文官のヨトフと不死王⑤ しのびよる不死王の影
漆黒の巨城一階にある面接室。
扉が開いたままだ。
チージョイルはライユチを連れて、部屋の入口から中を覗く。
すでにそこにはヨトフが座って、物書きをしている。
「……」
チージョイルはライユチを制止し、入り口の影からじっとヨトフを見つめる。
不死王? 筆頭?
部屋の中に白く小さな粒子がぽつぽつと落ち始めた。
天井を見上げるが何の異常も見当たらない。
ふと背後からぶつぶつと聞こえるので一瞬だけ振り返る。
そして、もう一度、ゆっくり振り返った。
「何やってるんですか!」
チージョイルはライユチの合掌をやめさせようとしたが、その手は硬く、動かすことすらできない。
肩を揺すり、さらに、人差し指と親指で閉じている目を開けようとする。
しかし、ライユチはその姿勢を崩さない。
そうこうしているうち。
いつのまにか、部屋全体が光の粒で満たされていた。
もうヨトフの姿は完全に見えない。
ライユチが詠唱を終えると、一拍置いて、その光の粒は一点に吸い込まれるように一斉に消えて行った。
そこには変わらない姿で何事もなかったかのように、ヨトフが物書きをしていた。
ヨトフの手元の紙が一度だけワフッとなびいて元に戻った。
それを押さえると顔を上げ、チージョイルたちに視線を向けた。
チージョイルはヨトフと目が合うと一礼した。
即座に後ろで動こうとしないライユチを引っ張ろうとする。
しかし、ライユチは手足が震え、一歩も踏み出せない。
肩を支え、椅子まで強引に連れて行く。
「すみません。急に体調を崩したようで……面接は問題ないのでお願いします」
そう言って、チージョイルは部屋を後にする。
「君は私の隣に座りなさい」
ヨトフからのまさかの一言に固まった。
そして、振り返ると、また固まった。
ヨトフがやさしく手招きをしている。
ヨトフの隣まで行くと、腰かける途中でできるだけ近づき、頭の先からつま先までじっくりと見た。
間近で見てもわからない。ただ状況的には不死王のはず……。
そのあと、面接が行われたが、ヨトフの一つ一つの行動が気になって何一つ覚えていない。
◇◇◇
翌日の朝。
いつもの打ち合わせスペースの入り口でヘロックが待ち構えていた。
チージョイルが現れるなり、ヘロックが満面の笑みで話しかける。
「次席! おめでとう!」
「どうしたんですか? 今日は打ち合わせの日ではありませんよ」
ヘロックはチージョイルの首元をじっと見つめる。
しばらく見つめたあと、首輪がないことに気づいたのか、ハッとして言い放った。
「そうか! ようやくオレの力になってくれるな!」
チージョイルは引きつった笑みのまま、下を向いて首を振った。
「昼夜問わず、警護が付くことになりました」
「……」
ヘロックはチージョイルの肩をやさしく叩いた。
「出世しても大変だな……。で、どこだ?」
チージョイルはヘロックの後ろに目線を向けた。
ヘロックは恐る恐る振り返る。
そこには全身が鎧に包まれた人間が立っていた。
上から下まで見渡すと、すぐに振り返って小声でチージョイルに話す。
「死霊兵じゃないのか? 筆頭と違うじゃねぇか」
「陛下のお知り合いだそうです」
ヘロックは机を殴ろうとして、拳を振り上げたところで動きが止まった。
――ガチャ
護影に腕を掴まれる。
「や め ろ」
「しゃべったぞ……。流暢に」
ヘロックは後ろを見上げる。
――兜の真っ黒な目――
何も見えなくても冷たい視線が向けられているのが伝わってくる。
護影は掴んだ腕をさらに握りしめ、ヘロックからチージョイルに目線を移して言った。
「話せるくらいの知能がないと警護なんて務まらないからな」
「……そういうことか……」
チージョイルは目を閉じると、眉の先を力なく落とした。
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【あとがき】
その後、事あるごとにチージョイルはヨトフの足取りをチェックした。
だが、その歩みはいつ見ても軽快だった。
その日はそのまま死霊兵と一緒に帰るまで入れ替わったような形跡はなかった。
(面接は筆頭本人か……)
結局、ヨトフはライユチの最上級の治癒魔法で健康になっただけだった。
ただ、もし、不死王に向けられたなら、それは"治癒"ではなく"封印"を意味する。
だから、不死王はそれを見越して、わざわざ本物のヨトフを面接官にしたのか……。
ちなみにライユチは後日、"不合格"を言い渡された。




