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レヌンの頼み事①


カタッ


漆黒の巨城、最上階の執務室。窓から降りたレヌンの足音が凛と響いた。

レヌンはまっすぐ不死王のところに向かう。


「まだ湖に行っていないのか? 何をしていた?」


長机で書類を眺めている不死王が、視線すら向けずに冷徹な声をかけた。

レヌンは歩みを止めると、しゃがみこんで言葉を絞り出した。


「陛下……頼みがある……」

「ダメだ」


言葉を遮るように拒絶を放つ。

それでもレヌンは引かない。


「お願いだ」

「ダメだ」


レヌンは床を見つめたまま、固まっている。


「ダメだ」


その時、背後のロフトから婆さんが降りてきた。

机に手を置いて、不死王の見ていた書類をまじまじと覗き込む。



レヌンが沈黙を破る。


「アンシルで聞いた噂が気になって、調べていたんだ」

「……」

「ゴブリンの森、そのさらに奥にある山に、女が埋められている……。それを助けたい」


不死王はぼやくようにつぶやいた。


「おぬし一人でもできるだろう……」

「監視が二人いる。今のオレには気づかれずに助けることができない……」


レヌンの声がわずかに震えた。


「その監視は何者だ? 強いのか」

「たぶん、強い。不意に近づいてしまって……崖から落とされて大ケガをしてしまった」



不死王の視線が、初めてレヌンに向けられ、全身をじっと見つめた。


「どこをケガしたというのだ? 元気そうではないか」

「全身にヤケドを負って、背骨が折れた……。 助けてくれた爺さんの薬のおかげで、一晩でほぼ完治した」



その言葉を聞くと、不死王はゆっくりと立ち上がった。


「行こうか」


一転、あまりにあっさりとした承諾だった。

レヌンは困惑し、目線だけで二度見した。

やがて、ふっと肩の力を抜くと、ゆっくりと立ち上がった。



婆さんが慌てて不死王の袖を引っ張る。


「ごにょごにょごにょごにょ……」


不死王の眼窩に、鮮烈な赤い焔が再び灯った。


「頼んだよ!」


そう言うと婆さんは不死王の背中を二回叩き、軽い足取りでロフトへと戻っていった。



◇◇◇



漆黒の魔龍が空を裂く。

時折、白い雲の中を抜ける。

吹き荒れる風の中、レヌンは落ち着かない様子で立ち上がり、下界を見下ろしていた。


不死王はレヌンの服を掴み、強引に隣へ座らせる。

少し先に緑の巨城が見えてきた。


「少し寄り道だ」


不死王の言葉と同時に、魔龍が城の頂上へ降下する――

ドゴォッ、という轟音と共に緑で編み上げた頂上部をグニャッと曲げ、バルコニーへ舞い降りた。


「ちょっと待っててくれ。すぐ終わる」


不死王は魔龍から降りると、衝撃で放り出され、仰向けで目をパチパチさせている緑の魔王へと近づいていく。

無言で緑の魔王を見下ろし、静かに問いかけた。


「どうだ? この城は?」

「……えっ……あっ……」

「どうだ? この城は?」


有無を言わせぬ威圧感。

緑の魔王は喉から必死に絞り出すように答えた。


「さ、最高の住み心地です……」

「そうか。それはよかった」


満足げに頷くと、不死王は踵を返した。


「余計なことをしようとすれば、また来るぞ」


そう言い捨てると、軽やかな足取りで駆け出し、そのまま魔龍の背へと飛び乗った。


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