18
マリエッタの家に着いた二人は、とりあえずマリエッタが帰るのを待った。
もちろん狼に頼んでリカが家に帰ったことを伝えてもらうのを忘れない。
その間、ヨハンをもてなそうとリカはマリエッタに教えてもらった通りにお湯を沸かして、お茶を入れようとしたのだが、それは失敗に終わった。
リカの目の前にヨハンが立ちふさがったのである。
リカが火に近づこうとした途端に、笑っているのに目が笑っていない顔でリカを見つめながらこういった。
「大人がいないときに火を使ったら駄目だって言われなかったのかい?」
「で、でもお客様が来たのになにもしないなんて…。」
「そんな気を使わなくたって平気だよ。もしだったらそこの甕の水でもいいんだよ。」
「でもそれ雨水です。」
「う、それじゃあ私と一緒にお茶を入れよう。それならいいだろう?」
そんなやり取りがあり、結局リカが折れて、ヨハンと一緒にお茶を入れることになった。
いつもは火の入っている暖炉は、魔法の力で長時間燃えていて、尚且つ火事にならないよう抑制の魔法も掛けてある便利暖炉だ。
やかんへ汲んできた水を入れると、うんしょ、うんしょ、とよたよたしながら暖炉へかけようとするが、それをひょいと取り上げられてしまった。
見上げればヨハンがにこにこしながらやかんを持って、それを火にかける。
「こらこら、さっきも言ったけど、火に近づいたら駄目だろう。」
「でもマリーさんと料理の準備をするときはこれくらい毎日してます。」
「でも、一人のときは駄目だろう。大人がそばにいるとき以外は近づいたら駄目だよ?約束してくれるかい?」
もちろんマリエッタはリカが本当は大人だと分かっているので、身体が小さくても出来るようなことを手伝わせてもらっているが、確かに彼の言うとおり、マリエッタなどの大人がいないときは、万が一の事もあるので、火の取り扱いは禁止されている。
もし何かあれば責任を問われるのはマリエッタなのだから、ここは慎重になるべきだったとリカは反省した。
「はい。」
「うん、いい子だね。
でもこれから私の修行を受ければ、そんな事も心配しらなくなるよ。」
「ヨハンさんのですか?それはどんなことをするのでしょうか。」
マリエッタの修行は今の所、魔石に魔力を注ぐという単純な作業ばかりだ。
どうやらヨハンの修行はそれとは違うらしい。
「話すより見せたほうが早いだろう。ちょっとこっちへ着てごらん。」
ヨハンに手招きされて暖炉へ近づくと、彼は暖炉の火を覗き込み、そっと手をかざした。
すると火の中でくるくると何かが蠢く。
かと思えば火の中から何かが這い出してきて、それは口からちろりと火の舌を見せた。
それは火で出来たトカゲだった。
「わあ、これ何ですか?」
「火の精霊だね、大きなものではないから火を熾すのに丁度いい。
君、君、少し火を強くしてくれたまえ。」
ヨハンの言葉に従ったのか、トカゲはその場でくるりと一回りする。
するとちょろちょろとしか燃えていなかった火が、やや大きくなって湯を沸かすのに丁度いい火加減になった。
「精霊なんているんですね。それにこんな魔法もあるんですね。マリエッタは呪文を唱えていたみたいですけど。」
「これは魔法とは違うね。どちらかといえば召喚魔法に近い。
これといった名前はついていないんだけど、精霊に魔力を与えて、その代わりに魔法を使ってもらうのさ。
この方法を知っているのは人間でも一握りしかいないし、人間では扱えないものなんだよ。」
「え…?じゃあ、ヨハンさんは?」
人間でないとしたら一体何なのだろう。
いくら人間らしからぬとはいえ、まさか精霊の親玉ではあるまい。
そんなリカの問いに、ヨハンは朗らかに笑って答えた。
「私はこの森のさらに北にある森に住むエルフという種族だよ。
この術はエルフのみが使う術なんだよ。」
「はぁ…、エルフ?ですか。」
エルフといわれてもピンとこないリカは、とにかくヨハンは人間ではないらしい事だけわかった。
とがっている耳も彼の種族の特徴なのかもしれない。
しかし、彼の使った術がエルフとやらしか使えないのであれば、リカにも使えないのではないだろうか。
そのことをヨハンに聞いてみれば、
「君の魔力の性質は人間よりもエルフに良く似ているんだ。だから、精霊たちもよろこんで協力してくれるだろう。」
との事だった。
まあ、確かに普通の人間とは言いがたい身体であるリカならありえることだろう。
まあ、人間では使えない術が使えるという新たな発見に嬉しいと思いながらも、なんだか自分が異常といわれているような気がして、なんともいえない気分になるリカなのであった。




