不死王の診立て
アバンフから治癒師を呼びに兵士が大聖堂にやってきた。
しかし、そこにいたのは治癒師の姿をした不死王。
兵士が強引に引きずってつれて行こうとするもビクともしなかった。
「説明してもらおうか? 話はそれからだ」
治癒師の問いかけに兵士は反応すらしない。
兵士は治癒師の手首を持って、力づくで引っ張ろうとするが少しも動かない。
兵士は治癒師の顔を一度のぞきこんだ。そして、顔をゆがませながら引っ張る。
治癒師が兵士に話しかける。
「話をする気がないのか?」
「……」
治癒師は兵士の首を素早くグッとつかんで持ち上げた。
「んががが……」
兵士がうめき声をあげる。
「……話をする気がないのか?」
「んががが……」
モルネック、薬屋の主人はドン引きで治癒師の行動を見ている。
その中でチージョイルは迷っているようだった。
チージョイルは治癒師の耳元で周りに聞こえないように話す。
「陛下、それではしゃべりたくてもしゃべれないです」
「うむ」
治癒師が手を離すと、兵士はうなだれ座り込んだ。肩で息をしている。
「ハァ、ハァ……。アバンフの、ロレンスマークとオルトの容態が思わしくありません……。一刻を争います。来ていただけませんか? お越しいただけませんか?」
「うむ……」
治癒師は何かを考えるかのように歩き始める。
そして、大聖堂の入口まで来ると振り返った。
「チーくん。あとは頼んだぞ」
「……はい? 行くんですか?」
そして、その兵士が乗ってきた馬に跨った。
無の表情で兵士を見つめる。
やっと気づいたのか、兵士はようやく立ち上がると、少しふらつきながらも歩き始めた。
~~~
治癒師が馬の手綱を持ち、その後ろで兵士は治癒師に抱きついている。
アバンフの城門まで一気に駆け抜けると治癒師は軽やかに下りた。
同時に治癒師に抱きついていた兵士はバランスを崩し、地面へと叩きつけられる。
「いい走りだった」
治癒師は馬のおしりをさする。
そして、倒れ込んで咳き込む兵士に話しかけた。
「行くぞ……お主に治療が必要ではないのか?」
「私はいいです……急いでください……」
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地下食糧庫。
兵士隊長は治癒師を連れてきた兵士に声を掛ける。
「よくやった」
肩を二回叩く。兵士はその場に座り込んだ。
そして、兵士隊長が自ら、治癒師を案内する。
「こちらになります」
治癒師は軽く頷くと兵士隊長とともに地下食糧庫の中へと入っていった。
「人を出してくれないか。治療に集中できない」
「えっ?」
一瞬固まる兵士隊長。
「……わかりました。何かあれば、外に待機しておりますので……」
そういうと兵士隊長は数人の兵士と中に残っていた要人を引き連れて外へと出て行った。
庫内から出て行くのをしっかりと見届けた治癒師。
次の瞬間には、不死王は元の姿に戻っていた。
腰を屈め、二人に触れることなく、その様子を丹念に見る。
ロレンスマーク、オルトは土色の顔色。呼吸も浅い。
背筋を伸ばして真っ直ぐ見る。
(……私には無理だ……)
不死王は消えた。
◇◇◇
神聖国との国境付近の湖。
その上空で不死王は下を見下ろしていた。
その目線の先には山の斜面を浮き輪で滑走するラスティネルの姿。
真剣な表情で浮き輪で高速移動する技術を磨いている。
(うむ……)
(……やめておくか……)
不死王が消えて、しばらくした後。
そこには何もいない空間を見上げるラスティネルの姿があった。
~~~
石で作られた小さな祠。
その中でシーチェルダは静かに祈りを捧げていた。
不死王は祠の外に立っていた。
ただ、その祈りはいつ終わるかわからない。
(取込中なら仕方ない……)
不死王は振り返り、見上げる。
そこに見えるのは神聖国の中央にある石造りの楼閣。
その最上階でオミユシが窓辺で外の景色を眺めているのが見える。
(うむ……いちばんヒマそうだな……)




