人間36
ナオとガウ、そしてナムは、来る日も来る日も草原を歩き続けていた。
草原はいま、生命がもっとも旺盛に息づく季節を迎えていた。草は波のように果てしなくうねり、微風にそよぎ、陽光に照らされて乾いた葉擦れの音を響かせる。空気には数え切れないほどの草花の香りが満ちあふれていた。そこは豊穣でありながら、同時に絶えず危険を秘めた世界でもあった。一見すればどこまでも単調な草の海だが、その細部には驚くほど豊かな変化が潜み、花々に劣らぬ数の動物たちが命を育み、種子と卵は尽きることなく大地に残されていた。深い草むらやエニシダに覆われた小島、ヒースの茂る半島のあいだには、オオバコ、オトギリソウ、セージ、キンポウゲ、ノコギリソウ、ナデシコ、ナズナが入り混じるように群生している。ときには裸地に張りつくように広がり、まるで鉱物がゆっくりと結晶してゆくかのような原始的な景観を見せる。そこでは多くの植物が根を下ろすことさえかなわないが、やがてゼニアオイやノバラ、ヤグルマギク、アカツメクサ、星を思わせる灌木が再び大地を彩っていった。なだらかな丘陵が幾重にも連なり、そのあいだを谷が蛇行する。淀んだ水たまりには昆虫や爬虫類がひしめき合い、マンモスを思わせる姿の巨岩が静かにそびえていた。アンテロープやノウサギ、サイガが草原を駆け抜け、ときおり狼や野犬が姿を現す。オオノガンやヤマウズラは羽ばたき、ハトやツル、カラスは高い空を悠然と舞う。さらに馬やノロバ、ヘラジカの群れが大地を震わせるように疾走し、巨大な灰色熊が緑の草原を徘徊していた。その体躯は大型類人猿のしなやかさとサイの力強さを兼ね備え、虎をもしのぐ剛力を持ち、獅子にも比肩するほどの畏怖を抱かせる。そして、はるか地平線にはオーロックスの群れの影がゆっくりと浮かび上がっていた。
参考文献
Boex, J. H. H. (1911) La Guerre du feu(=『火の戦い』).
推定総盗用率:およそ10–20%




