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帰れなくなった治癒師②


街のあちこちに、紫の顔色をした兵士たちが整然と立っていた。

漆黒の城が現れるまでは存在しなかった者たちだ。


以前の街との違いを探しながら歩くうちに、私はあの城の前までやってきていた。

城門の前にも、微動だにしない紫色の兵士たちが立っている。

そこを、人が時折、出入りしていた。

喜びを噛みしめる者。暗い表情で出ていく者。色々だ。



門番に止められるかと思ったが、私もすんなりと城の中に入ることができた。


一階は天井が高く、美しい曲線を描くホールのようになっていた。

それを囲むように、円状で等間隔に扉が並んでいる。

壁や天井は柔らかなクリーム色。床には平らで大きさの違う石が段差も隙間もなくびっしりと敷き詰められている。靴で床をスリスリしても音がせず、滑らかだ。

その上を、まばらに人々が行き交っていた。



扉のそばに座っていた血色のいい人と目が合った。


「面接希望ですか? 今ならすぐにできますよ」

「あ……いえ……」


以前の城に居た神聖国の人たちのことを聞こうとしたが、その前に部屋の中に押し込まれてしまった。


部屋の正面奥には机があり、その手前に椅子が一つ置かれている。

周囲を見渡すが人の気配は感じない。外からは足音一つ聞こえてこない。

――とめどない孤独感が胸の奥から、湧き上がってくる。



突然、真後ろの上の方から声がした。

反射的に、振り返ろうとした瞬間。

視界の端に真っ白な顔……違う、むき出しの骸骨が見えた気がした。


その人に後ろから両肩をしっかり抑えられ、振り向けず、相手の顔が見えない。

ただ、がっちりとした手、その大きな骨だけは見ることができた。


「今まで何をしていた?」

「……神聖国の人を探しています」

「神聖国? 違う、仕事だ。仕事は何をしていた?」

「……治癒師です」

「神聖国から来た治癒師か……」


「はい。あの……」

「それはちょうどいい。神聖国との国境の監視役が欲しかったところだ」



――国境。

その先には私が帰りたい場所がある。


もちろん、治癒師の私が監視役なんて、意味がわからない。

……いや、違う。断るより前にまずは確認したいことがある。



「あの……違います! 以前の城にいた人たちのことを知りませんか?」

「……すまないが、私はその辺の事情はまったくわからないんだ。詳しい男なら知ってるから、あとで連絡させよう。そうだな……」


少しだけ私の肩を抑える力は緩んだが、それでも振り向かせてもらえない。


「よし。君を採用しよう。すでに神聖国との国境の湖畔にドーム型の建物ができている。そこで待っててくれ。連絡もそこに入れさせよう」


そう言って私の肩をトントンと叩くと、肩を抑えていた手の感触がなくなった。

すぐに振り返ったが、もう誰もそこには居なかった。


「ごめん」

なぜか、細い呟きのような謝罪が唐突に落ちてきて、壁の向こうへと消えて行った気がした。



◇◇◇




城の外へ踏み出した私は、もう一度だけ大聖堂へと足を向けた。

しかし、白磁の扉には依然としてあの横木が横たわっている。

私はうつむいたまま、大聖堂を後にした。



王都から東の町へと向かう、乗り合いの箱車。

箱車独特の小刻みに続く振動を感じながら、私は窓の外を流れる景色をぼんやりと眺めていた。

窓枠に右肘を置いた時に違和感があるものが、視線に入った。


袖口から覗く手首に、見慣れないものが巻き付いていた。

肌に直接引かれた一本の黒い線。

その黒さは、あの漆黒の城の壁面と同じで、あらゆる光を拒むが、一度取り込んだものは二度と逃がさない深淵を感じさせた。

指先でなぞってみる――キレイに一周つながっている。

継ぎ目もなければ、締め付けられるような圧迫感もない。

まるで、生まれた時からそこにあったかのように、私の肌に冷酷に刻まれていた。



その夜。

迷わず、安宿で一番狭い部屋に入った。

一人で行動していないと、この宿にはまず泊まらないだろう。

そして、灯りも点けぬまま、寝台に腰掛け、白衣を脱いだ。

窓から入ってくる街の灯りを浴びながら、物思いにふけていた。

もし、あの夜、城での晩餐会に参加していたら、命はなかったかもしれない。

私は運よく助かったが、残った者は助からなかった。

複雑な気持ちになった。


脱いだ白衣を畳もうとした時に気づいた。

両肩に、指や掌の黒い跡が、はっきりと刻印されている。

あの城で、背後から抑えられた時に付いたものに違いない。


私はその跡を、じーーーっと見つめ続けた。


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