レヌンの頼み事②
目的地の一つ手前でレヌンは不死王とともに魔龍から降りた。
木々が生い茂る山の中、その隙間を縫うように二人は延々と歩いた。
そして、先を行くレヌンは、何でもない場所で足を止める。
「こちらです」
よく見ると、そこには本当に小さな緑の小屋がある。
気を付けていても、通り過ぎてしまうような色と佇まいだった。
何かを察して、小屋から出てきた爺さんが不死王を見て、レヌンだけに手招きした。
「何を考えているんだ。気づかれるぞ。わしでもなんとなく近づいてくるのがわかったわ」
さらに爺さんはレヌンの耳元で「本当に大丈夫か?」と小声で話す。
それが聞こえたのか、不死王が弁解する。
「案ずるな、老人。この禍々しさは後でなんとかする。夜明けまで待ってから動こう」
「……」
老人とレヌンはしばらく見つめ合う。
やがて老人は観念したかのように、不死王を小屋の中に招き入れた。
不死王は気にする様子もなく、小屋の中へそっと踏み入れる。
小屋の中は三人が入ると身動き取れないほど狭くなった。
不死王は一瞥もせず、自らローブの袖をまくり、手際よく食事の準備を始めた。
レヌンも野菜の皮むきを手伝う。
その様子を眺めていた不死王が、何気なく問いかける。
「どこまで皮をむくつもりだ?」
「……? 実が出たら止めますよ」
レヌンは当たり前すぎる質問に何かを感じ、手を止めた。
不死王の顔をじっと見つめ、手元に目を落とす。
もう一度、不死王を盗み見るようにしてから、皮むきを続けた。
水や調味料を計って鍋に入れながら、不死王は老人に問いかける。
その声は、いちばん楽しみにしているかのようだった。
「それで……その『緑の秘薬』について、教えてくれないか?」
その夜、不死王は爺さんに緑の秘薬の作り方、効能を眠るまで実に細かく質問していた。
◇◇◇
空が明るくなり、それまで輝いていた星たちが見えなくなってきた。
レヌンが静かに目を開ける。
目だけを動かすが、そこに居た不死王が見当たらない。
爺さんを起こさないように、そっと小屋を出た。
「どうだ?」
出た直後、どこから声が聞こえた。
足元にゾワッと禍々しさの気配がまとわりつく。
そこには、土から頭だけを出す不死王がいた。
レヌンはさっと足を上げる。
「感じるか?」
「……禍々しさですか? それはもう、絡みつく波動のようなものがつま先から頭のてっぺんまで伝わります」
「ダメか……」
不死王は土の中にゆっくり頭を沈めていった。
しばらくすると、再び、不死王がゆっくりと浮き上がってくる。
いつもの紫のローブを着ていない。年季の入った骨がむきだしだ。
不死王は右手に持った透明な瓶に入った液体を一滴残らず頭にかけ、ブルブルと全身を震わせる。
直後、不死王の体からジュワァーと不気味な黒い煙が立ち昇った。
「……ぅ、ぅぅ……っ」
そのうめき声にレヌンがすぐに不死王の体を支えようとするが、左手で制された。
黒い煙が出始めると、禍々しさを徐々に感じなくなっていく。
黒い煙は出なくなったが、白く薄い煙はまだ出ている。
「どうだ?」
「陛下、大丈夫ですか? ほぼ感じなくなりました」
「そうか。すぐ行こう」
「爺さん。起こしてきます」
「うむ」
小屋に入る前、ふと振り返ると、不死王はまだ煙が出ている両肘から先を左右交互に見つめていた。




