ヨトフ、昔馴染みに会いに行く③
王都から西にある町リッジ。
その町の長であるゼノフが昔馴染みのヨトフを招いて食事をしていた。
そこには王国からの交渉案件もあるため、護影を伴いチージョイルも同席している。
ゼノフの後ろには案内人、ヨトフの後ろには専属の死霊兵が控えていた。
「この町はどうなるんだ?」
ゼノフの切り出しに、ヨトフはわずかに笑みを浮かべて答える。
「それはお前さん次第……どうしたい? いっそ、誰かに任せて一緒に来るか?」
ゼノフは書類を見たままで、返事をしない。
「……」
わずかに口を動かし、すごく小さな声で「行けるわけないだろう……」とこぼした。
ゼノフはパンをいつものように噛みちぎると、話題を変えた。
「どうだ? 久しぶりに来ただろう?」
「変わらないな」
チージョイルがヨトフの顔を見る。
ゼノフがその視線に気づいて付け加えた。
「若い頃、二人でこの町の文官として働いていたんだよ」
「前の……前の王の時だな」
「お前は王都に引き抜かれていったが、私はずっとこの町にいる」
「クビになったがな」
ヨトフの自嘲気味な言葉に、ゼノフはいちばん聞きたかったことを静かに聞く。
「なぜ、不死王に下った?」
「……下ったつもりはないが」
「それは下ったということではないのか?」
ゼノフは少しだけ声を荒げ、厳しい目で、ヨトフの首輪を指さした。
その直後、案内人がゼノフの肩に静かに手を置く。
ゼノフは肩に置かれた手にピクッとわずかに反応すると、そっと背筋を正した。
「すまない……」
「王のためでなく、国のために仕事をしている。そうじゃないのか?」
「……そうだな」
案内人はヨトフの言葉にうんうんと小さく頷いた。
チージョイルは案内人のその動きをそれとなく見ていて、口の動きがゆっくりと止まる。
ゼノフは急いでナプキンで口を拭いて、小さな咳をした。
「ところで……仮にそちらの要求をすべて受け入れると何が変わる?」
「基本……これまでどおりだが……徴税とこれが変わる」
ヨトフは何も持っていない手のひらを上にする。
そこから一瞬だけ握りこぶしを作って、すぐに開くと黒い硬貨を一枚出し、ゼノフの前に差し出した。
「まずはこの二つを受け入れるか……どうだ?」
ゼノフは差し出された硬貨をかざして眺める。時折、光って模様が見える。
「貨幣はいいとして……徴税官は用済みになるな……」
「これをつける覚悟があれば、いつでも採用するぞ」
ヨトフの言葉に、ゼノフは硬貨を見ながら、わずかに顔をしかめる。
「それは王都でか?」
「この町で。首輪をつけたくなければ、王都に来れば帳簿チェックと監査の仕事は与える。どうだ?」
その後も食事を交えながら、仕事の話が続いた。
◇◇◇
翌日、昼すぎの不死王の執務室。
不死王は婆さん、ヨトフ、死霊兵とテーブルを囲んで、いつものゲームをしていた。
地図模型の上に自分の駒をそれぞれ並べていく。
――モルネック夫人――
彼女は病床にあるヨトフの母親の世話人だった。
しかし、化けの皮がはがれ、だんだんと問題行動が目立ってきた。
死霊兵たちの目を経由して、婆さんが教えてくれた。
「最初は仕事の出来る人間だと思ったんだが……」
不死王は独り言のようにつぶやくと、ゲームの駒を動かして、話を続けた。
「とりあえず、担当からは外した」
ヨトフが不死王に聞く。
「なぜクビにしなかったんですか?」
「形だけ出世させて、代えのきく別の仕事をさせる。一線を超えない限りはできる限り利用する」
――ゲームが始まった。
手番が来たら、自分の駒を動かしていく。
相手の駒は一定の距離内にあるか、もしくは見晴らしのいい場所にいない限りは見えない。
不死王は指し手を考えながら、ふと思い出した。
昨日はヨトフたちの送迎だけで話を聞くことを忘れていた。
現場にいたので、内容はわかってはいるが、あえてヨトフに聞く。
「昨日はどうだった?」
「ありがとうございます。交渉もうまく行きました」
「そうか! 残りは三つだな」
「……」
「どうした?」
「東と北は話はできるでしょうが、アバンフは入ることすら、できないのでは?」
「婆さん、死霊兵は入れているのだろう?」
「毎日、しようもない嫌がらせをしてきよるわい」
「そうか……」
不死王の眼窩に小さな赤い焔が灯った。
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【あとがき】
孤児院に行った帰り道。
ヘロックとチージョイルが並んで歩く。その後ろには護影。
ヘロックはチージョイルに胸元から古い書物を少し出して見せる。
「なんですか、それ?」
「ようやく手に入れた。すっ……ごく大変だった」
ヘロックは上を指さして、上下に二回振る。
なんとなく察したチージョイルが返す。
「そんなの、言えるわけ……」
チージョイルがしゃべっている途中で、護影は二人の肩をギュッと掴んだ。
「おまえら、頭大丈夫か?」
その言葉に、ヘロックとチージョイルはしばし見つめ合うと、振り返り、護影の瞳を下からじっと見つめた。




