レヌン救助
漆黒の巨城、最上階にある不死王の執務室。
そこで不死王は机に手をつき、壁を前に頭を垂れて固まっていた。
ミオン専用の連絡板には、こう書かれていた。
『レヌンが落ちました』
「また、レヌンがやりおったか!」
ネクロマンサーの婆さんが壁に掛けられた連絡板を見て、笑みを浮かべた。
不死王はその言葉を聞いて、我に返ると、つぶやいた。
「じっとできんのか……」
「どこに落ちたんじゃろな?」
婆さんは机に座り、丸椅子の上に足を置く。
「これから行ってみる。死んだかもしれんな……」
不死王は連絡板に人差し指の先で触れて、文字を消すと、自身も消えた。
◇◇◇
「おい」
レヌンはまばたきをしながら、目をゆっくりと開ける。
冷たい土の上、うつぶせで倒れていた。
カビ臭く、埃っぽい。
それに何より背中が重い。
「おい」
額を押さえつけられ、暗いのと視界がぼんやりしていて状況がつかめない。
ただ、その骨々しい感触……。それはあの人しかいない。
「陛下……」
「うむ……。帰るぞ」
不死王はレヌンの首根っこを掴むと、右肩に乗せた。
そして、静かに足が地面から離れる。
その時。
青白い艶やかな手が横からスッと現れた。
骨だけの指を掴んで、ギュッと握りしめる。
不死王は振り払おうともせず、手の主に視線を送る。
「ついてこれるか?」
不死王はそう言うと、自身の体にまとわりつく三つの影の動きが止まるまで待った。
そして、天井の光に向かって、ゆっくりと上がって行った。
◇◇◇
不死王は立ち尽くしていた。
その右肩には力なく腕を下ろすレヌンが乗っている。
そこはあたり一面、草木が生い茂っていた。
時折、吹く風がサワーッと波のように伝わって行く。
周囲を見渡す。
首を振った時、顔に巻いていた包帯の一部が垂れた。
すると、視線の先、草むらから爺さんがひょっこりと顔を出した。
爺さんが不死王を見て、うなずく。
不死王は爺さんのもとへと歩みを進めた。
小屋に入ると不死王はレヌンを仰向けに寝かせた。
爺さんはレヌンの体を頭からつま先までじっくり見つめながら、質問する。
「どうした?」
「緑の秘薬はあるか?」
爺さんは立ち上がると、隅から茶色い陶器の壺を持ってきた。
「高い所から落ちて骨が折れたかもしれん……」
「こやつはホントによくケガするな……」
そう言うと爺さんはレヌンの額をペチンと叩いた。
レヌンはそれに反応して閉じたまぶたをピクピクさせた。
◇◇◇
漆黒の巨城、玉座の間。
そこには不死王の他に二人いた。
全身鎧男とひどく顔色の悪い女。
男の方は兜の目が真っ黒で、生きている人間であるかさえわからない。
女の方は悲し気に玉座の間の窓から見える空を黙って見つめている。
「この下の階はそなたらで自由に使ってよい。約束は守れよ」
不死王が後ろで手を組みながら少し歩くと、床を見つめ、立ち止まった。
すると、座った姿勢の筆頭文官が突然姿を現した。
尻餅をつかないように、即座にヨトフの肩を支える。
「急に呼んですまない……」
不死王はヨトフが落ち着くまで待った。
そして、背中を押しながら、二人の前まで連れて行く。
「紹介しよう。王妃とその親衛隊の一人だ」
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【あトがき】
実は、緑の秘薬を作る爺さんの所に行く前、不死王はレヌンを連れて、ラスティネルの所にも行ってます。
ラスティネル 「誰?」
ミオン 「旦那だよ」
ラスティネルは不死王の包帯ぐるぐる巻きの顔を近くで覗きこむ。そして、さらにその右肩に乗っている男の顔ものぞきこんだ。
不死王が何か言いかける前に、ラスティネルが力強く答えた。
「イヤです!」
不死王はしばらく固まった――




