第40話(最終話)『帝国の利益(愛)は、右肩上がりでストップ高』
最終話?です。
世紀の結婚式(最大規模のプロモーション)から、数ヶ月が経過した。
現在、アウグスト帝国は建国以来かつてないほどの『空前の大・黄金時代(超黒字化)』を迎えていた。
皇帝レオンハルトの完璧な治世と他国を圧倒する外交力。
第二皇子ルカによる、規格外の魔法を用いた次世代インフラ網の完全開通。
そして、私、帝国財務卿にして二人の伴侶となったエルゼ・フォン・ブラウベルトの緻密な財務管理と再投資スキーム。
トップ三人が文字通り「一心同体」となったことで、帝国の意思決定スピードは極限まで上がり、あらゆる産業が爆発的な成長を遂げていたのである。
「……素晴らしい。今四半期の帝国全体のGDPは前年同期比で四百パーセント増。新設された魔導鉄道の物流効率化により、地方の税収も想定の二点五倍を叩き出しています。まさに、全セクターにおいて文句なしのストップ高ですね」
かつて『オープンイノベーション空間』と名付けられた、豪華絢爛な天蓋付きベッドが鎮座する私専用の執務室。
私は、特注のふかふかなソファに深く腰掛けながら、手元の魔導計算機を軽快なリズムで弾いていた。
かつての祖国(倒産したブラック企業)で、蝋燭の灯りを頼りに、すり減るような思いで赤字の穴埋めをしていた日々が嘘のようだ。
あの無能な元婚約者たちは、今頃極寒の鉱山で、永遠に減らない借金(金貨一億六千万枚)を返すためにツルハシを振るっていることだろう。完全に『損切り』が完了した不良債権のことなど、今の私の輝かしい帳簿には一ミクロンの影響も及ぼさない。
私が上機嫌で最終的な決算書にサインのペンを走らせようとした、その時。
「エルゼ。そろそろ『定時』だ。本日の業務はそこまでにしておきなさい」
「そうだよ、エルゼ! 今日は僕が南の島から、転移魔法で一番甘い完熟マンゴーを採ってきたんだから! 一緒に食べよう!」
執務室の扉が開き、この世界で最も尊く、最も私を甘やかす二人の男たちが姿を現した。
レオンハルト様は、私の手から羽ペンと計算機をふわりと取り上げ、ルカ様は色鮮やかなフルーツが盛られた銀のトレイをテーブルに置く。
「お二人とも、お疲れ様です。しかし、あと五分でこの稟議書の決裁が……」
「駄目だ。これ以上の残業は、君の美しい肌と心に悪影響を及ぼす。有能な経営者は、自らの休息も仕事のうちだろう?」
レオンハルト様は優雅に微笑むと、私が座るソファの背後に回り込み、そのまま私の体をすっぽりと包み込むように、後ろから深く抱きしめてきた。
大人の男の落ち着いたシトラスの香りと、高い体温が私の背中をじんわりと温める。彼の長い指が、私の銀色の髪をすくい上げ、首筋にチュッと甘い音を立ててキスを落とした。
「ひゃっ……! レ、レオン様、職場での過度なスキンシップは……っ」
「いいじゃないか、ここはもう半分僕たちの寝室(プライベート空間)なんだし! ほらエルゼ、あーんして!」
私が顔を赤くして抗議しようとすると、今度は正面からルカ様がソファに乗り込んできて、私の隣にピタリと密着した。
彼はフォークに刺した艶やかなマンゴーを私の口元へと運び、黄金の瞳をキラキラと輝かせて「美味しい顔」を待っている。
背後からは、皇帝による極上の抱擁と愛撫。
正面からは、皇子による至れり尽くせりの餌付け。
(ああ……相変わらず、福利厚生(愛情)の供給量がキャパシティを完全にオーバーしています……!)
私は真っ赤になりながらも、ルカ様の差し出すマンゴーをパクリと口に含んだ。
口いっぱいに広がる濃厚な甘さに、自然と頬が緩む。
「……んっ、とても美味しいです、ルカ様」
「だろ!? エルゼが喜んでくれるなら、明日も明後日も、世界の果てまで採りに行ってやるよ!」
ルカ様は嬉しそうに笑い、私の唇の端についた果汁を自らの指で拭い、それをペロリと舐め取った。
「こら、ルカ。抜け駆けは許さないと言っているだろう」
レオンハルト様が低く甘い声で咎めると、彼は私を背後から抱きしめたまま、私の耳元に顔を寄せた。
「エルゼ。フルーツの甘さもいいが、君には私の『魔力補給(ご褒美)』も必要だろう? 今日は一日中、君の顔が見られなくて寂しかったんだ。……私にも、たっぷりと愛を返してくれないか」
レオンハルト様の手が私の腰を艶かしく撫で、ルカ様が私の手をきつく握りしめてすり寄ってくる。
二人の最高権力者からの、逃げ場のない、けれど最高に幸せな『愛の包囲網』。
結婚して数ヶ月が経つというのに、彼らの私に対する激重な愛情と執着は、冷めるどころか日々右肩上がりにエスカレートしている。
夜のベッドルーム(オープンイノベーション空間)での激しい「共同作業」の記憶がフラッシュバックし、私の顔は今度こそ耳の先まで沸騰してしまった。
「あ、愛の返済ですか!? もちろんです! 私はお二人の伴侶(共同代表)として、受け取った投資(愛情)に対しては、必ず二百パーセントのリターン(愛)をお返しすると誓いましたから!」
私が必死にビジネス用語を交えて答えると、二人は顔を見合わせて、たまらないというように吹き出した。
「くっ……ふははっ。ああ、本当に君はブレないな、私の可愛いエルゼ」
「あははっ! そんな顔真っ赤にして『リターン』とか言われても、可愛すぎて反則だよ!」
二人の心からの笑い声が、執務室に響き渡る。
その笑顔を見ているだけで、私の胸の奥は、温かくて甘い幸福感でいっぱいになった。
かつて『氷の令嬢』と呼ばれ、数字と論理の世界でしか息ができなかった私。
そんな私に、彼らは「愛」という名の無償の投資を続け、凍りついていた心を溶かしてくれた。
彼らがいれば、私はもう何も怖くない。どんな巨大なプロジェクト(困難)が立ち塞がろうとも、この三人でなら、絶対に最高の決算を弾き出してみせると確信できる。
「レオン様。ルカ様」
私は、二人の方へ交互に向き直り、その首に両手を回した。
そして、かつて見せたことのないほどの、とろけるような心からの微笑みを浮かべて、二人の頬に順番にキスを贈った。
「私は今、世界で一番幸せな女です。……お二人とも、大好きです」
私の素直な言葉に、二人の黄金の瞳が激しい熱を帯びる。
「……ああっ、もう限界だ。エルゼ、今日はもう絶対にこの部屋から出さないからな」
「兄上、鍵! 早く結界張って! エルゼ、覚悟してよね!」
理性のストッパーを完全に外した二人の愛する男たちに押し倒されながら、私は窓の外の高く澄み切った青空を見上げた。
(完璧な事業計画。無敵のパートナー。そして、尽きることのないこの温かい愛情)
私は、押し寄せる甘い熱に溶かされそうになりながら、心の中で高らかに宣言(決算報告)した。
(——私たちの利益(幸せ)は、これからも永遠に右肩上がりです!)
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この後のお話だと、もうノクターンで書くしか無いってほど甘い内容しか思い浮かびませんでした。
要望あれば書くかもしれませんが、ひとまず別作でまたお会いできればと思います。
エルゼは本当に書いてて楽しかったキャラでしたので、外伝形式でも良さそうですね。
いずれにせよまだ何も案はありませんのでプロット次第ではあります。
どうぞ宜しくお願いします。




