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暢気小娘と全身甲冑のマイペース生活記  作者: へび
第二章 常識のドレスを纏う
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チームプレイよりソロプレイ

 どさくさに紛れるようにして冒険者用の出入り口でカードを示して街に飛び込む。魔物被害が元からある街だからだろうか、街の中はそこまで阿鼻叫喚という有様にはなっていなかった。なんだろうな、日本で言うとどえらい台風を前にしてみんなが不安がるかんじ? あんな感じの空気が街の中に満ちていた。空襲があるからばたばたする、っていうのとはちょっと違う感じ。

 魔物被害は災害と同じようなくくりなのかもしれない。そんなことを思いつつ、所属団体である冒険者ギルドに向かうと、私が来るのを待っていたとでも言わんばかりにギルドの出入り口前にギルド長が立っていた。

 ギルド長の厳しい目が、私とロキシーに向けられる。さらにはロキシーの肩にあるルイーダさんに。正確に言うと、ルイーダさんの尻に。でも女性の尻とかあんまりまじまじ見せていいものじゃあない。私はロキシーに目配せしてルイーダさんを下ろさせ、ルイーダさんをぐいとギルド長に押し出した。

 これでも私は社会活動をしていた社会人なのだ。故に実体験を持って知っている。面倒なことは上司に丸投げして仕舞えばよいのだと。面倒じゃないことを働き蟻のようにせっせと毎日こなしているのだから、上司は面倒事くらいは引き受けるべきなのだと。

 私に面倒と断じられてしまったルイーダさんの肩を、ギルド長が優しく掴む。そのままルイーダさんの腕を緩めさせて中のものを見ると、私の位置からでもはっきりわかるほどギルド超は顔を大きく歪ませた。

「ベーヘスト様が……」

「ぬ?」

 ベーヘスト、っていうのがジックートさんの名前だったのだろうか。まあそれはよい。でも、様付けってどういうことだろう。

 こて、と首を傾げそうになる。しかしその疑問は解決しなげれはいけない疑問だとしても『今』解決すべき疑問ではない。

 ぶるりと頭を振って疑問を横に放り出す。そのままルイーダさんを回り込むようにしてギルド長の側に駆け寄り、私はつま先立ちになって彼の耳元に少しでも口を近づけた。ギルド長は私の頭の位置に肩があるくらい身長が高いのだ。内緒話をするとなったらそういう子どもっぽいことをしなければいけない。

「ギルド長、ギルド長」

「なんだ」

 ぎろりと睨まれた。今忙しい、と表情で言っている。むっとしたが、私も一応書類上は冒険者。この人は上司っぽい人。であれば不快を押し殺して報告しないと。

 聞く姿勢を見せないギルド長のシャツを掴み、ぐいっとひっぱる。私程度がこれにぶら下がろうともギルド長の体格なら微動だにしないこともできそうだが、そうするとシャツがかわいそうなことになる。世紀末ファッションは嫌らしいギルド長は私がシャツに体重をかけると同時に慌てて体をかがめた。

 近くなった耳に、そっと唇を寄せる。マンティコアの登場自体は全体報告でいいが、これは上の判断を仰いだ方がいいだろう。そう思った報告を、私はそっと彼の耳に流した。

「見つけた魔物はマンティコアでした。一応、一匹は討伐しましたが、状況から考えて他の個体がいると考えられます。見たわけでは無いので同じ毒棘を持つ他の生物という可能性もありますが、おそらくは他のマンティコアの個体でしょう」

「何!?」

 私の報告にギルド長が眼を剥いた。ぎょろりと見開かれた眼が怖いです。そこまでの反応は予想外でした。

 いったいおっさんどうしたよ、と思ってみれば、なんとマンティコアは基本的に一匹で活動する魔物なのだそうな。獰猛で凶暴故に餌場が重ならないようにするらしい。でもそれが複数体存在しているかもしれない。それが示すのは、魔物の異常状態が発生しているということ。

 難しい顔をして話していたギルド長の言葉が止まる。急かすようにじっと見つめると、彼は言いにくそうに、けれど、確かに言った。

「スタンピードが、来るかもしれん……」

 スタンピード。前川圭子の常識では家畜などの集団暴走や人間の群集事故を意味する言葉だ。歩道橋の上の将棋倒し事件とかかな。えっ違うだろうって? それは今問題じゃないから置いとこう。

 この世界での『スタンピード』という言葉が示すのは、魔物の大暴走のことだ。大地を埋め尽くす魔物が己が死ぬまで大地を走り、生きとし生ける者を、己の隣で走る者すら喰らい尽くすものらしい。つい数ヶ月前もどこかの街がこれに飲み込まれて消えたそうな。

 ギルド長の言葉にぶるりと震え、弾かれたように顔を上げたのはルイーダさんだった。

「ザッハ! そんなことになれば波が王都まで!」

「あの」

 青い顔になった二人に、ロキシーが片手を上げる。声はそこそこでも体が大きいから二人の視界に入ったらしく、二人はくるりと振り返ってロキシーを見た。その視線を受けて、ロキシーはどこか遠慮がちに言った。

「スタンピードなら、魔物の足音でわかる。でも、気配も、足音も、地の揺れもない。だから、スタンピードではない、と、思う」

「それならよかっ……」

「だから、スタンピードよりも、悪いもの、だと思う」

 ほっとしたようなギルド長の言葉に被せるようにしてロキシーが言う。ぴしりと固まったのは私もだった。

 えっ悪いもの? そんなもん来るの? それって逃げるしかなくない?

 私の視線に含まれる言葉を聞いてか、ロキシーの顔がこちらを見、安心させるように手が伸びて、彼は私の体を引き寄せた。

「正体は、わからない。でも、斥候を倒せば、いいと思う」

 少なくとも、それで恐ろしい『何か』の足は寸の間止まる。その間に必要ならば調査隊を出せばよいのでは。そう進言するロキシーに、ギルド長は頷き、そしてそのまま彼は厳格な顔をしてロキシーに言った。

「よし、お前を冒険者ギルドの討伐隊の臨時隊長に命じる」

「お断りします」

「お断りさせます」

「は?」

 私とロキシーの言葉がきれにハモり、ギルドマスターの声は間抜けな声になった。そして私達の言葉を理解した途端、焦りの表情になった。

「だ、だが、お前達は倒してきたのだろう。マンティコアを。だったら――」

「私達は最低のGクラス冒険者ですよ? ギルド長の指揮権は私達には及ばない」

「……!」

 冒険者ギルドは国を跨ぐ組織だ。故に国に保護要請など出せはしない。となると自衛の必要が出てきたらどうするかというと、冒険者ギルドの方から冒険者に強制依頼というものをかけられるようになるのだ。お前実力あるんだから組織で社会的に守ってる分働けや税とも言う。

 だが、それを任せられるのは実力があると客観的に認められた存在に限られる。具体的に言うと、A、Bランクの冒険者は原材料幼虫などの余程の理由がないと断れない。Cランク冒険者はお願いは出されるしあんまり断れないが、受ける『義務』はない。Dランク以下の存在にはギルド長の命令権は及ばない。

 ってことを、森の中の座学でルイーダさんに教えてもらった。ルイーダさまさまである。

 私達は、いや、ロキシー個体でいえば、その実力はAランクどころかSランクに迫るものだろう。いや迫るどころかぶち抜いているだろう。だが私達は登録したばかりでGランク。命令権は、及ばない。

 それに私達にはやりたいことがあるのだ。それに討伐隊なんてお荷物もいいところ。邪魔にしかならない。だったらそんなもんいらないに決まっているじゃあないか。

 以心伝心とでも言うべき素晴らしい伝わり方でロキシーの手が私の腰に伸びる。無抵抗に持ち上げられ、肩の上に載せられた私は、はっとしたギルド長と、放心状態のルイーダさんに言ってやった。

「私達でぶち殺してきます。他の冒険者は邪魔です。せいぜい、下がらせておいてください」

 ソロプレイヤー(わたしとロキシー)の実力を、しっかり世界に刻むために。

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