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不死王の妃


「王妃?」

「まだ、お会いしたことはないですが、いるみたいです」

「子供でも作られたら大変なことになるぞ」

「できますかね」

「……わからん」

「そもそも死なないんだから、子供ができる、できないは関係ないのでは?」

「馬鹿野郎! 国中がヤツの子供であふれかえるだろ!」

「ヘロックさん……何年生きるつもりなんですか?」



「王妃は我が主だ」


その言葉に、ヘロックとチージョイルの視線が護影へと向けられた。

二人とも口を開けたまま言葉を発しない。


ヘロックは立ち上がると、護影の前まで行って、見上げた。


「正直に答えてくれ……。王妃はまだ子供はできるのか?」

「そこですか?」


チージョイルが目を伏せがちにボソッとつぶやいた。


「おい……なんでしゃべらなくなった」


ヘロックが揺すっても、護影は微動だにしなくなった。


「警告じゃないですか? 不敬なことを言えば、容赦しないぞって……」


ヘロックは振り返ると、再びチージョイルの前に座った。


「冗談だ。王妃には子供はできるだろうか?」


ヘロックは言い終えると、護影の方に素早く視線を送る。

しかし、護影からは何の答えもない。


「ヘロックさん……。答えてくれる条件があるとかじゃないと思いますよ」



ヘロックは落ち着いた表情で護影を見上げ、質問する。


「王妃殿下のもとには、どれくらいお仕えしているのですか?」

「もうすぐ10年になる」


「ほら……」


チージョイルはやっぱりといった表情でヘロックと目を合わせる。

ヘロックは少し眉をひそめると、護影にもう一度質問した。


「子供は産めそうか?」

「……」


ヘロックは一度後ろを向いてから、さっと振り返って、護影を見上げた。


「……」


護影は無反応のままだ。

チージョイルは護影にさらに質問した。


「王妃殿下はどちらの方ですか?」

「セレスティオンの王女だった方だ」


「セレスティオン……ヘロックさん、聞いたことありますか?」


チージョイルはヘロックに話しかけるも全く聞いていない。

ヘロックは期待のまなざしで護影を見上げて質問する。


「王妃殿下はいくつですか?」

「27だった」

「産めるじゃねぇか!」


ヘロックはそう言った直後に護影に右肘を突き出した。

しかし、護影は避けようともせず、ビクともしない。

冷たく硬い鎧の感触を右肘に感じたまま、ヘロックは護影を見上げ、固まった。


チージョイルは護影の言葉に目を伏せると、首を傾げた。



◇◇◇



漆黒の巨城、玉座の間の一つ下の階。

そこはところどころに白い柱、藍色の床と天井があるだけ。

夕日が差し込み、白い柱の一部を朱色に染めていた。


その中央に封をされた一つの柩が置かれていた。

それは王妃(エリヴァティス)の本体。

その柩を囲むように何人もの鎧男たちが膝をつき、頭を下げている。



柩から音もなくエリヴァティスが現れ、上半身だけが起き上がった。

しばらく、夕日を見つめる。

その瞳からは絶え間なく、涙が流れていた。

流れた涙は音を立てることもなく、柩の蓋に吸収されていく。


その近くで祈るように、ひたすら頭を下げ続ける鎧男たち。

夕日に照らされ、見る角度が変わると、エリヴァティスは消えたり、現れたりを繰り返していた。



---------

【あトがき】

ヘロックは取り出した古い書物を開く。


「それよりもだ。これを見てくれ」

「どうしたんですか?」


書物を受け取ったチージョイルは目を大きくした。

開かれたページには商会長の奥さんの姿が描かれていたのだ。


「なにやってるんですか!」

「婆を封印してやったぞ」


ヘロックは目をつむって、腕を組み、してやったりの表情を浮かべる。


「物を勝手に売り払うのもダメですけど、これはもっとダメです!」

「は? こいつは必要な時以外はこうしておいたほうが、みんなのためになるんだよ」


ヘロックは静かにうなずいた。

人差し指を立てると、いやらしい顔で少し声を落として言葉を続けた。


「次は……だな……」

「護影さえも封印できなかったんでしょ? ムリですよ……。逆に封印されますよ?」


それを聞いても、ヘロックの表情はまったく変わらなかった。


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