ヨトフ、昔馴染みに会いに行く②
町の奥にあるゼノフ邸。
その地下で四人は呼ばれるのを座って待っていた。
チージョイルが取っ手のない扉の方をじっと見ている。
そして、ヨトフに向かって何かを言いかけようとした瞬間。
護影はすかさず、首を後ろからわしづかみした。
ごまかすようにヨトフに話しかける。
「ヨトフ殿」
チージョイルの首のしめつけを一段上げて、続ける。
「仮の話だが、もし、誰も呼びに来なかったらどうする?」
ヨトフは目を伏せたまま、即答する。
「辛抱強く待ちますよ」
ヨトフはやさしい目を護影に向けて、続ける。
「なぜなら、案内人は『迎えに参ります』と言ったのですから」
そう言って、ヨトフは死霊兵のひざに手を置いた。
「さすがだな……」
護影は独り言のようにつぶやくと、チージョイルのアゴを上げ、耳元で小さな声で語りかける。
「聞いたか? いたずらに不安をあおっても、おまえたちは何もできない。自分ができることだけをやればいいんだ」
「なんのための護衛なんですか」
チージョイルが小さい声で即座に切り返す。
「何も起きてないのに、何から守る必要があるんだ?」
護影の言葉にチージョイルは目を閉じると、顔の筋肉を緩ませた。
◇◇◇
トン……トン
扉がノックされた。
ゆっくりと開かれると、案内人の少し引きつった顔が現れた。
顔をゆがませながら、重い扉をゆっくりと引く。
地上から新鮮で冷たい空気が入ってきた。
「お待たせして申し訳ございません。準備が整いましたので、お越しください」
案内人は四人を見渡すと、頭を下げた。
ヨトフと死霊兵がほぼ同時に席を立つ。
チージョイルは案内人を茫然と見つめたまま動かない。
護影はチージョイルの首根っこを掴んで席を立った。
◇◇◇
食事の部屋。
ゼノフは食卓の前に立って、ヨトフ一行を迎えた。
死霊兵、護影それぞれが椅子を引くと、ヨトフとチージョイルが座った。
ゼノフもその対面に向かうと、案内人が引いた椅子に腰掛けた。
「お互い、年を取りましたな」
ヨトフが最初に切り出した。
「私はすっかり小さくなった」
「何を言うか。器は大きくなったではないか。私は体は大きいままで、器は小さいまま……」
器が次々と食卓に運ばれてくる。
それを眺めるゼノフがぼそっとつぶやく。
「呼んでおきながら、いつもの昼食だ」
「それでいいんだよ」
「そうか?」
チージョイルが書類の準備を始める。
それを見たヨトフが小声で話す。
「仕事の話は食事のあとにしよう」
「はい」
「物だけ、先に受け取りましょう」
ゼノフはチージョイルから受け取った書類をめくりながら、話し始めた。
「三十年ぶりか……。お前が筆頭文官とは驚いたぞ。どんな手を使った?」
「……。これをつける覚悟のある人間がおらんかっただけかな?」
そう言って、ヨトフは首輪を触って見せた。
ゼノフは目線を上げ、確認する。隣のチージョイルの首元を見つめる。
「チージョイル殿は首輪はないようだが……」
「彼には昼夜問わず、護衛がおりますので」
ゼノフは笑って見せる。
「そうか、それは安心だな。ハッハッハァ」
なぜかゼノフは席を立つと、チージョイルに手を差し出した。
チージョイルはぽかんとゼノフの手を見つめて、あわてて握手に応じる。
その手は痛いほどに力強いものだった。
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【あとがき】
ヨトフたちがゼノフ邸の地下で待たされていた頃、ゼノフの執務室では……。
ゼノフが窓の外の雲行きをぼんやり眺めながら、まどろんでいた。
ふと、胸騒ぎを感じ、目を開ける。
椅子を回転させると、紫のローブを着た顔の見えない人間(?)が立っていた。
ゼノフ「なんだ、貴様は!」
ゼノフは部屋の中に居る人間に目を向ける。
ゼノフの執事「……」
ゼノフの護衛たち「……」
全員まどろみの中にいる。
ゼノフ「つまみ出さんか!」
ゼノフの声は届かない。
不死王はゼノフの頭をわしづかみする。
そして、冷徹で感情のない声をゼノフにあびせた。
「ヨトフとの思い出を語れ。事細かにだ」
ゼノフは、ヨトフとの出会いからの思い出をたどたどしく語り始めた。
しかし途中からだんだんと饒舌になって行く。
不死王はそれを相槌もせず、黙って聞いた。
やがて、ゼノフの話が終わると頭の手を離した。
「かなり濃いな……うむ……」
不死王はアゴに人差し指と親指を当て、つまんだり、はなしたりしながら考える。
部屋の入口で倒れている案内人のところまで行くと屈んでじっくりと全身の観察を始めた。




