王妃に会いたいヘロック
漆黒の巨城二階の打ち合わせスペース。
その日の朝もチージョイルとヘロックはおしゃべりに夢中だった。
ヘロックの後ろに二人を監視するように護影が立っている。
チージョイルとヘロックは普通に会話していたが、途中でヘロックの動きが突然止まった。
チージョイルも突然、空気が変わったのを感じて、だまってヘロックの様子を見守る。
しばらくすると、ヘロックはうつむいたまま話し始めた。
「王妃に会わせてくれないか?」
言い終えると、素早く振り返り、護影に視線を送る。
「ハッハッハッ」
護影は笑うだけ。その笑い声だけで動きはない。
ヘロックは一度元の体勢に戻る。
「王妃に会わせてくれないか?」
再び同じセリフを言い終えると、素早く振り返る。
「ハッハッハッ」
護影は同じように笑うだけ。
ヘロックは眉をひそめて、チージョイルの方向に体を戻すと、たずねた。
「どういうことだ? わかるか?」
「『おまえらの普段の言動を見ていて、大切な主を会わせるわけないだろ、片腹痛いわ』ってことじゃないですか?」
チージョイルが言い終わるのと同時にヘロックは声を出す。
「王妃……」
すぐに振り返って護影の目を見つめる。
「ハハッ」
「王妃……」
「ハハッ」
「お」
「ハ」
ヘロックがわずかに口を開けると、護影の口もわずかに動く。
「おい」
「ハハ」
「なんでもいいじゃねぇか!」
ヘロックは護影の腹に向かって、右ひじを強めに突き出した。
もちろん、護影はビクともしない。
残念そうにヘロックを見ていたチージョイルが穏やかに護影にたずねた。
「王妃殿下は外にお出にならないんですか?」
「……体調が優れなくてな……一日中安静にしておる」
「まさか……身ごも……」
ヘロックは目を開いて、床を見つめ、動きを止めた。
そして、大きな声を出した。
「そういうことか!」
ヘロックは護影の手を揺する。
「ハッハッハッ」
ヘロックはチージョイルを見ることなく、護影の目を見上げ、つぶやいた。
「これは大変なことになったぞ……」
「何がですか?」
ヘロックの言葉にあきれたようにチージョイルは言葉を返した。
「三つ子だったら大変なことになるぞ」
「落ち着いてください」
ヘロックは護影の目にできるだけ近づくと、たずねた。
「王妃は母になるんだな!」
「ハッハッハッ」
護影の反応を確認したヘロックは真剣な目でチージョイルを見て言った。
「ほら、見てみろ!」
「違うと思いますよ」
チージョイルは素早く、早口に返した。
◇◇◇
大聖堂。
その前で馬の足音が止まった。
一人の兵士がすでに開いていた入口から中に入ってくるなり、上ずった声を上げた。
「治癒師はおられるか?」
その兵士は中を見渡すと|治癒師の法衣を着た女性《ラスティネルの姿をした不死王》のもとへとまっすぐ歩を進める。
「至急、診てもらいたい」
「う……」
兵士は返事を待たず、不死王の腕をつかむと、強引に引っ張ろうとする。
しかし、不死王はビクともしない。
兵士は唖然として引きつった顔で不死王を見上げた。
「説明してもらおうか? 話はそれからだ」
治癒師の女らしからぬ口調にさらに顔をひきつらせた。




