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不死王に何とか取り入ろうとする者たち


石畳の路地裏にひっそりと、質素な木造の佇まい。

入り口まで木箱が山積み。

木箱から香る爽やかな匂いが鼻を抜ける。

荷物の出入りが激しい時間帯は過ぎたようで、静かだった。


そこはリンセンドルク商会。

貴族崩れの人間が立ち上げたが、その仕事っぷりは誠実。

小さい商会ながらも経営は順調だった。

前の王が突然いなくなり、不死王が新しい王になったが、何も変わっていない。

ただ、そこには、このチャンスを逃してなるものかと、あざとい人間が一人いた。



商会入り口の左端にある赤く塗られた床を歩いていくと事務所がある。

若い男二人・ヘロックとチージョイルが隅っこでこそこそと話をしていた。

自分はリスクを取らないが出世欲は誰よりも強い男・ヘロック。

幼なじみで同僚、人がよくて正義感がそこそこあるチージョイルを言葉巧みに何とか説得して、文官として漆黒の巨城に無理矢理、送り込んだ。


「それでどうだった?」

「この本にサインして持っていったら、正式に採用になります」


ヘロックは興味なさそうに本をめくる。


「やったな。おめでとう」

「城の中はどうだった?」

「王様以外は死霊兵しか見かけませんでしたね」


考えるヘロック。


「じゃあ、お前。このまま文官になってしまえ」

「……なりたくないですよ。私に死ねって言うんですか。この本をよく読んでくださいよ」


ヘロックはもう一度、本をめくる。


「文官の規則が細かく書いてますよ。下手なことしたら、私だけでなく、ヘロックさんの首も飛びますよ」

「なんでだよ」

「もし文官になるんだったら、ヘロックさんに保証人になってもらいますからね」


ヘロックは腕組みして、空を見てしばらく考える。

そして覚悟を決めたようにサインした。


「お前、絶対、余計なこと、するなよ」

「ヘロックさんもね」


チージョイルはひったくるように本を奪い取った。


「ヘロックさんや商会のために動くことはできないと思ってください」

「それ、もう一冊もらうことできないか。じっくり読みたい」

「ヘロックさんも城に行ってみたらどうですか? たぶん、もらえますよ」

「そうか」

「ただ、死んでも保証人になりませんからね。死・ん・で・もなりませんからね」

「わかった、わかった」




翌日、不機嫌そうなヘロック。

チージョイルの顔を見るなり、話しだした。


「おい。本さえも、もらえなかったぞ」

「さすが王様ですね。今、首がつながっていることに心から感謝してください」

「王様の名前を言っただけだぞ。それで空気が止まった」


「馬鹿野郎! オレが文官になれないことくらいわかってるよ!」


ヘロックは突然キレて、語気を強めた。

椅子を座り直し、両足を投げ出す。


「全部書き写しましたから、この本はあげます」

「そうか。昨日はやりたくないと言ってたのに、やる気が出てきたようだな」


チージョイルは薄く黄色い首輪を指でなぞってみせる。

それはゴム製で首との間にまったく隙間がないが、圧迫感はなさそうだ。


「こんなもの付けられましたよ……」

「何だそれ?」

「その本に書かれている規則を破ったら、すぐにきつく締まると言ってました」

「また、ふりだしじゃねぇか」

「何がですか。やっぱり、何かさせようとしてたんですね。絶対にやりませんよ」


「この首輪で日ごろの言動が記録されるんですから、もう変なことを言わないで下さいよ」



「それでは、長い間お世話になりました。たまに遊びに来ます」


チージョイルは周りの人、一人一人に深々と礼をして商会を出ていった。



◇◇◇



漆黒の巨城にて、夕暮れ時。

時折、東の方から風に乗って漂ってくる獣のような威勢のある咆哮が、城全体をビリビリと震わせていた。



死霊兵が城門を閉めようとしていた。

勢いよく閉めようとするが閉まらない。錠前まで扉が行かない。

もう一度開けてゆっくり閉める。


城門の警備が手薄になる時を待っていた少年。

そのチャンスを逃さない。死霊兵の目線が錠前に向けられた瞬間に城門の隙間から、こっそりと侵入した。

しかし、すぐに城内に居た死霊兵たちに捕まった。


「骨の旦那の知り合いなんだって! 聞いてみなよ!」


必死にアピールする少年だったが、死霊兵たちはまったく反応しない。

少年は地下牢に入れられ、その中で眠ってしまった――



ふと、少年は目を覚ました。

目の前には椅子に座った骸骨が自分をじっと見てる気がする。


「旦那!? あのでっかい化け物は何? ぼくも乗せてよ!」

「……ん? 見たのか? 大丈夫なのか、体は?」

「大丈夫。それよりここから出してよ」

「……」

「ねぇ! 旦那! ここから出してよ!」


不死王は眼窩に宿る赤い焔を少しだけ輝かせた。


「よし。出してやろう」


鍵を使わずに牢の扉を開ける。

少年を牢から出すと、その手をしっかりと握った。

そして、城を出て、近くの湖に向かって歩き出した――



もう少しで湖が見えてくる。

そこには山のような巨体――漆黒の鱗を持つ魔龍がすでに横たわっていた。


「どうだ? 体の方は?」

「大丈夫だよ。あれはもしかして……」


少年は魔龍のところまで走っていき、素手でペチペチと触り始めた。

魔龍は少し迷惑そうな目をしている。


「本当に体の方は問題ないんだな?」

「うん」

「よし! 少年! あとは頼んだぞ!」

「えっ……!?」


少年は振り返って不死王を見ようとした。

その瞬間を待っていたかのように、魔龍は少年の背後から「グワッシュ」と丸ごと口に収める。

そしてそのまま、東の方へ飛び立っていった。


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