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暢気小娘と全身甲冑のマイペース生活記  作者: へび
第二章 常識のドレスを纏う
18/26

宗教と学問は紙一重?

 翌日から、早速師弟としてのやりとりが始まった。といっても私が必要とするのは知識であり、武力ではない。故に見るからに武力向きの男性陣には用はなく、私はキルレットの街から少し離れた所にある森の中で彼女の知識を教えてもらった。

 やることは座学だけなのに何故森の中でやるのか。その理由は、師弟の縁を結ぶ時、便宜的な問題で結ぶ相手を私とルイーダさんではなく私と『青空の牙』というチーム対個人のものにしたからだ。冒険者は結んだチームから離れた活動を嫌う。それ故、『青空の牙』と私とロキシーは皆で森に向かい、青空の牙の男三人はそこからさらに採集や簡単な狩りのために森の奥にに向かい、私とルイーダさんは森の中の開けた所でお勉強し、ロキシーは私たちの護衛として側に居るという陣を組むことになったのである。『青空の牙』は冒険者のパーティーだから日々の仕事(狩り)を疎かにすると途端に生活が立ちゆかなくなる可能性がある。貯金があってそうなる心配が遠かったとしても、戦わなければ腕がなまってしまう可能性がある。それらを厭うた男性陣と女性陣の折衷案が森の中での青空教室というわけだ。

 森の中に彼らが作ったらしい拠点は、古い木の切り株を中心とした少し開けたエリアだった。人為的な開拓の跡があることから彼らがここに入る度に整備していったものなのだろう。使い勝手を求めた結果を示すように滑らかな木の切り株の上にハンカチを敷いた私は、僅か五日でマスターしてしまったこの国の言葉で書かれた聖書を手に、眉間に皺を寄せた。

 文字は読める。文章も読める。読めるしさらには書けるのだが、どーにも宗教とういものが肌に合わないために今一理解できないのだ。ルイーダさん曰くこの聖書は教育における基本書のようなものらしいのに。でもある意味これは仕方ないことなんじゃないかな、と私は半ば諦めている。理由は私の内面が日本人だからだ。たぶん、宗教と縁があるのか無いのか今一よくわからない現代日本人的生活をしてきた私にとって、これが真実だと神話の物語を提示されるのは、肌に合わないのだ。

「わかりにくいなぁ」

 それを愚痴の形で吐き出すと、同じ本を持って向かい合っているルイーダさんは呆れた表情を浮かべた。

「わかりにくい、って。王国語を僅か三日でマスターした人間の言葉とは思えないですね」

「話せてるからすんなり頭に入っただけですよ。基礎教養はこれくらいで大丈夫じゃないですかね」

 数学もあれば便利と聞いたので少し教えてもらったが、数学ⅢCまで納めた私の方がルイーダさんよりも計算ができてお話にならないゼ! って感じだったのでそれ以上は却下した。数字はいい。どこの世界に行っても通じる。ある意味数字はこの世の、いや、世界と世界を含めたより高位の空間の共通言語なのかもしれない。しかもこの世界は基本の数がちゃんと十進法だった。数字の形は違うけど、ちゃんとゼロから十までがあったのだ。変に十二進法とかじゃなくてほんとよかったよ。

 漠然とした思考に浸っていると、ルイーダさんが「それだったら」と少し大きな声を出して私の気を引いた。短期間の教授で先生魂とでも言うべきものに目覚めてしまったらしい。その声の上げ方に、私は高校の英語の時間にぼーっとしているクラスメイト達の意識を引き戻そうとがんばっていた英語教師を思い出した。

 ぱちん、と両手を合わせ、ルイーダさんはにこりと品のいい笑みを浮かべた。

「では、今日は新しいことを教えましょう。魔術や魔法なんてどうです?」

「おお!」

 魔法! 魔術! ファンタジー! 大好物だよどんとこい。

 思わず目を見開いてルイーダさんを凝視してしまう。ルイーダさんは私という生きのいい魚が釣り針に食いついたと見て手応えにグッと拳をにぎった。

「ケイコさんも使えるようになるかもしれませんよ」

「なるかもしれない、というのはどういうことですか」

「その問いには魔法や魔術の仕組みからお話して答えと致しましょう。

 まず、この世界には魔力というものがあります。生物や、無生物、ありとあらゆるものにあるエネルギーのことです。これれが運動し、何らかの現象を起こす。これを私達人間は油かすの発火やコップに入れた水の蒸発といった魔力の絡まない現象と区別するために『魔法現象』と呼びます。魔法現象は、魔力が一箇所に固まり、指向性を持つことで発生します。ここまではいいですか?」

「はい」

 つまり、虫避けジェットとライターを使った火炎放射器は『自然現象』、魔力が燃えると火の玉という『魔法現象』となるということだ。科学的視点も捨てていないのだな、と感心しながら頷くと、ルイーダさんは話を続けた。

「よく同一のものと勘違いされるのですが、魔法と魔術は違うものです。魔法、というのは純粋な魔法現象のことであり、つまり、触媒を使わないで発生する魔法現象のことです。対して魔術は触媒を利用して発生させる魔法現象のことを言います」

「その言い方から察するに『魔法使い』と『魔術師』は別物ってことですか?」

「その通りです」

 頷いたルイーダさんが、杖を掲げる。上にきらきらした宝石のようなものが嵌まった杖だ。

「この、杖の先についているもの。これが触媒です。大体は魔物の体内から採れる魔石ですね。これもそうです。魔術師はこのような外部機関を使って魔法現象を打ち出すもの。対して、魔法使いはこのような触媒を用いません。少し前までは魔法使いは外ではなく体内に触媒となる魔石があるから触媒なしで魔法現象を起こせるのだと言われていましたが、近年の解剖研究によりその可能性は否定されました」

「解剖研究、って、魔法使いの体を切り刻んだんですか……?」

「それができたら一番良かったのですけど、生憎本物の魔法使い自体が今から三百年ほど前に亡くなりましたからね。無理です。代わりに、魔法を使う魔物を生け捕りし、解剖して調べたそうですよ。魔物はたまに体内に魔石を持っていることがあるのですが、魔法を使う個体も、使わない個体も、持っていたり持っていなかったりと規則性がなかったのです」

 つまり、魔法を使うのに魔石を持っていない個体がいれば、魔法を使わないのに魔石を持っている個体、魔法を使って魔石も持っている個体、なんてものがうじゃうじゃいたってことだ。そら関連性を見いだせずに研究も立ち止まっちゃうもんである。

 うむうむ、と頷きつつ、ふと気になったことを聞いてみる。

「魔法使いと魔術師はどっちの方が強いとかあるのですか?」

「そうですね、行使する魔法の種類にもよるので一概にこうと言い切ることはできませんが、触媒を通すというロスを挟まぬ分、魔法使いの方が魔法現象に注げる魔力が多いのでより高威力の魔法現象を発生させることができるとされています。ですが、魔法使いというのはごく稀にしか生まれませんので細かい実験はできてません。これはあくまで歴史書に載っていた魔法使いの起こした魔法現象を研究して得られた仮説です」

「そんなに少ないんですね」

「そうですよ。魔術師自体もそう多くありませんしね」

 魔術師は確かに字面からして狭き門っぽそうだ。イストワールでも魔術師系は直接的な物理戦闘職よりもトリッキーなプレイスタイルを要求されており、一線級と言い切れるプレイヤーには魔術師は少なかった。PVPになると接近戦に持ち込まれやすくて不利ってのもあると思うね。

 魔術師になるには、まず、魔力の感知ができるという素養が必要らしい。

 人間のうち、魔力を感知できるのは十人に一人。

 感知した魔力を意のままに操ることができるのはさらに十人に一人。

 その操るレベルが、例えば一日にコップ一個程度のものをある机から隣の机に移動させるというお粗末なものであることが殆ど。このレベルの人間、もしくは魔力を意のままに操る才能に秀でてはいるものの魔法現象を起こせぬ者が触媒という外部機関を用いて魔法現象を起こす人が魔術師という存在らしい。

 で、この操るレベルが一般的に『魔法使い』と聞いてイメージするレベルである人が、一気に確率が減って千人に一人とか二千人に一人とか、らしい。魔術師の中には触媒を巧妙に隠し己を魔法使いと言い張ってふんぞり返る人間がいるが、そういのこそニセ物なのだそうな。

「そりゃそうでしょうね。本当の魔法使いなら態々吹聴はしないでしょう」

「そうなのよね。でも、それがわからないほど馬鹿な人がそういう嘘を並べ立てるものなのよ」

「なるほど道理です」

 馬鹿をやらないのは、馬鹿をやっても意味が無いと理解できるほどの頭がある人間だけ、ということだ。道理である。

 ふむふむ、と頷くと、ルイーダさんは私の理解レベルを確認して説明を続けた。

「さらに、魔力には属性があります。光、闇、木、火、土、金、水の七属性ね。多いけど、これは自分が使えなくても魔法現象に相対した時に大切になるから覚えておいて下さいね」

 後半五つの並べ方に、やけに覚えがある。こういう西洋ファンタジーな世界ではあまり見ない属性の分け方だと気付くのに時間はかからなかった。

(まさかの五行思想か)

 五行思想とは古代中国に端を発する自然哲学の思想である。万物は木・火・土・金・水の五種類の元素からなるという説である。 詳しくはググれかすとなってしまうのだが、簡単に言うとそれぞれの属性に自分と相性のいいものや自分と相性の悪いものがあるのだ。光と闇はこれに入らないが、大方太極図から来ているんじゃないだろうか。見た目西洋風の世界なのに東洋の考え方も混じっていて不思議だ。

「互いの性質は、こんな感じです」

 ルイーダさんの手の中の杖が、土の露出した辺りに下ろされる。そのまま彼女は円の上に等間隔になるように木・火・土・金・水を現す文字を並べて書き、一つずつ矢印で結んでいった。

「先ずは相生から教えるわね。木生火、木は燃え火を生じる。火生土、物が燃えると燃えた後には灰が残り、灰は土に還る。土生金、鉱物・金属は土の中にあり、土から金属を得ることができる。金生水、金属の表面には水が生じる。水生木、木は水によって養われる。こんな所ですね」

 そして次に、五つの記号の間に五芒星を書くように線を五本引いた。

「次は相剋。木剋土、木は根を地中に張って養分を吸い取って土地を痩せさせる。土剋水、土は水を濁す。土は水を吸い取り、せき止める。水剋火、水は火を消し止める。火剋金、火は金属を熔かす。金剋木、金属製の斧や鋸は木を傷つけて切り倒す。

 光と闇は互いに違いを打ち消す性質ですね」

「魔力に属性があるということは、人の魔力にも属性があるのですか」

「ご明察。あるます。感知できるできないに関わらず、大小こそあれ人は皆魔力を持っている。この魔力量の鑑定は普通神殿で洗礼と一緒に行うのだけど、人の見た目に大体は出ているものなのですよ」

 笑いながら、ルイーダさんは自分の赤い髪に触れた。

「私は、見ての通り髪が赤くて目が緑です。火の属性と木の属性を持っています。それと、身体には現れていないのですが、水の属性も。大体の人間は三から四属性を持っており、属性を持っている魔法現象の方がより少ない魔力で高い効果を出せます」

「となると私は……」

 私は……というか、アメリアの体は、金髪に青眼というスタンダードな西洋人の配色だ。それを見て、ルイーダさんは頷いた。

「少なくとも金の属性と水の属性を持っていますね。色がはっきりしているから余程強い加護持ちということになるかしら」

「カゴ?」

「ええ。金の属性と水の属性を持つということは、それはつまり金の神と水の神の力を持つということですから」

 魔法という学問の話をしていたはずなのに一気に宗教じみてきた。と、同時に、私は自分が勉強を開始すると同時に聖書を手渡された理由を理解した。どうやら、この世界、神というものが私の考えもつかないくらい身近なものらしい。

 なるほど、と頷きつつ、私は聖書の最初のページにある創世神話に目を向けた。

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