帰れなくなった治癒師⑨ 静かなる対峙
[ミオン視点]
ミオンは両手で抱えた一斗缶を、ぐっと歯を食いしばって床に置いた。
柔らかい床なので、音はせず、少し沈んだだけ。
ふと顔を上げると、相変わらず、ラスティネルはまゆげをVの字にして考え込んでいた。
シーチェルダとオミユシを縛り上げている緑のヒモ。
二人の状態を見る限り、解決の糸口すら見つかっていないようだ。
ミオンは、考えるラスティネルの向こうのオミユシを見つめる。
あの陶器のような仮面の下には、一体どんな顔が隠されているんだろう……。
早速、ミオンは音を立てないように、オミユシの背後に回り込んだ。
抜き足差し足で距離を詰め、息を大きく吸い込んだ。
(せーのっ!)
心の中でタイミングを図って、仮面を両手で掴んでグリグリと上に引き抜こうとする。
「やめなさい! 少年!」
普段の落ち着いた雰囲気からは想像もつかない、抑えてはいるが焦りに満ちた声がオミユシから漏れる。
「ミオンくん!? なんてことするの!」
異変に気づいたラスティネルが、慌ててミオンをオミユシから引き離す。
「だって、このままじゃ苦しいかなって思って」
「いいの。このままでいいんだから!」
無理やり離され、ミオンはオミユシの仮面を見つめる。
仮面を脱がすどころか、びくともしなかった……ミオンはあからさまに肩を落とす。
そして、そのままトボトボと自分の部屋に入った。
しばらくして、思い出した。
ミオンは少しだけ扉を開けて顔を出す。
「旦那があとで来るって!」
それだけ言い残すと、ラスティネルの返事も待たずに扉を閉めた。
◇◇◇
[オミユシ視点]
夜が深まり、部屋の温度が少し下がる。
ただ、それでも部屋の中は暖かかった。
三人は川の字になって横になっている。
ラスティネルは考えている途中で力尽き、ぐっすり眠っていた。
静かな吐息が重なる中、夜明けが近い。
初老の男性――不死王が突然、壁際から音もなく現れた。
シーチェルダとラスティネルが深い眠りに落ちている中、私は目を覚ましており、それに気づいた。
けれど、動かずにじっと息を殺して様子をうかがう。
「ほぅほぅ。早速、使ったのか……」
ヒモで巻かれた私たちの姿を見て、彼は感心したように独りごちた。
彼はシーチェルダを起こそうとしたが、口元もヒモで巻かれてしまっている。
その傍らで、カエルの着ぐるみのまま、床に転がっているラスティネルが目に入ったようだ。
「…………」
彼はラスティネルの姿を見て、しばらく静止していた。
カエルの着ぐるみの右足の裏を左足の甲に重ね合わせた。
すると、シーチェルダを拘束していたヒモがカエルの着ぐるみへと音もなく吸い込まれていった。
「みず……といれ……」
ようやく解放されたシーチェルダが、うわ言のようにこぼす。
彼は壁にある扉の中に入ると、すぐに水と紙を持って出てきた。
わざわざシーチェルダの口に水の入った器を当てる。
そして、同じようにして、私の拘束も解いた。
私を間近でじろじろと見た彼は、何かに気づいたかのように動きを止めた。
「お主か? 湖の瘴気を一瞬で払ったのは」
私は沈黙を守る――
「どうした? 喋れぬのか?」
私の顔を覗き込む――
唐突に私の仮面に手をかけ、一気に上に引き抜こうとした。
慌てて口を開く。
「そ、そうだ。私がやった」
彼は仮面から手を離した。
「ふむ……。そなたが神聖国の当主か?」




