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【第三章】円卓の魔女

「王太后様の話も、彼の話も本当だわ!」

 馬車が辻の先に消えると、アラディアは目を輝かせ振り返った。

「ジェイソンは朝の訓練の途中で上官に呼び出され、そのまま王太后様に謁見したみたい。上官と一緒に戸惑っている姿が見えたの」

「そのまま伝令を頼まれて、乗った馬車も王宮のものだったし。間違いないはずよ」

 

 まるでその場で見てきたように語るアラディアを、セバスチャンは小さくため息をつきながら咎める。

「桃色の脳細胞という悪名……。爺めは少し悲しゅうございます」

 思い当たる節がありすぎて、アラディアはとっさに目をそらした。

「セバスチャン、言いたいことはわかるわ」

「でも手を触れないと、情報が取れないし……」


「未婚のお嬢様が、かくも軽薄に異性に近しい態度を取るのは感心いたしません」

 もごもごと口ごもるアラディアは、正論でピシャリと釘をさされた。今更ながら自分の取った行動を思いだし、恥ずかしさでみるみる頬が赤くなる。


(仕方ないじゃない。私には、これしか方法がないんだし……)

 自己欺瞞と自己肯定を繰り返し、アラディアは顔をあげ、語気を強めた。


「だって、殿方にはあれが一番手っ取り早いのよっ!」


 魂の叫びだ。



 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 円卓の魔女を名乗り、魔女として振る舞うアラディアに異端の力はない。彼女は魔女ではなく、この国の誰もが持つ聖魔法の最上位互換スキル【神霊の宿り手】を与えられ、生を受けた。

 宿り手は大変に希少であり、その能力者は【ギフテッド】と呼ばれる。この能力がどれほど稀有な存在であるかといえば、かつてはギフト持ちの所有権を争い、一国が消えたほどだ。


 アラディアのギフトは、肌で接触した人間の【現世記憶(アカシック・レコード)の映像と感情を断片的に読み込む】インストールの能力であった。

 幼少期。娘が家族や知人の記憶(レコード)を盗み見しまくっていることに気づいたピーチャム伯は、優しく小さな頭を撫でながら言い聞かせた。

「見たものを他人に話してはいけないよ」

「見えることもだ。わかるかな? 小さなレディ」

 暖かく包み込む父の手から現世記憶を読み込んで、幼き娘は愛の言葉と理解した。私は家族に愛され守られている。安心感につつまれた。


 5歳の年を迎えると、聖魔法の洗礼を受けた教会で、神霊の宿り手と認定された。

 宿り手は重大な隠匿事項であり、能力を知るものは教皇聖下と家族、それにセバスチャンだけだった。王家にすら、神霊の力の存在は明かされていない。


 能力は隠された。

 だが、アラディア・ピーチャムは転んでもタダでは起きないタイプだった。

 

(せっかくギフトを貰ってるのだもの、何か役に立たないかしら?)

 

 そうして、気づいたのである。


 本人起因の失せ物・忘れ物なら「一発」

 片恋同士の両思いなら「瞬時に」

 浮気してるのか? なんて聞かれれば「電光石火で」


 自分なら見える。触れてさえしまえば、レコードを辿って答えられるということに。

 人々のささやかな相談にのるうち、探偵業のようなことにも首を突っ込み始めた。肌で接触しなければレコードが見えないという問題も、魔女の降霊術を行うことで解決した。

 降霊術の儀式とは、丸いテーブルを囲んで手を繋ぎ、目を閉じ霊を降ろす。霊やお化けは関係ない!  これなら合法的に相手の掌に触り放題・見放題! と、アラディアは自分の天才的な思いつきに感謝した。


 こうして円卓の魔女は誕生したのだ。


(ただね)

(対面でレコードを視る時は、相手の素肌に接触しなければならないのがなぁ――)

 

 うら若き令嬢の場合、「私は魔女なの! 手相を見て占ってあげる!」と申し出れば、大抵なんとかなるのだが……。こと異性となると、貞淑さ慎ましやかさを美徳とする貴族社会の価値観とは異なり、殿方の肌を撫で回すアラディアの評判は、そちら方面で大変によろしくなくて。


 艶だくの魔女

 桃色の脳細胞

 頭ドピンク


 などと不名誉な名で呼ばれることになってしまったのだが……。


(ならば、そういう女性として振る舞えば、自然に殿方へ近づけるのでは?)

 

 と、どこまでもポジティブシンキング、フライハイ!

 ゆえに。アラディアは王太后の伝令と距離を詰め、媚びた仕草で手を取ったのだ。

 

 ジェイソン・ロスの現世記憶(アカシック・レコード)は読み込まれた。真実とともに。


 アラディア・ピーチャム――――。

 やはりどこまでもタダでは起きない、たくましき伯爵令嬢なのである。


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