん」
連絡板を見つつ、鎧からの声に応えた。
そこにはすでに不死王からの返答があった。
『処分されたか。すぐに持って行く。』




