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暢気小娘と全身甲冑のマイペース生活記  作者: へび
第二章 常識のドレスを纏う
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師弟の縁を結びましょう

「それなら『師弟の縁』を結べばいいんじゃないのか」

 私の雰囲気に飲まれたかして『青空の牙』が黙り込んだ、暫く後。自分の提案を口にしながら吟味するような表情でジックートさんが口を開いた。

「『師弟の縁』?」

「昔の風習だよ。駆けだしの冒険者が犬死にしないように先輩の冒険者が新米がある程度ものになるまで面倒を見る風習だ」

 文字通りだった。ジックートさん曰く、『師弟の縁』というのは基本的には無償で結ばれる縁なのだが、師匠になる冒険者が弟子になる者の持ち物が欲しい場合に、先達として教える教授料の代わりにそれをくれと言ってもちかけることがある縁結びだそうな。

「メリットは……」

「メリットは文字通り縁が結ばれること。片方の冒険者や冒険者チームが壊滅した場合などは親兄弟よりも『師弟の縁』の結び先に連絡が行くし、冒険者の持ち物についての相続権が認められている。

 デメリットもまた縁が結ばれること、かな。人との縁に煩わしさを感じる人間にはこういうものはオススメできない」

 私は後者だ。かわいそうなくらい。なんたって『イストワール』でもチームに入らずぼっちのソロプレイヤーを貫いていたくらいだ。チームに誘われたことはあったよ? でも、チームに『入る』ってことは『出る』ってことが後に発生するのは確実で、その『別れ』やそれについて発生するトラブルの影が嫌すぎて首を縦には振らなかった。

 誰かと縁を結ぶことで発生する苦しさというのを私は忌避してきた。だから、そう考えるとこの提案を私は断るべきだろう。

 そんな私の思考を読み取ったか、ジックートさんはにやりと笑った。

「君はおそらくデメリットを重く見るのだろう。だからこその『教授料』を介した縁のやりとりを僕は提案したい」

 その言葉を聞き、ジックートさんの提案に目を丸くしていたルイーダさんが思案しながら頷いた。

「そうね、それに、蜂蜜を瓶で知識一つというのはどうにもアンバランスだわ。師弟の縁の教授料にすれば、幅広く色々と教えてもおかしくない。しかも、あなた方の行動を側で見られるかもしれないわね」

 ルイーダさんの目がロキシーに向く。正確に言うと、ロキシーの紺色と金色の甲冑に。今は背中に大剣を背負っていないが、ロキシーの見た目だけ見れば彼がどれほどの強さを持つのか、少なくともその予想の下限がなまなかな高さにはないことがわかるらしい。

 考えてみよう。

 確かに私はロキシーと二人で生きていきたい。他人とか、正直邪魔だ。それは二人だけの世界を構築したいという能動的排除じゃなくて、他と関わるのが面倒だから居て欲しくないという消極的排除だ。

 だが私はあまりに無知だ。物事を知らなすぎる。その度に一々こうやって交渉するのはそれこそ面倒だ。教えてほしいことの数だけ人と縁を結ばなければいけないなんて吐き気がする。

 その点、『師弟の縁』さえ結んでしまえば分からないことはこの人達に聞けばいいということになる。仮にこの人達が分からなかったとしても、この人達にわかる人への橋渡しを頼むことができる。今四人との縁を認めて将来の無数の浅い縁を、しがらみを、排除するのは私の願いに合致する。

 考えてみれば、なるほど、合理的だ。私は頷いた。

「ロキシー」

創造(メイカー)主の心が求めるままに」

「わかった。それでは、お願いします」

 是を返した後は話は早い。私たちと『青空の牙』の方々は立ち上がった足でギルドに向かい、規定の書類に記入して師弟の縁を結んだのだった。

 もちろん、結ぶ時に、備考欄に物でのやりとりを含む縁であることは明記した。

 こうして私は知識の伝手を、彼らは蜂蜜を手に入れた。

 そして、その日の夜に、私が渡した蜂蜜を使ってルイーダさんが作った魔法薬でヨンシーさんが解呪され、彼は宿が揺れるような雄叫びを上げたのだった。

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