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不死王に首輪をつけたい者たち③


それから数日。

団長と副団長は、唯一動きのあるレヌンの監視を続けていたが、何の収穫もなかった。

当然だ。レヌンは政に関することは、本当に、何もしていない。

レヌンは気が向けばふらりと城を出て、何日も帰ってこないことすらある。


一方の婆さんは、あの日以来、姿を見せない。

肝心の不死王に至っては、さらに影も形もない。


(……この国は、機能しているのか?)


団長の心に、傲慢な考えが芽生え始める。


「いっそ、私が王だと言ってしまおうか。不死王とやらにやる気がないなら、乗っ取るのは容易い」


団長は邪な笑みを浮かべ、誰もいない玉座を見つめる。

だが、それには一言、不死王に了承を得なければならない。


「それにしても、不死王とやらは一向に降りてくる気配がないな」


団長は煙をふかしながら、玉座の間の正面にある巨大な窓から最上階を見上げる。

副団長もまた、玉座の間の背面にある窓枠に両肘をかけ、最上階を見上げる。

二人とも、不死王が降りてくるのをただ、ただ、待ち構えていた。



◇◇◇



――同じ頃。

城一階、面接室にて。


「次、入れ」


私は、団長にこき使われ、心身ともに疲れ果てた「使節団の二名」を相手に、真剣に面接を行っていた。


「……ほう、君たちは北の国の物流に詳しいのか。それはいい」


私は彼らから引き出した北の隣国スロフェツトの情報を書き留めていく。


「陛下……我々のような裏切り者を、本当に受け入れてくれるのですか?」

「君たちはただ、よりよい働き先に移動するだけだ。案ずるな……」


不遜な団長と副団長が空を見上げている間に、私は着々と、彼らの足元を切り崩していた。



◇◇◇



「逃げたか……」


重苦しい雰囲気の玉座の間で、団長が消えそうな声で呟いた。

向かい合う副団長の顔も苦渋に満ちている。


昨日から、団員二人の姿が忽然と消えた。

城の中、周辺、どれだけ探しても見つからなかった。

団員三人の荷物は手つかずのまま、持ち主を待つようにひっそりと並んでいた。


不死王の国を手中に収めるチャンスが目の前にある。

しかし、二人では何もできない。

駒が必要だ。


「一旦、スロフェツトに戻るぞ。今度は人を出し渋らせねーからな」


団長は忌々しげに吐き捨てた。



◇◇◇



それからしばらくして。

新しい駒二十人を引き連れ、使節団の団長が再び漆黒の巨城にやってきた。

通されたのは一階にある日の当たらない応接室だ。

室内には二十二名分の椅子が横一列に整然と並べられていた。

団長と副団長が中央にふんぞり返って座り、ほかの駒たちは棒のように直立不動で後ろに立たされている。その中に一人だけ落ち着き払った老齢の男が居るが、団長は気にすることもなかった。


「どういうことだ? おまえら……」


部屋に入ってきた男たちの顔を見ると、団長は右こめかみに青筋を浮かび上がらせ、徐々に声の圧を高めていった。

現れたのは、少し前まで団長の駒だったニゾルテとヴェレンウィルだ。


「このたび、スロフェツト国との渉外担当になりました」

「そうか。ちょうどいい」


ニゾルテは冷ややかな目線を団長に向けたまま、団長の発言を途中で制止するように右手を上げた。

その毅然とした拒絶の態度を見て、団長の顔が怒りで赤く染まっていく。


「もういい。おまえらでは話にならん。不死王に会わせろ」

「陛下にお繋ぎするかどうかは我々が判断することです。あなたが決めることではありません」


ニゾルテは淡々と言い放った。

団長は目を血走らせているが、平静を装うようにニゾルテの話を聞いている。

さらに構わず、ニゾルテは目をつぶり、発言を続けた。


「双方にメリットがある提案を考えてから、お越しください。今日はお引き取りを」

「また、城の一角を貸してもらうぞ」


団長はニゾルテの発言を聞いていなかったかのように立ち上がった。

ニゾルテは団長を制止することもなく、目をつぶったまま、発言を続けた。


「なぜ、あなたがたのために我々が場所を提供しないといけないのですか? あなたがたにしかメリットはありませんよね? もうお引き取り下さい」


使節団の駒として末端に立っていた老齢の男・ウルムスは団長の無様な醜態を見て、静かに息を吐いた。

その時――団長がついに一線を越えた。

団長はあろうことか机の上に土足で飛び乗ると、そのままニゾルテの顔面を目掛けて飛びかかった。空を切った団長の足は部屋の隅に待機していた死霊兵たちによって容易く取り押さえられた。


「おまえらと、おまえらの家族は全員皆殺しだ!!」


団長は喚き散らし抵抗するが、死霊兵たちに床を引きずられていく。

副団長もまた、これ以上の不祥事を防ぐべく後ろから団長を抑え込み、三人がかりで部屋から引きずり出していった。


すぐに副団長が戻り、顔を青くして謝罪しようとしたが、それを制したのはウルムスだった。


「このたびは申し訳なかった。団長代理として、心より謝罪申し上げる。このとおりだ」


ウルムスは立ち上がると、机に額がつくほど、深く、重みのある一礼をした。

ニゾルテはそれを見て、先ほどまでの表情を崩し、どこか気まずそうに声をかけた。


「先生。もう結構です。話の続きをしましょう。どうぞ、お座りください。他の方々も、人数分の椅子を用意してあります。お座りください」



◇◇◇



「ロレンスマーク王国という国名は変えないのですか?」

「変えるとは聞いてません。基本、これまで通りと聞いています」

「ロレンスマークの一族はいなくなったのですよ」

「はい。このままです。おそらく次の王が決めればいいと思っているのではないでしょうか?」


ウルムスと副団長は驚いて顔を見合わせた。


「それでは……我が国との交易の手続きもこれまで通りということですか?」

「そうです。混乱を最小限に。それが陛下の望みですから」


ニゾルテは淡々と答えた。

ウルムスはこれまでの凛々しい表情を緩ませ、やさしく語り掛けた。


「君たちがしたことを非難するつもりもない。ただ、筋は通しなさい」


そう言って、ウルムスは鞄から二枚の書類を取り出し、 二人にそれぞれ書類を差し出した。


「今、署名するだけでいいから」


ニゾルテとヴェレンウィルは「わかりました」と言って、ペンを走らせた。

これで正式に使節団の人間ではなくなり、完全にロレンスマーク王国の文官、スロフェツト国との渉外担当となった。




ニゾルテとヴェレンウィルが使節団からの逃亡を決断した理由。

それは、城から転落して命を落とした同僚を弔っている時のことだった。

二人は泥にまみれながら同僚を埋葬し、手作りの粗末な墓標を前に、ただ立ち尽くしていた。

虚しさと、団長への憎しみがこみあげてくる。


その時だった。突然背後から音もなく不死王が現れ、墓標の前に跪いた。

そして、骨だけの両手の指を組み、長い時間をかけて祈りを捧げた。

骨だけのため、その表情はわからない。

しかし、二人にはその慈しみの気持ちが伝わってきた。


「私は若輩者の不死王だ」


祈りを終えた不死王が、墓標を見つめたまま、静かに口を開いた。


「今、蘇生は叶わぬ。ただ、いつかの未来では叶うやもしれぬ。その時は真っ先に呼び戻すと約束しよう」


その言葉は、同僚を失って開いた、二人の心の隙間をやさしく埋めるものになった。

こうして、魂が揺さぶられた二人は決断した。

翌日、ロレンスマーク王国の文官になるべく、不死王の面接を受ける。


「それまでは彼の眠るそばにいてあげたいと思います」


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