アバンフ強襲②
アバンフの中央にある塔。その中の会議室。
アバンフの要人たちがいるその部屋に不死王たちが乗り込んだ。
ロレンスマークの前に立ちふさがる兵士たちに向けて、護影は木の棒を水平に振りぬいた。
ブンッ
兵士たちの剣先をかすめ、少し押し込んだ。
そして、戻って行く木の棒の風圧で元の位置へと収まった。
「話をするだけだ。前を開けろ」
護影は兵士たちに静かに説得を試みる。
しかし、それでも道を空ける素振りすら見せない。
ヨトフが話しかけようとすると、後ろに控えている兵士たちがロレンスマークとオルトの耳を塞ぐ。
話をさせない徹底ぶりに、さすがの護影もお手上げだ。
「これはムリでしょう……」
護影がぼやく。
「うむ……甘く見すぎていたな……」
そう言うと、不死王は歩みを進め、チージョイルの持っていた書類の前にだまって手を差し出す。
チージョイルから書類を受け取ると、一瞬でヨトフたちを漆黒の巨城へ戻し、一人、ロレンスマークの背後に回った。
耳を塞ぐ兵士の手をはがすと話しかける。
「おまえがロレンスマークか?」
「……はい」
ロレンスマークが頷く。
隣に座る男の耳を塞ぐ兵士の手もはがす。
「うむ……それでオルトだな?」
「はい」
ようやく不死王が移動したことに気づいた剣を持った兵士たち。
その剣が次々と不死王へと何度も振り下ろされる。
それを書類を持つ手の甲で軽く受け流しながら、オルトの耳元で話を続ける。
「これは今の王国とアバンフの交渉資料になる。よく読んで態度を決めてほしい。本当は説明したかったが、この状況ではキリがない。後日、返事を聞きに来る。楽しみにしているぞ」
不死王は資料をオルトの手にしっかりと握らせた。
オルトの資料を握る指がわずかにギュッとなる。
そして、兵士たちの剣を手の甲でいなし後退させながら、今度は反対側の奥にいるヴァンフへと歩みを進めた。
最初はためらいながら剣を振り下ろしていた兵士たちも次第に全力で振るうようになり、その体力は尽きかけていた。
その時。
扉がぶち破られた。扉は開かれることなく部屋の中へ扉毎倒れた。
バァン――!
部屋中に風が伝わる。不死王の着ている白い法衣も舞うが、気にすることなく歩みを進める。
そして、一斉に押し寄せる兵士たち。
――その場の明らかな"異物"はラスティネルの姿をした不死王しかいない――
兵士たちは不死王の背中に向かって剣を構える。その後ろで弓を構える。さらにその後ろでは火薬玉に火をつける。
その中。
何本かの矢がフライング気味に放たれた。
矢は要人たちのいる壁までしっかり届き、床に落ちた。
また、なぜか火薬玉も一つ転がされる。
それは不死王の足元を通り過ぎ、ヴァンフの足元へと勢いよく、転がっていく。
ヴァンフが兵士たちに向かって必死に叫ぶ。
「馬鹿野郎! 当たるだろうが!! 誰だ! これを投げたのは!」
怒りの形相で火のついた火薬玉を拾い上げて顔を上げると、歩み寄ってくる不死王がヴァンフに話しかけてくる。
「お前がヴァンフだな? 話を聞こう」
「そんな状況じゃねぇだろ!」
ヴァンフは徐々に火縄が燃える火薬玉を振りながら、部屋全体に響き渡る大声を張り上げた。
不死王の後ろにいる臨戦態勢の兵士たち。
それは部屋いっぱいに横一列で並び、三段構えで小娘へとじりじりと距離を詰めていく。
ヴァンフは小娘が只者ではないことにようやく気づいた。
小娘は背後を詰められているにもかかわらず、振り返りすらせず、自分に近づいてくる。
そして、目の前まで来ると、感情のない目で見つめ、たずねた。
「おまえは銅を何に使ってる?」
「……」
小娘が顔を近づけると、スッと喉元を強く押さえ、じっと目を見る。
「硬貨を作っているのか?」
「……うぐっ」
声が出せない。
「わかった。ありがとう」
「あっ?」
ヴァンフは手を振り払う。
すると、小娘は手を差し出してきた。
その手を見つめ、困惑して動かないヴァンフに、もう一度、火薬玉を渡せと言うように指してから手を差し出す。
もうすぐ爆発しそうな火薬玉をわずかに震える手で渡した。
火薬玉が手から離れた瞬間。
小娘の姿は目の前から、あとかたもなく消えた――
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【あトがき】
アバンフの兵士たちが扉を倒して会議室になだれ込んだ時。
不死王と要人たちがいる左側に向かった兵士たちは横一列にならび三段体勢を整えようとしていた。
一方、ロレンスマークとオルトの右側に向かった兵士たち。
特に危険がないと判断した兵士隊長が兵士たちを押しのけて、ロレンスマークたちの前へと出る。
兵士隊長 「さぁ、こちらへ」
ロレンスマークたちの反応を見ることなく、肩を荒々しく掴むと、会議室の外へと連れ出した。
オルトの持っていた書類はある兵士に無下に払い落とされた。
そして、兵士たちに次々と踏みつけられ、無残に散らばっていった。
オルトはその散らばった書類を見て無念の表情を浮かべると、兵士たちに連れられ、部屋を出て行った。




