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氷の令嬢の転職計画〜私を追放した祖国が破産寸前ですが、今は皇帝兄弟からの過剰な愛情表現の処理で手一杯です〜  作者: ぱすた屋さん


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第41話『強制有給(ハネムーン)の発動と、次期CEO育成計画の打診』

お久しぶりです。

短めですがハネムーン編です。

10話前後の予定です!

デレたエルゼを是非に!!


 アウグスト帝国が空前の超黒字化を達成し、私と二人の最高権力者による「三人婚」という究極の終身雇用契約ハッピーエンドが結ばれてから、数ヶ月の月日が流れた。


 現在、帝国の全セクターにおける経済指標は右肩上がりのストップ高を記録し続け、我が社(帝国)の未来は洋々たるものである。

 しかし、いかに経営が順調であろうとも、油断は最大の敵だ。有能な経営者たるもの、常に次の一手を打ち続けなければならない。


「よし。来期の南方インフラ整備予算案、決裁完了。続いて、魔導具の新規特許出願リストの精査に移ります。セバス、三番目のバインダーを」


 私こと、帝国財務卿にして皇后(および皇子妃)のエルゼ・フォン・アウグストは、特注の執務デスクに向かい、今日も今日とて猛烈な勢いで書類の山を切り崩していた。

 純白のレースがあしらわれた上質な室内着を纏っているが、私の手の中にあるのは相変わらずの羽ペンと魔導計算機である。


「お嬢様……。素晴らしい処理速度でございます。しかし、時刻はすでに定時を二時間も過ぎております。そろそろお休みに……」

 背後に控えるセバスが、胃の辺りを押さえながら控えめに進言してくる。


「何を言っているのですか、セバス。利益の最大化に定時など関係ありません。それに、今日はまだレオンハルト様もルカ様も公務から戻られていません。お二人が不在のこの静かな時間こそが、最大の集中ゴールデンタイムを発揮できるチャンスなのですから」


 私が鼻息を荒くして計算機を弾きかけた、その時だった。


「ひどいな、エルゼ。夫がいない時の方が集中できるなんて言われたら、私が泣いてしまうよ」

「そうだよエルゼ! 僕たち、お前のために特急で公務終わらせて帰ってきたのに!」


 ガチャリと重厚な扉が開き、私がいま世界で一番愛している二人の男が、連れ立って執務室に入ってきた。

 漆黒の軍服を少し着崩し、大人の色気を漂わせるレオンハルト様と、真っ白な皇子服を身に纏い、太陽のような笑顔を向けてくるルカ様だ。


「あっ、お帰りなさいませ、お二人とも! いえ、違うのです、決して邪魔だという意味ではなく、愛する夫たちがいるとつい気が緩んで(甘えたくなって)しまうため、業務効率を考慮した結果の……」


 私が慌てて弁解しようと立ち上がると、レオンハルト様が足早に近づき、私の言葉を塞ぐように、その大きな手で私の頬を優しく包み込んだ。


「分かっているよ。君が誰よりも帝国のことを考え、私たちのために無理をしてくれていることくらい。……だが、少し働きすぎだ」


 レオンハルト様は私の額にチュッと甘いキスを落とし、私の手から計算機をふわりと取り上げた。

 同時に、ルカ様が私の背後に回り込み、私の腰を両腕でギュッと抱きしめてくる。


「そうだよ、エルゼ。結婚してから数ヶ月、お前、一日だって休みを取ってないじゃないか。いくら仕事が好きでも、これじゃあお前の可愛い顔が台無しになっちゃうよ」

 ルカ様が私の肩に顎を乗せ、スリスリと頬を擦り寄せてくる。


「お二人とも……。お気遣いは嬉しいのですが、これも帝国という巨大企業を回すための必要なタスクでして」

「そこで、だ」


 レオンハルト様が、私の言葉を遮るように、一枚の羊皮紙をデスクの上に広げた。

 そこには、皇帝と第二皇子の直筆のサインが記され、何やら仰々しい文面が書かれている。


「な、なんですか、これは……?」

「『社長および副社長命令』だ。エルゼ・フォン・アウグスト財務卿。君に明日から一ヶ月間の『強制有給休暇ハネムーン』を命ずる」


「……は?」


 一ヶ月の、有給休暇。

 しかも、ハネムーン。


「い、一ヶ月!? 冗談でしょう!? いくら我が社が黒字化しているとはいえ、役員が三十日も業務から離脱するなど、正気の沙汰ではありません! 会社の損失ロスは計り知れない数字になります!」


 私が目を剥いて猛反発すると、ルカ様がくすくすと笑いながら私の耳元で囁いた。


「大丈夫だよ、エルゼ。行き先は決まってるんだ。大陸随一のリゾート大国、『ゼムリア商業連法国』。海も綺麗だし、美味いものもたくさんあるんだぜ。僕たち三人で、一ヶ月間たっぷりと甘い新婚旅行を楽しむんだ」


「行き先の問題ではありません! コーポレートガバナンスの観点から申し上げて、CEO(皇帝)、副社長(皇子)、そしてCFO(私)のトップ三人が揃って一ヶ月も国を空けるなど、事業継続計画(BCP)上、致命的なリスクです! もし緊急事態が起きたらどうするのですか! クーデターでも起きたら帝国が滅びますよ!」


 私が必死にビジネス用語を並べ立てて説得を試みると、レオンハルト様は余裕の笑みを浮かべ、ポンと私の頭を撫でた。


「君の懸念はもっともだが、心配は無用だ。……君は自分がこの数ヶ月で作り上げた『システム』の完璧さを忘れている」


「システム、ですか?」


「そうだ。君が全精力を傾けて執筆した、全百八巻に及ぶ『帝国政務マニュアル』と、各省庁における『自動決裁フロー』。あれのおかげで、もはや帝国は一部の天才に頼らずとも、自律的に回る最強の組織へと進化している。現場の若手官僚たちに権限を委譲することで、彼らの育成にも繋がる。君自身の言葉だろう?」


 確かに、私は属人化を防ぐために徹底的なマニュアル化を推し進めてきた。だが、最高責任者の最終決裁が滞れば、やはり国政はストップしてしまう。


「それに緊急時の決裁なら、僕が解決したよ!」


 ルカ様が、誇らしげにポケットから手のひらサイズの薄い魔導板を取り出した。

 黒く滑らかな表面に、魔力の光が幾何学模様を描いている。


「僕が新開発した『超・遠隔魔導通信機』だ! これを使えば、何千キロ離れたリゾート地のビーチからでも、帝都の閣議にホログラムで参加できるし、書類のデータも一瞬で送受信できる。一日十五分だけリモートで決裁時間を設ければ、業務は一切滞らない。完璧なリモートワーク体制の完成だ!」


「超・遠隔魔導通信機……! ホログラム会議システムまで実装したのですか!? ルカ様、貴方の技術力はもはや大陸の数世紀先を行っていますね……!」


 私はルカ様のチートすぎる発明品に、思わず経営者として感動の震えを覚えてしまった。これがあれば、物理的な距離によるタイムラグは完全にゼロになる。


「そういうことだ。留守を預かるセバスや官僚たちも、私たちのハネムーンを全力で支援してくれている」


 レオンハルト様の言葉に、私はハッとして背後を振り返った。

 セバスは、いつの間にかハンカチを口にくわえ、血の涙を流さんばかりの決死の形相で直立不動の姿勢をとっていた。


「お嬢様……っ! このセバス、お嬢様とお二人の至福のハネムーンのためならば、過労で胃に穴が空こうとも、三日三晩寝ずの番で帝国を回してご覧に入れます! 若手官僚たちにもすでに『気合い(物理)』を入れておきました。憂いなく、行ってらっしゃいませ……!」


「セバス……! 素晴らしい忠誠心と社畜精神です! 帰還した暁には、必ず特大のボーナス(特別報酬)を支給しますからね!」


 私はセバスの熱い心意気に深く頷き返した。

 マニュアル化による自律型組織、天才皇子によるリモートワークインフラ、そして留守を預かる優秀な人材たち。

 これらが完璧に機能している以上、確かに一ヶ月のハネムーンは「実行可能」なプロジェクトであると認めざるを得ない。


「……分かりました。お二人のプレゼンと、社内体制の構築の完璧さに免じて、この『強制有給休暇』を受け入れましょう。行き先はゼムリア商業連法国でしたね。あそこは様々な商品の世界的流通拠点でもありますから、市場調査を兼ねて……」


「エルゼ」


 私が仕事の延長としてスケジュールを組み直そうとした瞬間、レオンハルト様の顔がスッと近づき、彼の低く甘い声が鼓膜を震わせた。


「市場調査は禁止だ。今回のハネムーンの『本当の目的』を教えてあげよう」


 彼は私の腰を引き寄せ、逃げ場を奪うように私をデスクと彼自身の体の間に閉じ込めた。


「我が社(帝国)の永続的な発展のためには、優秀な人材の確保が不可欠だろう? だからそろそろ、私たちも『次期CEO(後継者)』の育成計画に本腰を入れるべきだと考えてね」


「じ、次期CEO……」


 その言葉の意味を理解した瞬間、私の顔面は一瞬にして沸騰したように真っ赤に染まった。

 次期CEO、後継者。それはつまり、レオンハルト様とルカ様との間における『子供を作る』という、極めてプライベートで、なおかつ甘すぎる行為を意味しているのだ。


「そうだよ、エルゼ」

 ルカ様も、反対側から私の耳たぶを甘く噛みながら囁く。


「新婚旅行中なんだから、仕事のことは全部忘れて、僕たちと一日中いちゃいちゃして、可愛い後継者を作るためのプロジェクトに専念してね。……朝も昼も夜も、たっぷり愛してあげるから」


 右からは大人の色気たっぷりの皇帝による重圧。

 左からは年下特有のストレートな熱を帯びた皇子の誘惑。

 二人の最高権力者から同時に突きつけられた「子作り」という名の強烈な要求に、私の鉄壁のビジネス脳は完全にメルトダウンを起こしそうになっていた。


「あ、あああ……っ! そ、それは……企業(帝国)の存続に関わる重大なミッション、ですね……っ!」


 私は真っ赤な顔を両手で覆い隠しながら、必死に論理的な回答をひねり出した。


「ちょ、長期的なリソース確保! 承知いたしました! このエルゼ、お二人の『投資』を全力で受け止め、必ずや優秀な『成果(次期CEO)』を産み出してみせます……っ!」


「……ふふっ。本当に君は、どこまでも可愛いな」

「あはは、エルゼのそういうところ、最高に愛してる!」


 私の支離滅裂なビジネス解釈に、二人はたまらないというように破顔し、同時に私の両頬に熱いキスを落とした。


 こうして、帝国最高の頭脳による「完璧な留守番体制」のもと、私たちは一ヶ月間の甘く危険なハネムーンへと旅立つことになったのである。

 行き先であるゼムリア商業連法国に、どのような三流企業(悪党)が潜んでいようとも、この最強の三人の前では恐るるに足らない。

 昼は他国を経済と物理で買収し、夜は夫たちからの過剰な福利厚生(愛)に溺れる、至高の新婚旅行プロジェクトが、今ここに幕を開けた。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


本作を応援してくださる方は、ぜひブックマークや下の評価【★★★★★】をいただけますと幸いです。


次回お楽しみに。

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