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レヌンの災難①


一面に畑が広がる中、小さな丘の上にそれはある。

見上げるほど高い、黒いレンガの壁。

それが要塞都市アンシルを囲んでいる。


レヌンはアンシルに向かっていた。

いつのまにか、不死王がレヌンを先回りするように歩いている。

レヌンは思わず一度立ち止まったが、渋々黙って追うことにした。



アンシルの城門までたどり着いたが、不死王は門番に止められていた。


「関係のない者を入れるわけにはいかん!」

「ここの指揮官に会いに来た」

「ウソをつけ! 後ろのおまえは何度も見たことがある! 覚えているぞ!」


門番は唾を吐きながら、レヌンを指さす。

不死王はそれでも食い下がる。


「セヴァンスに伝言を頼めるか? 本当に知り合いであれば、そなたの処罰は免れんぞ」

「セヴァンス? 誰だ、それ」

「指揮官のセヴァンスだ」

「その手に乗るか。面も見せないヤツと話すほど、暇じゃねぇんだよ。さっさと帰れ」


「仕方ない……」


不死王はそうつぶやくと、壁を見上げながら、要塞都市の周りを歩き始めた。

不死王は指先でざらざらとしたレンガにわずかに触れながら歩く。

その後ろを相変わらず、レヌンは無言でついていった。



しばらくして、小さいが頑丈そうな鉄の扉が見えてきた。


不死王はそのノブを持つと、そっと引く。

扉は音もなく開かれた。

中に入ると、もっと高く黒いレンガの壁がある。


壁と壁の間には何もなく、そこを時折、風が突き抜ける。

不死王は顔を覆った。


「レヌン。ガマンできるか?」

「わからない……」



すぐ近くにはまた同じような鉄の扉がある。

不死王はそれもまるで鍵などかかっていないかのようにスッと引くと中へと入っていった。



◇◇◇



そこから、レヌンたちは建物の中だけを通り、指揮官の部屋までたどり着くことができた。

不死王は部屋の扉をノックすると、返答を待たずに開けた。

指揮官セヴァンスが不死王を見た瞬間、動きが止まった。

しかしすぐに、席を立って、二人を出迎える。


「いかがされた? 不死王殿」

「すまない。すぐ帰る。一つだけ確認させてくれ。そなたは王族とつながりがあるということで間違いないか?」


指揮官は不死王を見つめ、怪訝な顔をした。


「確かに、王族の端くれだが……私に王位でも譲りに来たのか? 私はやらんぞ」

「そうか……それは残念だ……」


レヌンは目を見開き、指揮官をまっすぐ見つめる。

握りしめるこぶしが震えている。


「レヌン。やめろよ」


不死王が小さい声で警告する。

レヌンはその警告を無視し、指揮官のもとへゆっくり向かう。


「やめろ!」


不死王が声を荒げる。

今まで聞いたことがなかった不死王の声に、レヌンは目をさらに見開き、静かに足を止めた。


「すまなかった。これで失礼する」


不死王はレヌンの首元をつかむと、セヴァンスに頭を下げた。

それに対し、セヴァンスは柔和な笑みを浮かべながら、不死王に近づく。


「不死王殿。これを……必要ないかもしれないが……」


そう言うとセヴァンスは割符を直接、不死王に手渡した。

その時、耳打ちするように不死王に問いかけた。


「この前の仕返しかな?」

「そういうつもりはないんだ。すまない」


そう言うと、不死王はもう一度頭を下げ、レヌンを引っ張ると、忽然と姿を消した。



◇◇◇



レヌンは気づくと、水面の上に立っていた。

少し距離を置いて不死王が正面に立っている。

静寂の中、時折、穏やかな波のような音がさざめく。


足に冷たいものを感じた。

靴の中にじわじわと水が入ってくる。

足元からは黒いモヤが絶えず立ち上がっていた。


「レヌン、もうやめろ。全部、婆さんから聞いたぞ」

「……」


レヌンはうつむいたままで何も答えない。


「王族に関わる者を片っ端から始末しているようだな」


レヌンは顔を上げ、不死王の空虚な眼窩をまっすぐ見つめる。


「……なぜ、わざわざ説得する?」

「ここで頭を冷やせ。私が迎えに来るまで、ここから離れるんじゃないぞ。離れたら、牢屋だ」


不死王はそう言い残すと、姿を消した――




「どうすりゃいいんだ?」


周囲は一面、水で満たされている。

レヌンは服と靴を全部脱いで、頭の上に乗せると、黒いモヤの切れ目から見えた岸に向かって泳ぎだした。

そして、全裸のまま、丘の上に登ると、風通しの良さそうな木陰でしばし眠りについた――




レヌンはゆっくりと目を開ける。

まだ日は出ている。

時折、通り抜ける冷たい風が肌を撫でていくのが気持ちいい。

再び目を閉じた。



ガタンッ、ガタガタ……


後頭部への衝撃で夢見心地がぶち壊された。

しかも、手足をヒモで縛り上げられ、引きずられている。


「おい! 何してんだ! どこに行くんだ?」


「牢屋」


緑の奇妙な服を着た女――ラスティネルが答える。

時々、後頭部に衝撃が走るのが耐えがたい。


「はっ? おい! 聞け! そこの女!! ここで大人しくしていれば、牢にぶちこまないと言われたんだぞ!!」

「そんなの知らない」


「ふざけんな!」


ゴンッ!


「ぉぅ……」


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