表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷の令嬢の転職計画〜私を追放した祖国が破産寸前ですが、今は皇帝兄弟からの過剰な愛情表現の処理で手一杯です〜  作者: ぱすた屋さん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/51

第48話『最終監査(ギルド長の破産宣告)』


 ゼムリア商業連法国の裏社会の象徴であり、富の権化とも謳われた『大商会連合』の総本部。その最上階にある豪華絢爛なギルド長室は、今やまるで沈没しかけた泥舟の船底のような、絶望とパニックの悲鳴で満ち溢れていた。


「報告しろ! なぜロンドールの銀行口座が凍結されている!? 資金が動かせんなどという冗談が、この大商会連合に通じると思っているのか!!」


 巨漢のギルド長が、高級なマホガニーのデスクを叩き壊さんばかりの勢いで咆哮する。その額からは、油ぎった冷や汗が滝のように流れ落ちていた。


「わ、分かりません、ギルド長! ロンドール国からの電信によれば、アウグスト帝国からの『国際緊急要請』が発動したとのことで、我が連合の全資産、計七十二口座が完全にロックされています! 現在、手元の金庫にあるわずかな現金のほかは、一シリングすら引き出すことができません!」


「バカな……! なぜ帝国がそんな真似を……! 待て、ならばグランド・バザールの店舗からの本日の上納金はどうした!? 港の停泊料をかき集めれば、数百万枚の金貨が——」


「それが……その港が、完全に干上がっております!!」

 別の配下が、紙切れを震える手で差し出しながら悲鳴を上げた。


「本日未明、ゼムリアの北方に位置する無人島に、アウグスト帝国の第二皇子ルカが『一晩で世界最大の超・巨大関税フリーポート』を建設したという大々的なプレスリリースが大陸中に同時配信されました! 関税はゼロ、帝国の魔導騎士団による完璧な治安維持つきです! 大陸中の商船がすべてそちらの新港へと進路を変更し、我が連合の管理するゼムリア港には、本日一隻の船も入港しておりません!」


「な、何だと……!? 一晩で港だと!? 狂っている、そんな御伽噺のような魔法があるわけが——」


「ギルド長、大変です!!」

 さらに息を切らせた幹部が、部屋の扉を文字通り蹴破るようにして飛び込んできた。


「下部組織の中小商会たちが、一斉に我が連合への謀反(裏切り)を宣言しました! アウグスト帝国の財務省から『負債の全額肩代わり、および帝国流通網への特別アクセス権』という圧倒的な救済買収案(TOB)を提示され、現在九割以上の構成員が帝国への臣従契約書にサインをしております! 我々大商会連合は、完全に孤立しました……!!」


「がはっ……!?」


 資金源の凍結、流通網の完全破壊、そして身内からの組織的な裏切り。

 あまりにも完璧すぎる、そして無慈悲すぎる『経済的兵糧攻め』の三連撃を受け、ギルド長は口から泡を吹いてその場に膝をついた。昨日までこの国の経済の半分を牛耳っていたはずの巨大組織が、たった一晩で、誰からも見捨てられた「ただの肥え太った負債の塊」へと転落したのだ。


 その時だった。


 バタン、と。

 部屋の重厚な防音扉が、優雅に、そして何者にも拒めない圧倒的な力をもって開け放たれた。


「——失礼いたします。大商会連合のギルド長。本日は、貴殿の組織に対する『最終監査』および『破産宣告』を執り行うために参りました」


 静寂が支配する部屋に、氷の張った泉のように冷たく、しかし鈴の鳴るように美しい声が響き渡った。


 入ってきたのは、銀髪に澄んだ青い瞳を持つ絶世の美女。

 戸籍上、帝国の最高権力者たちの妻となり『エルゼ・フォン・アウグスト』の名を得た、アウグスト帝国財務卿その人であった。

 現在のエルゼは、ダークブルーの気品溢れるフォーマルドレスを完璧に着こなし、その手には分厚い裏帳簿の束が握られている。


「き、貴様は……エルゼ・フォン・ブラウベルト……! なぜここに……!?」


「おっと。その汚い口で、僕の可愛い奥さんの古い名前(旧姓)を呼ばないでくれるかな?」


 エルゼのすぐ後ろから、黄金の瞳を獰猛に細めたルカ様が姿を現した。

 その全身から放たれる天才魔導士としての圧倒的な魔力圧が、部屋のガラス窓を一斉にピキピキとひび割れさせる。


「現在の彼女の正式な名前は『エルゼ・フォン・アウグスト』。アウグスト帝国の皇后であり、私の最愛の妻だ。……昨日、君たちが『無給で監禁して奴隷のように働かせる』などという最悪の事業計画(誘拐未遂)を立てていた、その人だよ」


 ドンッ!!!


 部屋の空気が、一瞬にして絶対零度へと凍りついた。

 最後に部屋へと足を踏み入れたのは、黒い軍服を優雅に纏った帝国の最高支配者、レオンハルト様であった。

 彼が放つ物理的な質量を伴うほどの『威圧の覇気』によって、部屋にいた大商会連合の幹部たちは、一歩も動けないままその場に平伏し、恐怖のあまりガチガチと歯を鳴らすことしかできない。


「ひぃっ……! こ、皇帝レオンハルト……! なぜ、一国の最高権力者たちが、護衛も連れずにこんなところに……っ!?」


「我が社(帝国)の最も貴重な最高リソース(妻)を不当に独占しようとした不届き者がいると聞いてね。護衛など不要さ。私とルカ、二人いればこの国を物理的に消滅させることなど造作もないのだから」

 レオンハルト様は冷酷に微笑み、エルゼの細い腰をグイと抱き寄せて、自らの所有物であることを悪党たちに見せつけるようにその髪にキスを落とした。


「お、お二人とも、公衆の面前での過剰な福利厚生スキンシップはコンプライアンス的に少々……。いまはビジネスの時間です」

 エルゼは顔を赤らめつつも、コホンと一つ咳払いをし、冷徹な財務卿の顔へと戻って一歩前に出た。


「さて、ギルド長。こちらの裏帳簿を拝見させていただきました。各店舗からの不当な上納金搾取、関税の横領、そして政府高官への賄賂の記録……。すべて完璧に解読・照合済みです。我がアウグスト帝国の法規、およびゼムリア商業連法国の独占禁止法に照らし合わせ、本日をもって、大商会連合のすべての営業許可を取消し、全資産を没収いたします」


「な……なんだと!? 貴様らにそんな権限があるわけが——」


「権限なら、たった今作りました」

 エルゼは冷たく言い放ち、一枚の公文書をデスクに叩きつけた。


「大商会連合の崩壊に伴い、ゼムリア商業連法国の政府高官たちは、先ほど我がアウグスト帝国への『事実上の無条件降伏および完全買収(吸収合併)』の条約に署名いたしました。本日この瞬間をもって、このゼムリアの市場は我が帝国の完全子会社(直轄領)となります。……つまり、あなたがたはただの『不法占拠者』であり、巨額の脱税と横領を行った『犯罪者』に過ぎないのです」


「ば、馬鹿な……! 一晩で、一晩で我が連合だけでなく、この国ごと買い取ったというのか……!?」

 ギルド長は、信じられないものを見る目でエルゼを見つめ、ガタガタと震え出した。


「命を奪うなどという無価値な制裁では、採算が合いませんからね。あなた方には、これからアウグスト帝国の特別強制労働施設(元婚約者アルフォンスたちがいる場所)へと移送されていただきます。そこで、今回凍結された資産の額——金貨にして約一億枚分の負債を、一生をかけて『無給で』労働マイニングして返済していただきます。ご自身の立てた事業計画通り、無給の奴隷としてね」


 エルゼの完璧な、そして一切の慈悲のない冷徹な微笑み。

 それは、暴力で踏みにじられるよりも遥かに残酷で、逃げ場のない『経済的死刑宣告』であった。


「ぎゃあああああっ! 許してくれ! 悪かった、私が悪かった! 命だけは、全財産は差し出すから、それだけは——!!」

 見苦しく泣き叫ぶギルド長と幹部たちは、部屋に突入してきた帝国の魔導騎士たちによって、無残に引きずられて部屋から連行されていった。


「ふぅ……。これにて、ゼムリア商業連法国の市場健全化(完全買収)プロジェクト、すべての工程を完了クローズいたします。お疲れ様でした、お二人とも」

 エルゼがパタンと裏帳簿を閉じ、満足げに一息ついた、その瞬間だった。


 左右から、再びあの「逃げ場のない激しい熱量」が、エルゼの身体を包み込んだ。


「よく頑張ったね、エルゼ。昼の業務(悪党の蹂躙)はこれで終わりだ。……さあ、ヴィラに戻ろうか」

 レオンハルト様がエルゼの耳元で、大人の色気たっぷりの低い声で囁く。


「そうそう。昨日の『夜の業務』は途中でエルゼが気絶しちゃったからね。今回は魔法薬もたっぷり用意してあるから、朝まで何度も、僕たちの愛を身体の奥までリターンしてもらうよ?」

 ルカ様がエルゼの細い指先を絡め、熱い吐息を吹きかける。


「お、お二人とも、有給休暇の残り日数の確認が……っ!」

 昼間は一国を数時間で経済的に滅ぼした氷の財務卿も、夜になれば、愛する夫たちに甘く溶かされるだけの存在。

 完全買収された南国の夜は、昨日よりもさらに激しく、濃厚な「愛の共同作業」によって満たされていくのだった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ