ヨトフ、昔馴染みに会いに行く①
朝早く。
漆黒の巨城二階の打ち合わせスペース。
そこではいつものようにヘロックがチージョイルを待っていた。
しばらくして、チージョイルが護影とともにやって来た。
その全身鎧の護影は、チージョイルの後ろからヘロックの後ろへと移動した。
チージョイルが対面に座るなり、ヘロックが興味深そうな笑顔で切り出した。
「孤児院の予算、削ったんだってな?」
「よくそんなことまで知ってますね……」
「仕返しか?」
「私は提案しただけです」
そう言うとチージョイルは目を伏せて付け加えた。
「そもそも仕返しではありませんよ」
ヘロックは中腰になって、チージョイルに顔を近づける。
「冗談だ。リンセンドルク商会の提案もできるだろ?」
ヘロックはそう言うと護影を振り返って見上げる。
護影の瞳をじっと見つめる。
「そんなことしませんよ」
そう言うと、チージョイルは手を組んで目をつぶった。
ヘロックは空の瓶を取り出すと、チージョイルの目の前で振ってみせる。
「今度は何を企んでるんですか?」
目の前の気配を察知したチージョイルは目を開けると、焦点を合わせようと眉間にしわを寄せる。
ヘロックは人差し指を天井へ向け、小さく二度、振った。
「冗談だ。被害者リストが欲しい。被害者たちの無念の涙が効くと聞いた……。冗談だ。」
「……そのうち、『冗談』と言えなくなる呪いとか掛けられそうですね」
ヘロックは腰を浮かせたまま、ニッと笑って護影の瞳を見上げる。
しかし、目の奥は見えないし、相変わらず冷たい視線が向けられている。
「ヘロックさん…………。ヘロックさん!」
ヘロックはチージョイルの問いかけを無視し、護影を挑発するようにさらに近づくと、その目の奥を確認しようとする。
「やめておきましょう。リスクしかありません」
「そうか……。まぁそういうやり方もあるということだけでも覚えててくれ」
「おまえら、度胸あるな」
その声にチージョイルとヘロックは目を大きくして、護影の瞳を見たが、護影は立っているだけだった――
◇◇◇
王都から西へ四日歩いたところ。
そこには平らな森の中にぽつんと町があった。
町には外壁がない。ただ、鬱蒼とした森が外壁代わりのように蔓延っていた。
漆黒の巨城にいたヨトフ一行。
不死王はその町の入り口脇まで一瞬で送り届けると、何も言わず、手のひらだけを見せると消えて行った。
森は静まり返っていた。
しかし、しばらくすると鳥のさえずりなど、にぎやかさが戻って来た。
◇◇◇
ヨトフ一行の四人は町の入り口で待っていた。
ヨトフ専属護衛の死霊兵はヨトフの後ろに寄り添うように立つ。
その後ろにはチージョイル。
そして、その横でチージョイル専属護影がチージョイルの首根っこを掴んでいた。
しばらくすると、一人の中年男がやってきた。
役人の制服を着こなし、背筋を伸ばし、腰から上は落ち着き払っているが、早足で近寄ってくる。
「ヨトフ様。お待ちしておりました」
その男はヨトフだけに軽く頭を下げる。
後ろの三人には目を合わせることすらしない。
「ゼノフより、案内を命じられております。こちらへどうぞ」
ヨトフは軽く頷き、案内人のすぐ後ろを歩く。そのあとを残りの三人もついていく。
案内人は時折振り返りながら、町の通りを進んでいく。
通りも建物も、乾いた土色をしていた。それに覆いかぶさるように木々が立っていた。
住民の姿はほとんどなく、通り過ぎる者たちは皆、避けるように通り過ぎて行く。
「こちらの広場は、昨年作ったばかりです。ゼノフの指示で、区画を一新しています」
案内人は町の設備などの自慢を淡々と続ける。
ヨトフは案内人の話には黙ってうなずくだけだった。
ふと、街角に立つ死霊兵を見やる。
手を挙げて見せるが、向こうから反応はない。
それでも構うことなく、街中で死霊兵を見つけるたびに、笑みを浮かべ手を挙げて見せた。
やがて、ヨトフ一行は町の奥、木造の大きな屋敷に辿り着いた。
それは大人二人分の高さの鉄格子でぐるりと囲まれていた。
外から屋敷への見通しはいい。
しかし、腰ぐらいの高さに整えられた植え込みが幾重にもあった。
門番は門を少し開けて待ち構えていた。
案内人はその隙間から、ヨトフ一行を中へ招き入れる。
門番は門を閉めると、小走りで屋敷に向かい、扉を開けて待ち構える。
案内人はゆっくり歩いて屋敷へと向かう。その後ろをヨトフ一行もついていく。
そして、屋敷に入ると案内人は右側の下り階段を指差した。
「ゼノフは少々取り込んでおります。まずは客間にておくつろぎください」
そう言うと、階段を下りていく。
一階から地下へと続く階段は長い。
天井や床そのものが発光しており、足元は十分に明るい。
コツコツと案内人の靴音だけが響く。
そして、突き当たりに白い扉があった。
案内人は両手に力を込めて、扉を押し開けた。
「こちらです。どうぞ」
部屋は意外に広い。そして、明るい。
白い石壁に囲まれ、真ん中にテーブルと椅子四脚、簡素な寝台も置かれている。隅には水差しと洗面器。
さっぱりとした部屋だ。ただ、地下のためか、窓がなかった。
「のちほど、迎えに参ります。しばらくお待ちください」
案内人は部屋に足を踏み入れることなく、一瞬、扉の重さに顔をしかめると、ゆっくりと静かに扉を閉めた。
チージョイルは閉められた扉をじっと見つめる。
その扉には取っ手がついていなかった――
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【あとがき】
後日、漆黒の巨城二階の打ち合わせスペース。
ヘロック「被害リストは用意できたか?」
チージョイル「それ以上言わないで!」
珍しくチージョイルが大きな声を出す。
護影は静かに腕組みしなおす。
護影「おまえらはホントに懲りないな……」
チージョイル「違うんです!!」
チージョイルは背もたれに背中を投げ出し、目を閉じて天を仰いだ。




