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翌日から本格的に精霊を使った魔力の調整の修行は開始された。
やり方はとっても簡単。
お話をしながら精霊に少しずつ魔力を与えて、成長させるという方法だ。
実はこのやり方はすごくリカに合っていたことが発覚した。
レティに少しずつ魔力を流すと、量が多すぎればレティがすかさず注意してくれる。
丁度いい魔力を流すと、極楽極楽、とばかりにレティが蕩けた顔をするのでそれも楽しみの一つだ。
物言わぬ魔石と違い、魔力が多すぎればレティがすぐに言ってくれるので大変分かりやすい。
一月ほどこの修行を続け、再びヨハンと共に再びあの石の柱へと向かった。
ヨハン曰く、始めの感覚さえつかめてしまえばきっと出来るはずだから、魔石を使った修行に切り替えてリカが本当に魔力をコントロールできているのか確認するらしい。
「でもあんまり自信ないです。」
『何言ってるのよ、リカ。ちゃんと私が欲しい量をくれるようになったし、私はちゃんと成長できたでしょう?』
そういうレティは始めのころよりかなり成長していた。
横に。
長さはそれほど変わらないのだが、太さがリカの両手でも指の長さが足りないほど成長していた。
本人はそれが嬉しいらしく、一日三回に分けて与えられるリカの魔力をもりもり受け取っている。
別に太っているわけではないとレティは言っているが、本当の所はどうなのかヨハンに聞いてみた。
「それは太ると思うよ。リカの魔力は栄養満点な上に味も良いんだから、そんな魔力を一日三回も与えられてたんじゃ太らないほうがおかしい。」
と、笑ってヨハンが答えてくれた。
そんな爽やかに女性を太っていると断言するヨハンを、リカはちょっぴり軽蔑したが、レティは気にしていないようなので、リカも遠慮なくレティに魔力を与え続けた。
美味しい美味しいと魔力を受け取ってくれ、さらにはおねだりまでしてくれるのだから、無理にダイエットなどすることはない。
結果、こんなしめ縄のような蛇が出来上がったわけである。
これ以上太ればツチノコのようだと思ったことは、レティには秘密だ。
一行が再び魔石の柱へ着くと、そこは変わらずに石の柱がそびえ立っていた。
その中のリカでも持てるくらいの石をヨハンが拾ってきて差し出したが、リカは躊躇したようにそれを受け取らない。
それにヨハンは苦笑して、リカの手を取るとそこに魔石を押し付けた。
リカの視線は魔石にじっと注がれている。
「さあ、レティに魔力を与えたときみたいにやってみよう。レティの尻尾の先に魔力を注ぐイメージだよ。」
『大丈夫よ!リカならきっとできるわ。』
ヨハンとレティの声援に背中を押され、リカは心を決めて、深呼吸をした。
精神を集中させて身体の魔力の波を感じる。
これは毎日していることなので簡単だ。
身体の魔力の波身体の内で固まりに練り上げて、腕から指の先へと押し流していく。
それをいつものように細く、慎重に石へと送り込む。
目指す地点へとまっすぐに、分散しないように送り込めば、魔石はあっけなく割れた。
今までのように粉々に砕けるのではなく、リカが目指した場所のみが綺麗に裂ける様に割れたのだ。
破片は軽い音を立てて、リカの足元へ落ちた。
それを信じられないような目で見ていたリカは、ヨハンの方を恐る恐る見てみる。
ヨハンは満面の笑みを浮かべて、頷いた。
それを見て、ようやくリカは魔力を自分の思うとおりに操ることが出来るようになったと気がついた。
「よく出来たね。これで魔法の勉強に進むことができるよ。」
『よかったねリカ。』
「う、うん。」
まだちゃんと使いこなせるか分からないが、ヨハンとレティに言われて少し自信がついた。
ようやく魔法の勉強をすることができる。
マリエッタたちの使う魔法を習うことが、ようやく出来るようになったのだ。
『リ、リカ?どうしたの?』
「具合でも悪いのかい?」
先ほどとは打って変わっておろおろし始める二人に、びっくりしたら、ヨハンが教えてくれた。
「りか、君泣いてるよ。」
『どうしたの?どこか痛いの?』
言われて自分の頬に手を伸ばすと、冷たい感触がして、自分が泣いていたのだとようやく気がついた。
どうやら感極まって無意識に泣いていたらしい。
恥かしくてごしごし袖で拭うと、慌ててヨハンがハンカチを貸してくれた。
「す、すみません。お恥ずかしい所をお見せして。」
「リカは頑張ったからね。ほっとして涙が出ちゃったんだね。」
ヨハンはリカの頭を撫でながら、かわいいなあとほのぼの思っていた。
自分の周りには生意気で可愛げのない子供達ばかりだし、もともとエルフの森に子供は少ない。
この子もらっちゃ駄目かなあ。
そんな事をすれば王都にいる友人が鬼のごとく怒り狂ってヨハンを追ってくるに違いないが、こんな可愛い子がそばにいれば毎日楽しいに違いない。
まさかヨハンがそんな事を考えているとは知らずに、リカは頭を撫でられていた。
が、次の瞬間、森の木々の隙間を突風が通り抜けた。
「ひゃぁ!」
「おっと」
びっくりしたリカとヨハンの周りを竜巻が襲ったように、風がぐるぐると回っていく。
あまりの風の勢いに身体のバランスを崩したリカを、ヨハンが抱えあげた。
目も開けていられない風がいつまで続くのか分からず、恐怖にヨハンの首にぎゅっと手を回したリカだったが、徐々に風は収まっていく。
そっと目を開けると、ヨハンとリカの目の前で木の葉がくるくると踊っていた。
かと思えば何も無い所からひらりと幽霊のような女の人が現れた。
幽霊といっても身体が透けて見えるだけで、そんな恐ろしいものには見えない。
萌黄色の髪を長い三つ編みにしていて、若葉の葉の様なつり目に形のよい唇はきゅっと口角をあげて、好戦的な笑みを浮かべていた。
まるで悪巧みを考えるいたずらっ子のようだが、決してその可愛らしさを損なうことは無い。
それに何より目が行ったのは、背中に生えた蜻蛉のような美しい羽が生えている。
『ようやくみつけましたよヨハン殿。貴方の叔父上が大変お怒りでございます。』
その子供の様な容姿とは裏腹に、落ち着いた声が彼女の口から発せられる。
どうやら彼女はヨハンの知り合いの精霊らしい。
ヨハンを見上げると、彼はやれやれとため息をついて、リカを地面に降ろした。
「やれやれ、迎えをよこすなんて一体何事だい?」
『シニュエル様よりすぐに帰還なされよとのご命令でございます。館に着き次第事情は説明するそうです。』
「ふぅ、せっかくリカの修行が面白くなってきた所なんだけどな。」
ヨハンが呟くと、その精霊の視線がリカのほうを向いた。
とたんに精霊は花が綻ぶようにうっとりと笑顔になる。
びっくりしてぺこりと挨拶をすると、これまた頬を薔薇色に染めて、やや目を潤ませる。
そんな可愛らしい精霊にヨハンはやれやれとため息をついた。
叔父の使役する精霊にもばれているのだから、きっと叔父はリカのことを知ったに違いない。
まあ、一ヶ月もばれずにいたのだから上出来だろう。
「仕方ない。リカ、私はちょっとエルフの里に帰らなければならなくなったから、後の魔法の修行は今までどおりマリエッタ殿に見てもらいなさい。もし、何かあれば例の彼に手紙を書いてもらえばすぐに来るよ。」
「はい、お忙しいのに今までありがとうございました。これからも頑張ります。」
「うん期待してるよ。」
そう言うとヨハンの足元に魔方陣が光り、あっという間にヨハンの姿は消えてしまった。
一緒にいた精霊も行ってしまったらしく、姿を消している。
「行っちゃった…。」
『なんだか無責任じゃない?』
「でも目標だった魔力の調整は出来るようになったんだし、元々私のお師匠様はマリーさんだもの。」
『じゃあこれからは魔法の勉強だけになるの?私に魔力はもうくれない?』
「もちろんこれからも練習はしていくつもりだよ。これからもお願いしてもいい?」
『もちろん喜んでさせてもらうわ。』
そう言ってレティは器用にウインクして見せた。
感想さりがとうございます。
空回りすぎてだらだら長くなってしまいましたが、ようやく話も進みそうです。




