ヘロックと不死王
漆黒の巨城の最上階、不死王の執務室。
不死王はローブを脱ぎ、丸椅子の上に畳んで置いた。
奥の棚から少し黄土色になった包帯を取り出す。
そして、室内階段を静かに上ると、ノックもせずに扉を開けた。
ほぼ何もない板張りの中央で小さな婆さんが目をつぶって座っている。
手に持った包帯を差し出す。
「婆さん、頼む」
婆さんは片目だけ開けた。
面倒くさそうに立ち上がる。
包帯を手に取ると、不死王の頭から順番に巻き始めた。
~ミイラのようになっていく不死王~
不死王の全身に包帯を巻き終えると、婆さんは目をつぶって、不死王のまわりをゆっくり歩く。
一周したのち、目を開けた。
「ほぼ感じないね」
◇◇◇
漆黒の巨城二階の打ち合わせスペース。
チージョイルはいつものようにヘロックの戯言に付き合っていた。
ヘロックの後ろにはいつもどおり、全身鎧の護影が微動だにせず立っている。
ヘロックは机の上で古い書物を開いて見せる。
「これ、すごく高かったんだぞ」
「わかりましたよ。商会の資金で買ったんですか?」
「婆の私物を売った。本人もきっと喜んでいると思う」
「承諾なしにこっそり売ったんでしょ。最低ですね。見つかったら、殺されますよ」
「返り討ちにしてやるよ」
ヘロックは誰もいない方向に向かって右肘を何度も振ってみせる。
チージョイルは片肘をついて頬に手を当て、ヘロックの姿を見つめた。
「本人が直接手を下すとは限りませんよ。ヘロックさんみたいにね」
「おい」
ヘロックは椅子の上で座り直した。
「早速使ってみるか? 見とけ」
「……」
ヘロックは最初のページを開くと、ぶつぶつと読み始めた。
指先を当てながら読んでいく。
2回読み終えると、何も書かれていないページを開いた。
そのページはほのかだが輝いているように見える。
それを開いたまま、書物を伏せ、両手で端を持つ。
息を静かに吐く。
ヘロックは素早く振り返ると、輝きを放つページを後ろの護影の顔に押し当てた。
護影はまったく避けようともしない。
兜をかぶっているので目の部分しか穴がなかったが、呼吸をしているようには感じられなかった。
カタッ
ヘロックは手に伝わってきた振動に、何度かまばたきした。
振動を感じた場所を見たいが、書物が触れている部分。封印が終わるまでは離すことはできない。
封印に必要な時間は十分経った――
ゆっくり書物を離すと、護影に押し当てたページを期待の眼差しで見た。
しかし、そのページは輝いたままで何も描かれてはいなかった。
「使えねぇじゃねぇか!」
ヘロックは書物を床にぶん投げた。
書物は途中のページを輝かせたまま、紫のローブを着た包帯人間の足元まで滑っていった。
不死王はその本を拾い上げ、裏表を見る。
「うむ……変わった本だな」
そう言うとヘロックに手渡し、しっかりと持たせる。
それが不死王とは思いもしないヘロックは、いきなりそこにいた包帯人間にただただ唖然とするだけだった。
チージョイルはさりげなく、片肘をついていた姿勢を正した。
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【あトがき】
包帯人間の後ろにはもう一人いた。
気配すらない。もう一人の護衛。
不死王「チーくん。どうだ?」
チーくん「どうだと申しますと?」
不死王「どうだ? 感じるか?」
チーくん、目線を横に左右に動かし、何かを探ろうとする。
不死王「うむ」(満足そう)
不死王「少し護影を借りるぞ。代わりの者を連れてきた」
そう言うと不死王は後ろの護衛をチーくんに紹介する。
チーくん「ん?」(すごく小さな声)
チーくんは新しい護衛と今までの護衛を何度も見比べたが、まったく同じ鎧男にしか見えなかった。




