混沌16
ガイアは、オケアノスの力がダクリアの求めるものに適していると考え、彼を自らと、水を必要とするダクリアと共に森で暮らさせた。
一方で、混沌の存在は、空気の巡りとともに徐々に変質していった。彼女を覆っていた黒は次第に薄れ、その輪郭もまた曖昧になっていった。
そしてある日、ダクリアと森を歩いていた最中、彼女は不意に倒れた。その身は崩れ始め、黒き痕は霧のようにほどけ、やがて空気の中へと溶けていった。ガイアたちは慌てて駆け寄った。「なぜ……こんなことに?」「空気の流れが彼女の黒き粒子を散らしたのだろう……それで、形を保てなくなったのかもしれない」ダクリアはそう推し量った。「空気を巡らせたのは、僕のせいなの?……ごめんなさい……行かないで、母さん……」ウラノスは泣き叫んだ。彼らは皆、混沌を母として慕っていた。「それはあなたのせいではないわ。でも――母さん、か。悪くない呼び名ね。けれど、もう十分。私はもとより、定まった形を持つ存在ではなかった。今や世界は巡り始め、あなたたちもまた、それぞれに在ることができる。」「でも……私は、あなたを……」「泣くのはおよしなさい。たとえこの身が散ろうとも、私は消えはしない。あなたたちの傍に在り、常に見守っている。ただ、形を失うだけ。空気の流れの中に、そしてあなたたちが経験するすべての狭間に、私は在り続ける。だから――また、必ず巡り会える。」そう言い残し、混沌はついに姿を失った。その形は完全にほどけ、もはや定まることはなかった。だがその存在は、世界の巡りの中へと静かに溶け込み、なお在り続けていた。
「彼女は……消えてしまったのね……」ダクリアはそう呟き、静かにその場を後にした。
森はなおそこに在り、風は吹き、水は流れ続ける。しかし、そのすべての中には、目には見えぬ何かが、混沌の残した気配を、今なお留めているように思えた。
参考文献
Hesiod(紀元前約700年)Theogony(=『神統記』).
推定総盗用率:およそ10–30%




