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アバンフの裏ボス


アバンフ(前の王の直轄領)の中央にある塔。

その地下。そこに急きょ、会議室が作られた。

食糧庫の中に無理やり空間を作っただけ。

そして、扉の外には、槍を持った兵士が横一列に並び、まるでまばたきを忘れたかのように、微動だにせず立っていた。




薄暗い室内。

窓がない。


そこでろうそくを灯し、アバンフの要人たちがヴァンフを中心にこそこそと話し合いをしていた。

麦などが詰められた袋が山積みされている部屋で、袋を思い思いに椅子や机代わりに使っていた。


部屋の隅にはロレンスマークとオルトの姿もあった。

二人は麦袋の上に仰向けに横たわっており、全身が土気色になっている。



換気ができず、地下の空気はこもっていた。


要人たちは自分のタイミングで外に新鮮な空気を吸いに行ける。

だが、ロレンスマークとオルトは安全上、それが許されない。

そして、いつのまにか周囲に気づかれることもなく、二人の命は静かに削られていた――



◇◇◇



この町アバンフの裏の顔――コマゾス(ヴァンフの親玉)

貨幣発行による資金力。この町の兵士たちは実質、彼の私軍だった。

中央塔の最上階に居を構え、青々と茂る蔓の陰から眼下の景色を悠々と見下ろしていた。


そこへ、兵士隊長シエンスが地下から上がってきた。

息が上がって呼吸もままならない状態だが、コマゾスの背後にたどり着くと、そっと膝をついた。

会議室に侵入した者についての報告を始める。


報告の途中でコマゾスが尋ねる。


「王都の回し者か?」

「わかりません」


「確認しなかったのか?」

「……こちらの問いかけに応じず……わかりませんでした」


不興を買うのを恐れたシエンスは話の矛先を変えようと、自分の成果を強調した。


「念のため、全員、地下に避難させました」



コマゾスは退屈そうに報告を聞き終えると、細長い透明なグラスに入った黒い液体を一気に飲み干した。


「全員無事か……突然現れたら、どうしようもないな。厄介極まりない……」

「地下は銀の壁で仕切られています。そういうことはできないかと……」


「もし、ここに突然現れたらどうする?」

「全力でお守りします」


「まぁ、わからんだろうな。裏で糸を引くのが作業着姿の男とはな」


コマゾスは独り言のようにつぶやくと、立ち上がり、塔の端へと向かって歩く。

その後ろをシエンスもついていく。


「オルトは必ず生かしておけよ。優秀な男だ。どこかで使える」


コマゾスはそう言うと、塔の下の町の景色を目を細めて眺める。


「あともう一つご報告が……死霊兵をすべて始末しました」

「ほう……やっとか……」


石造りの手すりに手を置き、コマゾスはシエンスに値踏みするような視線を向けた。


「なぜ今、始末できた? やり方を変えたのか?」

「それは……」

「向こうが手を引いたのではないか? 本当に始末したのか?」

「いえ。始末したのは間違いありません」


シエンスはきっぱりと答えた。

コマゾスは冷たい視線をしばらく浴びせたあと、塔の縁に沿って歩き始めた。



◇◇◇



大聖堂。

豪勢な装飾に彩られた白を基調とした内装。

その中で五人の大人が立ち話をしていた。


モルネック夫人(ヨトフ母の元世話人)チージョイル(医療の責任者)護影(チージョイル専属護衛)。そして、薬屋の主人と治癒師ラスティネルの姿をした不死王。

治癒師がいなくなり、使われなくなった大聖堂をどうするかについて話し合っていた。


「治癒師はお呼びにならないのですか?」


モルネック夫人がチージョイルに問いかける。

彼女はヨトフ母の世話人を辞めて以降、準文官として王都の医療行政に携わっていた。


「基本は薬による治療を行います。治癒師は必要な時だけ呼ぶことにします」


その答えを聞いたモルネック夫人の顔がわずかに歪んだ。

貴族であれば、治癒師を私邸に招いて治療してもらうのが当然だったからだ。

効果があるかわからない市井の薬に頼るなど考えられない。


納得のいかないモルネック夫人は治癒師(不死王)に問いかける。


「それで問題ないのですか?」

「うむ…………治癒師の人間がいないので仕方ないのです。私を含めて二人しかいません」


不死王は、治癒師の姿になっていたことを途中で思い出した。

ごまかすように指先で火薬玉を前後に転がす。


「そこでご主人。ここで薬屋を開業していただけませんか? 自由に使っていただいて構いません」


チージョイルが薬屋の主人へと視線を向けた。


「承知しました。それでは、早速準備にかかります」


事前に根回ししておいたおかげで主人は快く応じてくれた。

大聖堂の天井や壁などを見上げ、改装のイメージを膨らませているようだった。


その姿を見たモルネック夫人の顔が明らかに歪みかけていた――その時。

大聖堂の正面で、馬の足音が止まった。


---------

【あトがき】

塔の地下までやってきたシエンス。

帰る前に一度寄ることにした。


シエンス 「変わりはないか?」

兵士 「ありません」


その答えを聞くと、「あとは頼んだぞ」と言って、すぐにシエンスは帰路についた。

地下から出て、地上の空気を吸った瞬間、立ち止まる。

再び地下へと早足で引き返すと、兵士をかき分け、食糧庫の中へと入っていった。


そこで目にしたのは、虫の息となったロレンスマークとオルトの姿だった。

シエンスは急いで治癒師を呼ぶため、そばにいた兵士の一人を使いとして出した。


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