第38話『有能な経営者による「三方良し」の結論(逆ハーレム宣言)』
私の口から飛び出した「どちらか一方を取りこぼすような選択はしない」という宣言に、レオンハルト様とルカ様は、文字通り目を丸くして固まっていた。
「……えっと、エルゼ? それはつまり、どういう……?」
ルカ様が、戸惑ったように瞬きを繰り返す。
「言葉の通りです」
私は大きく深呼吸をして、真っ赤な顔のまま、二人の顔を交互にしっかりと見つめ返した。
「レオンハルト様。貴方の深く、海のように広い愛情は、私に『絶対的な安心』を与えてくれました。貴方の隣にいると、私はどんな困難な壁でも乗り越えられるような無敵の気持ちになれます」
「ルカ様。貴方の真っ直ぐで、太陽のように温かい愛情は、私に『前を向く活力』を与えてくれました。貴方の隣にいると、どんなに疲れていても、自然と笑顔になって明日が楽しみになるのです」
私は自分の胸に両手を当て、必死に言葉を紡いだ。
「お二人は、私にとって全く違う光をくれる、かけがえのない存在です。もし、レオンハルト様を選んでルカ様が傷つき去ってしまえば、私の心には一生埋まらない穴(赤字)が空きます。もし、ルカ様を選んでレオンハルト様が悲しみに暮れるなら、私の人生の価値(時価総額)は暴落してしまいます」
「あ……エルゼ、今、ビジネス用語が……」
「はっ! し、失礼いたしました! 今のは比喩表現です!」
レオンハルト様のツッコミに、私は慌てて手で口を覆い、咳払いを一つした。
「と、とにかく! 私はお二人のどちらかが欠ける未来など、絶対に嫌なのです! 私の心を満たすには、お二人の愛がどうしても両方必要なのです!!」
私は涙目になりながら、ついに核心となる『結論』を大声で言い放った。
「ですから! 私は、レオンハルト様とルカ様、お二人のどちらのプロポーズもお受けいたします! お二人とも、私の生涯の伴侶になってください!!」
しーーーーん。
執務室の空気が、ピタリと停止した。
それは、常識的に考えればあり得ない提案だ。
一人の女性が、帝国の最高権力者である皇帝と皇子の『両方』を夫として迎え入れるという、前代未聞の「三人婚(逆ハーレム)」の宣言。
普通の貴族が聞けば、呆れて卒倒するか、「欲張りにも程がある」と非難するだろう。私自身、なんて我儘で破天荒な要求をしているのだろうと、顔から火が噴き出しそうだった。
数十秒の、永遠にも感じられる沈黙。
やがて。
「…………ぷっ」
最初に吹き出したのは、レオンハルト様だった。
彼は片手で顔を覆い、肩を震わせると、やがて腹の底から愉快そうに笑い声を上げ始めた。
「くっ、ふはははははっ! ああ、駄目だ。本当に、君という女性は……私の想像(予測)の遥か上を行く」
「あ、兄上……」
「ルカ、笑うしかないだろう。私たちはこんなにも血眼になって彼女を奪い合っていたというのに、当の本人は『どちらか一人を選ぶなんて非効率で心が満たされない。だから両方よこせ』と仰っているのだぞ? これほど強欲で、最高に論理的な愛の告白があるか?」
レオンハルト様が涙目になりながら笑うと、呆気にとられていたルカ様も、やがて「ふふっ」と吹き出し、最後には大声で笑い始めた。
「あはははっ! 本当だ、エルゼらしいや! 兄上のことも僕のことも、絶対に損切りしない(手放さない)って決めたんだね! もう、そういうブレないところ、本当に大好きだ!!」
二人の最高権力者が、執務室のど真ん中で腹を抱えて笑っている。
私はその反応に少しホッとしながらも、恥ずかしさで爆発しそうだった。
「わ、笑わないでください! 私は至って大真面目に、全員が幸せになる『三方良し』の結論を——」
「ああ、分かっているよ。君らしい、素晴らしい結論だ」
レオンハルト様が笑いを収め、目尻の涙を拭いながら、私を再び正面から見つめた。
そして、私の右手をそっと取り、その甲に深く、熱いキスを落とした。
「皇帝として、そして一人の男として、君のその『強欲な提案』を喜んで受け入れよう。ルカと君をシェアすることになるのは少し癪だが……君を失う絶望に比べれば、百倍マシだ。それに、君のその小さな体を愛し尽くすには、私一人では手加減が難しかったところだからな」
「ちょっ、兄上! ずるい! 僕だって!」
ルカ様が慌てて私の左手を取り、私の掌に頬をすり寄せて、子犬のように上目遣いで見上げてきた。
「エルゼ! 僕も、お前の提案に乗る! 兄上と半分こでも、お前が僕を選んでくれた事実には変わりないもんね! その代わり、僕の番の時は思いっきり甘えさせてよね!」
左右から、同時に注がれる、逃げ場のない極上の愛情。
「へ、陛下……っ、る、ルカ殿下……っ」
「レオン、だ」
「ルカ、って呼んでよ」
「……レ、レオン様……ルカ様……っ」
私が真っ赤になって二人の名前を呼ぶと、彼らは弾かれたように嬉しそうな顔をし、同時に私を力強く抱きしめた。
右からは大人の男の甘い香りと深い温もりが。
左からは太陽のような熱と力強い鼓動が。
二人の最高権力者に挟まれ、私の体は完全に彼らの腕の中にすっぽりと収まってしまった。
「でも、覚悟しておけよ、エルゼ」
レオン様が、私の耳を甘く噛みながら囁く。
「私たち二人の執着(愛)を同時に受け止めるのだ。……明日から、夜も昼も、君には休む暇など一秒も与えないからな」
「僕の魔力回復も毎日頼むからね! 逃がさないよ、エルゼ!」
ルカ様も、私の首筋に顔を埋めて、嬉しそうにクスクスと笑う。
「ひゃっ……!? お、お待ちください、お二人とも! それは事前の労働条件通知書には記載されていなかった過重労働では……っ!」
「ビジネス用語は禁止だと言ったはずだぞ、私の可愛い伴侶」
「そうだぞー! ここからは愛の言葉しか受け付けませーん!」
「ああああああっ!!」
こうして、愛と論理が激突した最終面談は、有能な経営者である私の「逆ハーレム(三人婚)宣言」という、前代未聞のウルトラCによって見事な大団円(決算)を迎えた。
氷の令嬢の完全陥落。
それは、私の頭脳(計算)をもってしても予測不能な、限りなく甘く、そして物理的にとてつもなく体力を消耗する『究極の終身雇用契約』の始まりであった。
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次回お楽しみに。




