混沌11
その時、ウラノスはすすり泣きながら、小さな腕を持ち上げた。次の瞬間、見えない何かに引かれるように、空気がわずかに震え始める。
最初はただの揺らぎに過ぎなかった。だが、それはすぐに広がり、空間そのものが呼吸するように循環を始める。世界を覆っていた黒い混沌の気配が、その流れに触れた瞬間、ほどけるように崩れていった。
混沌はわずかに歪んだ気配を見せる。「……空気を、組み替えているのか?」風は静止から微かな流れへ、そして澄んだ気配へと変質していく。重く濁っていた空間は、まるで幼い手によって丁寧に洗い流されるように、静かに、空間は透明になっていった。
一方、タルタロスはなおも泣き続けていた。その感情は鎮まるどころか、むしろ深く、濃く沈殿していく。大地がかすかに呻き、地表に細い亀裂が走る。その裂け目の奥から、暗赤色の光がゆっくりと滲み出た。
ダクリアの視線が鋭く揺れる。「溶岩が……呼応している」亀裂は静かに拡張し、地底の熱が“意志”のように這い上がる。空気の位相がわずかに乱れ始めた。
混沌は片手を掲げる。空間そのものが軋むように歪み、黒い力が収束していく。ウラノスによって整えられたばかりの領域が、再び安定へと引き戻された。
上昇する浄化の流れと、下降する覚醒の熱は、互いに干渉せず拡張を続ける。一方は天を“整え”、もう一方は地を“目覚めさせる”。その中間に、ガイアは立っていた。退くこともなく、ただ世界の変質を見つめている。彼女は静かに言葉を落とした。「彼らは……世界への干渉の仕方を学び始めているのかしら」その瞬間、空間は一度だけ完全に静止した。
参考文献
Hesiod(紀元前約700年)Theogony(=『神統記』).
推定総盗用率:およそ10~25%




