【第九章】第二ラウンド
翌朝。
レディ・アイリーン失踪から、7日目。
食後の紅茶を飲み干したアラディアは、セバスチャンを伴い執務室へ向かった。レターケースを手に取り、未処理の書簡を選んで両袖机の天板に広げる。
「セバスチャン。この招待状の中に、マクシミリアン・ノースウッド卿が参加しそうなパーティーはあるかしら?」
家令は小さく頷いて、素早い手つきで差出人の家名を確認する。
「こちらのハース伯爵家のチャリティーなどはいかがでしょう」
白い封書が眼下に差し出された。
「ハース家の家門はノースウッド公爵家の傍流にて、伯爵は外交部の重鎮」
「立場上近隣諸国の外交官なども集まりましょうし、フィオナ聖教会の寄付金集めが目的の夜会となれば……」
「宰相補佐の情報収集にうってつけってやつね!」
ぱあああと花の咲くような笑顔で、アラディアは叫んだ。
「セバスチャン、ハース伯爵にチャリティー出席の意思を伝えてちょうだい!」
アラディアvsマクシミリアン。
第二ラウンドのゴングは鳴らされたのだ。
◇ ◇ ◇
気持ちの良い乾いた夜風を感じながら、ハース伯爵家の大階段を登る。エントランスでは若い聖職者たちが神の教えを説きながら教会への寄付を訴えていた。アラディアは父の署名の入った小切手を寄付箱に収めて体裁を整えると、注意深くメイン会場に身を移す。
白を基調に整えられたホールは、セバスチャンの読み通り様々な人種と言葉に溢れていた。飾られた教会のレリーフを見るふりをしながら、廊下や部屋の配置を頭に叩き込む。
しばらくすると、ホールの入口が色めき立った。主催のハース伯と夫人が平身低頭に出迎えている姿が見える。夫妻の視線の先には黒髪の青年――。アラディアの求める男の姿があった。
「ノースウッド卿、ようこそお越しくださいました」
「久しいな、ハース伯。夫人も健勝でなにより。今日は父の名代で訪れただけだ、堅苦しい挨拶はなしにしてもらおう」
内ポケットから出した分厚い小切手をスマートに手渡すと、伯爵夫妻は更にうやうやしさを深めてペコペコしている。
そこからは談笑タイムだった。
マクシミリアンのもとには、入れ替わり立ち替わり貴族たちが訪れ、人の波が途切れない。
(あんな小難しい顔した無愛想な男でも、血筋と地位は侮れないわね)
離れた人混みに紛れながら、アラディアは機会をうかがう。
一刻程経ったろうか――。
マクシミリアンは夜会の喧騒を離れ、広場のすみに用意されたワイングラスを手に取ると、乾いた喉を潤した。軽く息を吐き出すと、黄昏れたような眼差しで暗闇のガーデンに視線を移す。
そこに近づく、黒い影。
待ち構えるように、アラディアが姿を現した。




