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元社畜神様はコミュ症すぎて異世界でも逃げ出したい  作者: 片白
6章 怨念編

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6-11 怨念1



桃瀬紅葉ももせくれは

──────────


 あれから、すぐに菅原道真すがわらのみちざね公の屋敷へ参じたが、拝謁はいえつはもとより叶わなかった。

 依頼を受けた時と同じ家司けいしに、鬼ヶ島で起きたあの惨劇——村人が鬼と化し、この手で葬らねばならなかった地獄を伝えたが、奴は驚くほどすんなりと、それを呑み込みおった。


 妾の感覚が異端なのだろうか、胃のの辺りが泥をすすったようにむせ返る。

 助けたあの生き残りを村まで送り届け、ようやく果たした報告だというのに。


 これ以上、何が出来よう。だが、あの家司の反応が、嫌な予感となって頭を支配する。何もなければ杞憂で済む、だが……

 ——いや、やはりもう一度、あの村へ行くべきか。



家司けいし

──────────


「……何かあったのか?」


 道真公か。全てを伏せてもよいが、少しばかり揺さぶって真意を探るのも一興か。


「はっ。雇いの退魔師よりふみが。鬼ヶ島より村人を助け出し、村まで送り届けたとのよしにございます」


「左様か……それは、重畳ちょうじょうなことだ。その退魔師には相応の褒美を。それから、村人らには蓄えの兵糧を分け与えてやってくれ」


「……よろしいのですか? 官位を剥奪され、これより大宰府へ向かう身であらせられるのに」


「構わぬ。私の私財など、どうせ時平殿に奪われるだけのもの。ならば、少しでも民の助けになればな……」


「——よしなに。承りました」


 私は、何も知らぬ道真に背を向け心で嘲笑いながら、その場を辞した。

 さて、後は道真の言葉通り、『悪夢』という名の兵糧をあの村に送るとしよう。

 これで時平公への手土産も完璧。私の出世も、もはや疑いようがないな。


(笑いが堪えきれぬわ……)


「ふは……」



桃瀬紅葉ももせくれは

──────────


パチパチッ


 やはり妾の予感が……悪い意味で当たってしまった。


——煙が見え、急いで村にたどり着くと、そこは燃え盛る火が家屋を覆っていた。

 

 すぐに違和感に襲われる。


 何故か一度この光景を見たことが……ぐっ、頭に痛みが……だが、今はそれどころではない。村に生き残りがいるかもしれない。


「誰かはおらぬかーーー!」


 返事は返って来ない……カ——む……誰だ? 見た事もない白い姿が一瞬、頭に浮かんだがすぐに消えた。この村に来てからおかしくなったのか……?


「誰かーーー」


 村の中腹まで入っても人っ子一人おらぬ。

 やはりダメか……


——しかし、何故こんなことに。

 鬼ヶ島と照らし合わせて、鬼に変わったとすぐに思ったが、鬼の気配はない。しかも人為的な感じがする……壊れた場所も無くそのままの形で、納屋のほとんどが燃えておる。


 鬼になったのならこうはいくまい。

 


 なっ……黒く焦げた物体に目が止まる……これは、人? 人が焼かれている。本当にここで何があったのじゃ……

 その間も村は焼け落ち、煙の量も強くなる。


 ……村中に溢れた煙で喉がむせ返り出した——


「ゲホッゲホゲホ……」


 もう少し探して駄目なら一旦出た方が良さそうじゃな……


ガタンッ


 急な音に生存者だと思い、すぐに目を向けると、そこには鬼ヶ島から助け出した見覚えのある子供がいた。


「お主は……よ、良かった無事で。一体、何があったのじゃ?」


 不思議と、こんな状況なのに煤もなく綺麗な風貌じゃが、元気そうで良かった。

 子供はどこかぎこちなく見えたが、そこの疑問は助けてからで——


「ゴホッゴホゴホ……ここは危険じゃ、煙の届かぬところへ行くぞ」


「う、うん……あ、喉が痛いなら向こうに川があるよ」


 子供の指差した方が川じゃな、確かにそこに行くのが正解じゃろう。


「感謝する! 行くぞ」


 妾が子供の手を引こうとすると、少し抵抗があったが、直ぐに弱まりそのまま手にひかれ着いてくる。


 子供が見るべきではない光景が続く……パチパチ音が鳴り火は更に強くなる。とうとう崩れ出した家も出てきた、急がぬと危険だと思い引く手が強くなる。


 子供は妾の無理矢理な歩幅に文句も言わず、そのまま目的の川に辿り着いた。



「……川じゃな、妾を気にせず先に飲むと良いぞ」


 子供は顔を振るだけだった……これにはさすがに妾も違和感に気づく。


「何があったのじゃ? 申してみよ」


 子供からはみるみる汗が噴き出してきた。焦り子供に触れると、小さく震えていた。


(悪意?)


「おねちゃん……ごめん、ごべんなざい……」


 懐に脇差を持っていた事には気づいていた。ただそれを抜き目の前の子供が……あの時、見送ってくれた子供が……妾を刺してくるとは思わなかった。


ザシュ


バシャン——


 妾はそのまま後ろに倒れ川に顔を埋める事になった……(何故じゃ……)


 上手く刺しよる……たまたまか? これは致命傷じゃな。ゴブッ——川の水が口に流れ込む……ガハッ、顔を上げると見覚えのある大人たちがいつの間にか妾を見下ろしていた。

 妾は精一杯の力で胴体をお越し尋ねた。


「な、何故……こ、んな……仕打ちを、妾が……」


 わ、笑っている……なんじゃこの不気味な者たちは。


 不気味な人間に恐怖と怒りを覚えた瞬間、急激に身体中が熱を帯び出した。


「ぐぁ——」


 喉から始まり胸が焼けるように熱い……痛みが身体中に広がる……転がりながら悶え苦しむ妾の上から、もう何も出来ぬと悟ったのか村人達が話し始じめた。


 そ奴らは妾を見下ろしながら怨みを込めた罵倒を浴びせ続けた。


 妾を刺した子供の頭を撫でながら男が「よくやった——」


 小瓶を持った大人が「はは、川に毒を流して正解だ——」


 複数の人間が「人殺しの、鬼め——」


 悲痛な面持ちの女性が「私の夫を、返して——」


(な、なんの……話じゃ……)


「これで、俺たちは救われる——」


(どういうことじゃ……妾はお前たちを……た……)


「殺れ、燃やせ——」


 集まった村人たちは妾に松明を投げつけ、身体が燃え出し苦痛に塗れていく妾を見て笑いだした……目に映る村人の顔はこの世のものとは思えぬほどに歪んでいた。


(なぜ…………)


ゴォォゴォォ——



 焼ける……熱い……何故じゃ、妾はお主たちを助けたというのに……この仕打ちは……何故じゃ……


 頭が割れる様に痛い……憎しみが溢れてくる……燃える身体の痛みの中、男の声が聞こえて来た。


「俺がやったんだ! お前たち感謝しろよ」


「ふざけるな! 俺の毒のおかげだろ」


 汚い言葉が耳に入るたびに自分が虚ろになっていく……怒りが内側で膨張と破裂を繰り返す……急に思考がはっきりしてきた。


(どうしたのじゃ? 痛みも何も感じなく……)

 ふと、目の前の生き物が目に止まり、とても浅ましいものに見えてきた……


 言葉の全てが、異質じゃな……ほんと……


 ああ——弱者が一番恐ろしいのぅ……弱いのならずっと妾に護られとれば良かったのに……欲をかくから死ぬのじゃよ。


ザシュ

 妾の手が男の腹を貫く。

 今まで何を堪えていたのか……


「ゲホッ——な……ぜ……ガハッ」


 そのまま絶命していく命を感じながら、それでも憎悪は増え続ける。


「……お前たちの弱さは罪深い」


 やっと、事の重大さに気づく生き物たち……なんと愚かな、自分たちのした事すら理解できないとは……生かす価値もない。


「バ……化け物——」


「きゃあぁぁぁぁぁーーー」


「そ、そんな……なんでこんな事に」


「こ、殺さないでくれ——」


 身勝手なヤツラダ……アア、アタマがスッキリする。今まで人かと思った奴らは、醜い鬼に成り果てていた。先ずはここに居る鬼どもを殺ろう……妾の前に現れたのが運の尽きじゃ。


「誰の差金じゃ……」


「ひぃ……殺さないでくれ」


 少しずつ首の皮膚に指を捩じ込む。


「がぁ……道真公……で、す」


(ミチザネだと……)


 ハハハ……最初から仕組まれていたのか? 用の済んだ鬼をそのまま握りつぶす。


 その後は、本能の赴くままに逃げ惑う鬼どもを徹底的に斬り刻んだ、一人殺る毎に自分を失っていく事に気づく事などなく、目に映る全てを八つ裂きにし、燃え盛る村にいた鬼どもを根絶やしにした。


 やがて血に染まった身体を洗い流す為に川に戻って来た。


 終わった……バシャ、川に身体ごと浸かる。


「恐ろしい鬼どもジャッタナ……」


 見た目ほど強くはなかったが、これで少しは平和になるじゃろう……顔もベトベトじゃ。

 

 顔を洗おうと水面に映る妾の顔は散々殺した鬼の顔だった。


 コノカオはダレジャ?

 ワラワか? アァァ……ウソダ……ウソダ——


「アァァァァァーーーーーー」


バシャン


バシャン


「消えぬ……オノレ……ミチザネ……」


 何が目的だったのかは知らぬが、これが人間のやり方か……妾の意識がどれくらいあるのかわからぬ……消える前に殺してやる……待っていろ……



「お、おねぢゃん……」


 まだ生きている奴がいたのかと振り向く——


 お前は……目に入るなり怒りが溢れる……くそっ、止まらぬ……


「ニ、ニゲロ……」


(子供は殺させないでくれ……)必死で抵抗するがすればするほど、頭がおかしくなる……なぜ逃げない……


「おで……ほんどは……」


「ソンナノシラン! 此処から立ち去れーーー」


バシャーーン!!

 子供に向かう力をそのまま川に叩きつけた。

 その勢いで子供は逃げ去っていった。


「ハァハァ……」


 妾の姿を見ても話しかけて来るとは……ガァ……頭に痛みが走る——早くせねば……待っていろ菅原道真。



【アメリア】

──────────


 あの後、すぐに現実に戻ったわたしは王を問いただした。人が鬼になると聞き、わたしが斬った鬼が元は人だったと知る……王はティアの記憶の世界だから気にするなと言うが、そう簡単に割り切れるものではなかった。


 わたしの疲労も強く一日休む事になり、次の日また王のいる鍛冶場に戻って来たら、すぐにティアの異変に気づいた。


 ティアがあの時の様に熱を帯び始めていたからだ——


「始まったな」


 ドワーフ王の言葉が重くのしかかる、なぜかを知っている?


「理由がわかるの?」


 ドワーフ王は立ち上がり金槌を鳴らした。

 カーンという音と共に鍛冶場が広がりだし、広い空間になる。修行した時と同じ状況になり王はわたしと向かい合った。


「時間がない、俺に一撃与えてみろ」


 理由を聞いたはずだが、見るとドワーフ王も焦りが見える……仕方ない、今回も師匠が見てくれている、無様は見せられない。


 今のわたしの全力を見せてやる。



——いざ、向き合うとやはり大きい……今回は素手じゃ無く金槌を持っている。向こうも攻撃してくるのなら、一筋縄ではいかない。


 が、待つのは嫌いだ。すぐさま先制攻撃を繰り出すためにわたしはいつもの様に突っ込んだ。


 今までとは違う事を、そのデカい身体に刻み込めと言わんばかりに、一気に王の右下まで滑り込み身体を捻った反動で左上に薙った。


ガキンッ

 王はわたしの攻撃をいつの間にか右手から左手に持ち替えた金槌で防いだ。

 目だけがわたしを見据える。


「当たると思ったのか?」


 おかしい……前に修行してもらった時と違って何をそんなに焦っている? 余裕がないからか……そんなにティアは危ないの?


「フンッ」


 そのまま左に力が入るのが分かる、剣と金槌の力勝負になるが、これは勝てる気がしない。


 ガリガリ音を鳴らしながら、どんどん押し込まれる……わたしは意図的に力を抜き、そのまま相手の力を使って王の後ろに滑り込む。今度はその捻りの反動を使い、右から王の後ろ右足を狙った。


 が、手応えが無く目で確認する。すると、あるはずの王の脚がない——すぐ上に飛んだと気づき上を向くが、すでにわたし目掛けて空中から金槌を振り下ろして来た。

(避けられない——)

 逃げようと必死で動いたが間に合わず覚悟を決めた。


ズドーーン


 王の金槌は私に当たる事なく地面を抉る。

 その威力を見て冷や汗以上の何かを感じると共に怒りが込み上げた。


「なんで、わざと外した!」


 王はわたしに最悪な言葉を投げかけた。


「弱いからだ」


 そこからわたしはまた意識が怒りに変わる。

 すぐに飛び起き、背を下げ殺す気で王に仕掛ける。


空刃からいば——」


 後悔しろと言わんばかりに全力で攻撃を繰り出す、意識を持っていかれるのを必死で抑えながら。

 右へ左へ連続で叩き斬る、そのどれもが金槌一本に阻まれる、わたしの領域だと思っていたその世界に王も同じ速度でついてくる……いや、寧ろ早かった。


 王が少し顔を歪め攻撃を防ぎながら苛立ちをわたしにぶつけて来た。


「俺の言っていた事をこのタイミングで忘れるとはな……お前を過大評価していたようだ」


 勝手にガッカリされた。がそれがわたしのチャンスだった。わたしは顔を伏せ意図的に空刃を切った……それを見た王はわたしが諦めたと思い感覚を戻す。その一瞬の刹那をわたしは待っていた。


 タイミングだけ合わせて剣を振る——


 振り抜いたわたしの刃は軽くだが王に届いた。


サシュ

 薄皮一枚だが傷をつけた。


「お、お前、わざとか……」


 わざとに決まっているだろう。馬鹿にしているのか……その馬鹿にしている事を逆手に取って、実力とは違う攻撃でしか覆せなかったけどね。

 わたしとしては不本意だが、一矢報いてやった。


「勝ちは勝ちでしょ?」




「アメリア、凄かったよ」


「わたしならこうやって、あそこでこうしていたけどね。十分凄い!」


「ざまぁ」


 師匠に褒められた……ヒアは空中でシュッシュッしてる、いつも通りだ。エルはそこまでドワーフが嫌いなんだね。


 わたしのした事は単純だ。空刃の思考加速についてくる王も同じ領域だと知った時点で、切った時の反動を利用しただけだ。あの加速する感覚を切ると通常に戻る反動で意識が一瞬途切れる。

 わたしが先に切れば少し後に切ってくると思った。案の定釣られた王は隙を作った、そこに刃を挟んだだけだ。


 本当は空刃でボコボコに出来れば一番だったけど……どんだけ強いんだこの王は。

 王の驚きは、わたしが予想外の事をしたからだろう。エルの言葉を借りるならざまあみろだ。


「これを持って行け。お前なら大丈夫だ」


 王は私に一振りの剣……これは、見覚えがある、ももの刀とかいうのに似てる?


「これは、ももの……」


「ああ、桃瀬紅葉の刀だ。本物ではないがな」


 やっぱりか、一瞬しか見てないけど。この形は刀と言うのね。剣とは違い反り返った不思議な形だ。だけど、今更使う武器を変えて……


「これを使ってどうしろと?」


 わたしの問いにドワーフ王は金槌で地面を叩いた。カーンと音とともに大きな岩が地面から競り上がって来る。


(師匠なみに何でもありなの?)


「斬ってみろ」


 いやいや……刃こぼれしても……あれ? そういえば、ティアの代わりに使っていた剣も刃こぼれを起こさなかった。これも大丈夫なのかな? 

 刃を見るとピンク色に輝いていた。


 まあ、斬れというなら斬りますよ——

 ちょっと試しにももの斬り方で斬ってみた……確か居合って言ってたね。


ヒュン——

 

 凄い……岩の硬さを全く感じず、カチン……鞘に収まった。


「下手くそな居合だ。それはもう使うな」


 うっさい! 一回で上手くいくわけないだろ!

 でも、初めてのわたしでもしっくり来る不思議な感覚だ。これなら戦える……でも……鬼か……。


「皮肉をありがとう。使わせてもらいます」


「次が最後だ……友を連れ戻せ」


 そう言って金槌を振るい鍛冶場が元に戻る。

 わたしはいつもの様にティアに触れると不思議と熱さを感じなかった。

(待ってて、必ず助けるから)


カーン

 王の振るった金槌の音と共にわたしの意識は流れていった——






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