19
翌日、ヨハンを伴って再び森の中で修行をすることになった。
マリエッタは、リカにはヨハンがついていてくれることになったので、家で留守番をしていることになっている。
ヨハンと狼たちと共に、樹海を進んでいく。
不思議なことにヨハンは進むべき道が、分かっているようだった。
リカは狼と話せば道は分かるが、彼は何も言わなくてもずんずん進んでいく。
そして、彼がたどり着いたのは、リカの来たことの無い泉だった。
澄み渡った水がこんこんと湧き出る泉は、見た事が無いほどの美しい青をしていた。
「わあ、綺麗なところですね。」
「ここは精霊が多く集まる場所なんだよ。君には何も見えないだろうけど、君の足元に精霊がいるんだよ。」
ヨハンにそういわれて足元を見てみるが、そこには自分の足がただあるだけで、精霊など見えなかった。
「精霊を見るには、エルフの手助けが必要なんだ。私が君の目に力を送り込めば、君は精霊を感じることが出来るようになる。」
「そんな簡単に出来るようになるんですか?」
「エルフにとっては簡単だよ。そうやってエルフは精霊と共に生きてきたのだからね。
エルフの子供も親からそうやって見る力を授けてもらうのさ。」
なるほど。だからエルフにしか使えない術なのか。
ヨハンは準備はいかい?とリカに言った。
どうやらこのまますぐに力を送り込むつもりらしい。
リカはなんだかどきどきしてきた。
今まで見えなかったものが見えるようになるなんて、まるで前の世界で言う霊能力者になるようだ。
高鳴る胸を押さえながらも、ヨハンに心の準備は出来ていると伝えると、彼はリカに笑ってこう言った。
「そんな緊張することは無い。精霊たちは優しいし、いつだって君の味方だよ。」
その言葉にリカはほっとして力を抜いた。
ヨハンに目を閉じるよう言われて、目を閉じる。
ヨハンの手が肩に置かれたかと思えば、そこから温かい何かが流れてくる。
それはリカの身体をめぐり、身体の中を一周してヨハンの手へと戻っていく。
温かくも激しい力の流れに、リカの口からため息が漏れた。
「さあ、目を開けてごらん。」
ヨハンの声がして、肩から暖かな手が離れていく。
言われたとおりにそっと目を開けると、そこには白い蛍の様な光に囲まれたヨハンがこちらを見つめていた。
光はひらひらと、リカのほうへも寄ってくる。
「下を見てごらん。水の精霊が挨拶したがっているよ。」
水の精霊?
そういえば、足元に精霊がいると先ほどヨハンが言っていたのを思い出したリカは、自分の足元を見下ろして心臓が口から飛び出すかと思うほどびっくりした。
びっくりついでに固まってしまった。
なんとそこには長さが10メートルはある白い蛇がリカの足に巻き付いていたのだ。
「ひッ!」
「わぁ!リカ!!」
ヨハンの慌てた声と共に、リカは意識を失ってしまった。
次に目を覚ますと、そこはマリエッタの家の自分の部屋のベットの上だった。
どうやら気絶してしまったらしいと気がついたリカは、ちょっと落ち込んだ。
確かに蛇には驚いたけど、まさか気絶するなんて。
せっかくのヨハンの修行初日なのに、失礼なことをしてしまった。
ベットから起き上がると、居間に言ってみようとするリカの足元を何かが通り過ぎて行った。
びっくりしてベットの下を覗いてみる。
そこには先ほどの白蛇がとぐろを巻いて、リカを見つめていた。
どうやらあの後、リカについてきてしまったらしい。
『ちょっと、失礼じゃない。人の顔を見て気絶したかと思ったら、今度はだんまりなの?
挨拶も出来ないなんて失礼しちゃうわ。』
蛇が喋った。
あまりにびっくりしてリカが何も言えないでいると、白蛇はリカのほうへとしゅるしゅるとやってくる。
青い目がじっとリカを見つめていたが、ちろりと覗いた赤い舌にはっとなって慌てて蛇に名乗った。
「さ、さっきは失礼しました!あの、私、リカといいます。貴方の名前を伺ってもいいですか?」
『ふぅん、リカ、ねぇ。私はレティシア。レティって呼んでもいいわよ。』
「レティですね。さっきは本当に失礼しました。突然見えたものですから、びっくりしてしまって。」
『いいのよ、私、自分がどういうものかって事くらい分かってるもの。』
そう言ってつんとそっぽを向くレティにリカはますます慌てる。
いくら姿が蛇でも精霊なのだから、そうと分かれば怖くはない。
蛇のそばに座り込むと、リカは精一杯頭を屈めて謝った。
「貴方を傷つけてしまって本当にごめんなさい。」
『もういいわよ。リカがわざとしたんじゃないって分かってるから。』
そう言ってレティはリカの頭を自分の頭で小突いた。
リカを覗き込むレティの目は、あの泉と同じ青い眼をしていた。
『で、リカとあのエルフは私の住処にやってきたの?リカったらとってもいい匂いがするから、思わず泉から出てきちゃったわ。』
「いいにおいですか?私とヨハンさんは、私の魔力の調整の練習をするために来たんです。
私、魔力の純度が良すぎるみたいで、エルフと同じ精霊に力を借りるやり方で魔力の調整を練習することになって彼とあの泉にきました。」
『ふぅん。じゃあ私が力を貸してあげる。リカの魔力はいい匂いがするし、とってもいい気持ちになるんだもの。ね、いいでしょう?』
「は、はい!よろしくお願いします。」
魔力がいい匂いがすると、精霊は嬉しいものなのだろうか。
リカは首をかしげた。
とにかく精霊は見えるようになったし、協力してくれる精霊も見つかったし今日はいい感じのスタートとなったのだった。




