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そっとビロードの中に横たわるそれを、持ち上げてみた。
あめ色の木の肌は吸い付くようにリカの手になじみ、その細いフォルムはリカの手にぴったりフィットする。
木の棒にしか見えないが、きっと魔法のアイテムに違いない。
木の棒と言っても柄の部分には精緻な文様が彫られていて、柄の先端にはチャームが揺れていた。
慌てて床に落ちたままの手紙を拾ってみる。
其処には見慣れた蛇の印の封蝋。
確かにあの人からの届け物に違いない。
いそいそと手紙を開けてみるとそこには見慣れた文字が並んでいる。
『久しぶりだね、リカ。
始めにおめでとうと言わせて欲しい。
魔法の世界へようこそ。
魔法の世界は毎日が驚きと喜びと落胆の連続だ。
しかし、これまでの試練を乗り越えられた君なら、きっとどんな試練でも乗り越えてゆけると私は信じているよ。
是非とも君の師匠のいう事を良く聞いて、勉学に励んでほしい。
それと一緒にプレゼントも贈っておいた。
魔術師は魔法を使えるようになると、魔法を使いやすいように杖を送るのが習慣になっている。
君もこれからの勉強で役に立ってくるはずだ。
是非とも活用して欲しい。
ではまた。』
そこで終わっていた。
彼のいう事にはこれは杖らしい。
しかし、杖といえばマリエッタの使っている身長ほどもある大きな杖を思い浮かべる。
マリエッタの杖は、曲がった木で出来ていて、その先には大きな宝石がはめ込んである、いかにも魔女が持ちそうな杖で、マリエッタの年老いた身体を支える役目も担っている。
しかし、これはどう見ても棒にしか見えない。
丁度指揮棒にそっくり。
持ち手の部分には花の彫刻が施されていて、端にはチャームが揺れていて、雫の形をした藍色の宝石が綺麗で、その光にリカは見とれてしまう。
そんなリカに声がかかった。
『あら、リカ。また貢ぎ物?』
「あれ、レティお帰り。」
散歩から戻ってきたレティが窓から顔を覗かせた。
最近では大きくなりすぎて移動が困難なため、家には入ってこない。
「貢ぎ物って嫌な言い方しないでよ。」
『でもひっきりなしに送ってくるんだからそうじゃない?』
「これは魔力の調節がうまくできるようになったお祝いなの!」
『ふぅん。でもそんな貴重なのほいほいあげるなんて、やっぱり貢ぎ物なんじゃないの?』
レティが言うにはチャームについている宝石は非常に貴重なものらしい。
マリエッタが帰ってきて、またプレゼントをもらったことを報告すると、マリエッタは眉を吊り上げて怒り出した。
これにはリカもびっくりした。
いままでもたくさんプレゼントはもらっていたが、マリエッタが怒ることなんて一度も無かったからだ。
しかし、今は送られた杖を今にも真っ二つに折ってしまうのではないかとはらはらするほど、力強く杖を握り締めていた。
「あの馬鹿!!アタシの許可もなくリカに杖を与えるなんて、年寄りの楽しみを奪うなんていい度胸してるじゃないのさ!!」
「お、落ち着いてマリーさん。そんなに怒ったら血圧が上がって具合悪くなるよ!」
リカがマリエッタを宥めるように言うと、やや怒りを抑えたマリエッタは深呼吸しながら椅子へ腰掛けた。
しかし、眼は据わったままである。
年寄りを興奮させるものではない。
リカはマリエッタを落ち着かせようと、最近上手になったと褒められた薬草茶を入れに、キッチンへ向かう。
リカ専用の踏み台に登って食器棚に仕舞われたポットを取りだし、ずらりと並んだ缶の中からマリエッタの好きな薬草を選んでポットへ投げ込み、暖炉にかかっているヤカンから湯を入れる。
もちろんそれもリカ専用の小さめなヤカンである。
部屋いっぱいにいい香りが広がった。
しばらく蒸らしてからマリエッタのいるテーブルまで運び、リカとマリエッタのカップを出す。
そこへお茶を注げば、ぶつぶつと呟いていたマリエッタもそれに気がついて、胸いっぱいにその香りを吸い込むと、ぎゅっと寄った眉間の皺が、ゆるゆるとほぐれていく。
「ああ、いい香りだね。」
「ちょっと落ち着いてね、マリーさん。はい、どうぞ。」
リカがお茶のカップを差し出すと、マリエッタはそれを受け取って、ため息をついた。
「みっともない所を見せたね。アタシの計画が台無しだよ。まったくもう。」
そう言ってマリエッタは行儀悪くずずずーッと茶をすする。
熱いはずなのだが、どうやってあんなに盛大にすすれるのだろうか。
猫舌のリカは少しうらやましい。
そんな風にマリエッタを眺めていたら、不思議そうにマリエッタが見返してきたので、慌ててリカは先ほどの杖の事を聞いてみる事にした。
「それであの杖の事なんですけど…。」
「ああ。実はね、リカの魔法の勉強がしやすいようにアタシも杖を注文してたんだよ。」
「ええ!?」
まさかのマリエッタの言葉に、リカは大声を上げてしまった。
どうやら手紙の送り主はマリエッタの許可なしに杖を送ってしまったため、マリエッタの注文した杖が無駄になってしまったらしい。
「じゃ、じゃあこの杖はお返ししたほうが…。」
「いや、その杖はアンタ専用に作ってあるようだから、それはもらっておきな。
予備にアタシのあげる杖を使えばいい。魔法を使うのは思ってる異常に危険がいっぱいなんだから、アタシだって杖が折れたのなんて何度あったかわからないよ。」
「そうなんですか?じゃあ、マリーさんがくれるのは大事にとっておきます。」
「それがいいよ。本来なら弟子の杖ってのは師匠が用意するもんなのさ。
だからこの前里へ行ったときに業者に頼んで注文してたのに、あの馬鹿は後先考えずに行動するから困ったもんだよ。アタシがリカの杖を頼んでるって考えれば気付きそうなもんだろうに…。」
お茶を飲みながら未だにぶつぶつと文句を言っているマリエッタ。
やはり楽しみにしていたものを取られた怒りは、お茶くらいではなかなかおさまらないらしい。
「ところでマリーさん、魔力の調整が出来るようになったから、次は魔術の基礎を練習していくんですよね。」
前日調整の修行を終えたリカは、マリエッタからこれからの修行の工程を聞いていた。
これから開始されるのは、いよいよ魔術の練習だ。
もちろん基礎の基礎。
なのでマリエッタの家でも出来る簡単な魔術を練習する予定なのだ。
「そうだね。杖が届いたらすぐに始めようと思っていたんだけど、それがあるなら明日からでも始めようかね。」
「はい。私すごく楽しみです!」
「魔術の基礎の本を出してくるから明日の朝から始めよう。それまでにあのせっかち男にお礼の手紙でも書いてやりな。」
「はい、分かりました。」
いよいよ本格的な魔術の修行に、リカはわくわくしすぎて、その日の夜はなかなか眠れない夜になったのでした。
久々の更新です
大変お待たせして申し訳ありません。
ようやく再開できそうですが、亀更新になります。




