6-6 ドワーフの王
【カイル&サタン】
──────────
カーンカーン
ドワーフの王……異質だな。鉄の音が部屋中に響き渡るが、その音さえ意図的に聞こえる。
この国に来てから、俺は必死だった。出てきやしないのにカイルがこの国に好奇心剥き出しになってそれを押さえつけるのだけで手一杯になったほどだ。
カーンカーン
カイルのくだらない好奇心に俺を使われるのは癪だ、なのに無理矢理押さえつけたからって精霊が怒り出して喚き散らして来た。内も外も最悪なのに気づいたよ。
「あの、これは待つべきなのでしょうか?」
弟子の発言だ。待ちたくないなら話せばいいだろうに……俺が待っているのは別の事だ。
コイツ、気付いてやがる。
出方によっては悪いが王だろうが手が出るぞ。
カーンカーン
ただ、背中向きで叩いてるだけだというのに、身体の中を覗かれている様な感覚だ。俺の宿主は規格外だが、俺が勝てることが一つだけある。
目の前の王からはそれを隠そうともせずにぶつけてくる……殺し合いでもしたいのか?
カーンカーン
カーンカーン
カーンカーン
「!?」
な、なんだ? 耳の中で音が鳴り止まない……カーンカーン……ぐっ(おい、カイル——)ダメだ……カーンカーン(まずいぞ……ん? いや別にいいのか)コレは不可抗力だ。仕方がないな、苦しめカイル——
——————え? サタンが弾かれて僕の意識が無理矢理引きずり出された……ドワーフの国、意識を閉ざしてもサタンが感じた情報は微かに入ってくる。昇降機の恐怖が僕の好奇心を刺激して「ちょっと手で触れてくれない?」と頼んでみたが本人それどころでは無かったみたいだ。
サタンを使って、何でもいいから少しでも魔道具に触れて欲しかったのに。抵抗して来たのには驚いた。けど、それはまぁいい……
カーンカーン
僕に頼れる手札がなくなった。仕方ない気配からドワーフの王を見たらきっと命が持たない。だが、先に進むには……覚悟を決めよう。
——目を開けると……恐ろしいくらいでっかいオッサンがいた……やっぱり思った通りの五倍はインパクトがある。もう、あれは僕の知ってるドワーフじゃない、巨人のオッサンだ。怖すぎ……ない、あれ?
怖くない。
何でだ? 僕には全く理解できないが、これは有難い……ここに来ても僕が関われないんじゃ意味がないかなぁとかも思ってたけど、これでティアの事に集中できるかも知れない。
そんな事を考えていたら巨人のオッサンが後ろ向きで初めて口を開いた。
「何の様だ?」
それは身体の芯まで響く、とても深く静かな声だった。まさか、こんな所で『最上神様』と似た雰囲気の声に出会うとはビックリした……
僕は余りの驚きで、口を開くのを躊躇っていたらアメリアが返答した。
「あの、ドワーフの王。突然の訪問に答えて頂きありがとうございます。先ずはコレを」
この状況に呑まれずによく言葉がでるなぁと感心して、エルフの国と王国からの書状を渡す所を黙って見ていた。
「ほう」
受け取った巨人のオッサンは書状を中身も見ずに炉に入れた……ボウッとすぐに灰になって消えていく。
アメリアがすぐに怒りを口にしようとしたが、急にガタガタ震え出して身体が崩れた。
ぱっと見では、何が起きているのか全く分からない。なにせ、小さいドワーフの時と同じ様に何にも見えないからだ。普段は極力勝手に見たりはしないが、アメリアに何かした時点で配慮は消えた。
オッサンが僕の方に歩いて来て太い腕をこちらに出してきた。
「白いの、見せてみろ」
このオッサンは何処までわかっているのかな?
ティアの事を言っているのはすぐに分かったけど、僕の不思議空間の繋がる先はこの世界じゃないのに……まぁ、元からそれが目的だしいいか。
「ちょっと熱いから、アメリアそこから少し離れて。あとエルもごめんね」
ヒアは僕の頭の上だから大丈夫でしょ。
——不思議空間からティアを取り出す。すぐに部屋の中の温度が急上昇していく。
『クレメンティア』はあの時のままだった。怨念か……あのティアが何をそんなに恨んでいるんだ?
「貸せ」
言われた通り渡そうとしたが、近づくと恐怖が蘇りそうだったので僕はティアを放り投げた。
オッサンは驚きもせずにそのまま素手で受け取って確認しだす。
急激な暑さにアメリアとエルが辛そうなので僕の近くに来る様に促して保護したけど、オッサンは普通の剣を触れているみたいに真剣な顔でティアを眺めていた。
あれは、僕にも出来ないな……燃えも溶けもしない頑強な皮膚なんてあるわけがない。
理由は魔道具だと思うが、魔道具ってそれ程の物なのか?
思考が魔道具に傾いてしまったが今はティアが優先だと改め、オッサ……(いや、もう王と呼ぼう。何故か敬意を払いたくなった)王は、ティアを金床に乗せ懐から出した変わった金槌で叩いた。
カーン
物凄い音が部屋に反響するとティアの熱で変わり果てた色が元に戻り出した。
「中々に面白い、が、これでも駄目か」
駄目? 単純に凄いと思った……部屋中に広がった熱もなくなった。僕は僕で色々試してみたが外部にしか干渉出来なかった。ドワーフの王……まさかな。
その王が振り向き話しかける前にアメリアが口を開いた。
「ティアは……元に……ティア……」
きっと戻ったか確認する為にティアとだけ繋がった念話で呼びかけたのだろう。アメリアの呼びかけに応えてない時点で、王の駄目とはそういう意味だったのか。
「腰が折れたな。三つ用意してもらう」
話が早くて助かるが……一国の王がなぜこんなに協力してくれるんだ? 疑問は浮かぶが今は考えるだけ無駄かな?
「何が必要?」
必要な物は、ティアの所有者と『精霊石』……ね、そして最後は魂の器。要するに肉体だ。
何を要求されるかと思ったけど、二つは手元にある……しかし、器か。考えてもなかったな、元は人間か。いや、エルフの可能性もある?
「中身の種族とかわかる?」
王は僕の問いに呆れた様に首を振るだけだった。んー、あらかじめ用意するなら何がいいかな? 僕のおすすめはもちろん子供だ。万が一復活しても大人の器に入れて僕が拒否反応を示したら悲しい。
自分で作ったなら大丈夫か? っていう事もあるが、どうなんだろう。最悪、目玉にするとか……うん、それから希望をき……いや、そんな事するなら剣でいいじゃん。
「器は本人の希望を聞くまで剣じゃ駄目なの?」
——駄目らしい、魂の移動は仮にティアの件がうまく行った場合に限るがほんの一刻しか猶予はないらしい。
まぁ、僕もその見解は同意だ。意識の移動と魂の移動は同じ様にみえて全く違う。魂の移動は正真正銘別人に生まれ変わる事だ。
仕方ない。大人、子供と色んなバリエーション作って、その一刻の間にどれになりたいか決めてもらおう。
それならと、アメリアと『精霊石』をドワーフ王の目の前にだした。
「どうぞ」
「わ、わたしは何をすれば良いですか? ティアの為なら何でもします!」
この為に来たからわかるが、やる気は十分みたいだ。だが、実際何をさせるのか……剣の怨念に打ち勝つとかか?
「ほれ」
アメリアにさっきまで叩いていた剣を渡す。あれを作っていたのか、僕たちが来るのを分かっていたかの様に準備がいいね。
「わ……す、凄い剣です」
アメリアの感動を無視して話は進む。
「この剣の所持者よ。どの程度か先ずは触れてみろ」
アメリアが王が促した金床の上に置いてあるティアに軽く触れる……が、特に何も起こらない。不思議に思い王を見上げるアメリア。
王がアメリアの横に立ち、触れたアメリアの手を剣の先端に持っていく。
「そこに触れておけ。行くぞ!」
何の説明もなく始まる様だ。
王は振り上げた金槌を剣の刃の中心に振り下ろす——
カーン……その瞬間アメリアの身体が震えた。
【アメリア】
──────────
カーン——
目の前で鳴った音と共にわたしの意識が吸い込まれていく感覚に襲われた。
音が耳から抜けて行ったので目を開けて見みたら、そこは——
「え、エルフの森?」
ずっと滞在していたから記憶に新しくすぐにエルフの森と結びつけたが、何処か違う。
周りを見ても誰もいないが、森の至る所から不気味な殺気が溢れている。
また、変なところに飛ばされたみたいだ……何度目だろう。
ただ、ここで戦わなきゃいけない気がする。だって、右手にはさっき渡された剣を握っている。これは、ティアを助ける為の何かなのは間違いない。
この殺気を放っている奴を倒せはいいのかな? とにかく待つのは苦手だ、一番近い奴を先ずは見る。
——ガササ……な、何あれ?
ミノタウロスみたいな角の付いた人? でも身体中真っ赤で凄い形相……木の後ろに隠れて観察して見たが、見た事のない魔物だ。会話は出来そうに無いから斬っていいよね?
師匠に習って会話してみた方がいいかな?
いや、殺ろう——わたしは背を低くして草むらに潜みながら敵に近づいた。
ガサ、ガササ
軽く草がわたしが通る事で揺れるが相手は気づかない様だ。初めての敵を馬鹿正直に真正面からは狩らない。先手で一気に行く!
大人3歩くらいの距離まで迫っても気づかないので、気配には鈍感だとわかるが、仕切りに何かを探して動き回っている。ただ、面白い事に複数ある殺気が合流する気配がない……今はいい、この距離なら行けるが中々に大きい。わたしの倍はある。
なら先ずは——背を低く保ったまま足のバネを使って前に駆け出す。そのまま両足を薙いだ。
ザシュン
「王様……やる」
貰った剣の切れ味はすごかった。
抵抗もなく敵の両足が切断され何が起きたかも分からない敵が倒れていく。
(よし、このまま落ちた所を首だ)とその後の作戦を頭で描いてる事に不審に思った。
な、何で遅くなってるの? それは、何度か体験した死の兆候だった……よく見ると敵の眼球はわたしを捉えていた。
不味い、何処に危険があるのかはすぐに分かった棍棒みたいな鉄の塊を倒れながらわたし目掛けて振り下そうとしていたのだ。
すぐさまわたしは後方に飛ぶ。
そのすぐ後に倒れながら棍棒がわたしのいた所に振り下ろされた。
ドゴーーーーーーン
凄い土煙が辺りに舞う。
いつもなら気にせずに敵に向かうが、思ってもいない事態に戸惑った。
その間に土煙が晴れてくる、その先にいた倒れているはずの敵を見て唖然とした。
「ユ……ダン……シタ」
わたしの錯覚かと思う程に、両の脚で普段通りに立ち上がり、首をコキコキする赤い魔物が何事もなく姿を現せたのだ。
「お、お前はなんだ?」
向こうが喋った事で、こっちも喋りかけてしまった……今のうちに攻撃すればと後悔しても、もう遅い。
わたしの問いに恐ろしい形相が更に険しくなる。
「ア? イマサラ……イウカ?」
確かに……まともな思考を持っていた。もしかして敵じゃない? 謝るべきかと考えているうちに向こうの話は続いた。
「運イイ、ガキ探シテタラ……餌ガキタ。ガハガハ」
わたしの問いに答えたわけでは無さそうだけど、今ので敵だとはっきりした。
言葉の真意は分からないが、殺気が一気に膨れ上がったからだ……子供がいるの?
他の仲間が来る前に倒さないと、初めて使う剣はティア程ではないが手に馴染んだ。
これからは、心を鎮める。
行くぞ——
あれからかなり殺り合ったと思う。
最近戦う敵は、何で再生するんだ! この敵いくら斬ってもくっつく……最初はビックリしたが、今じゃもう慣れた。ただ、首だけにしてもくっついて復活してくるのでいい加減疲れてきた。
なぜ、こんなに余裕かと言うと。敵はそんなに強くはないのと、他の仲間が一向に合流しない事だ。なので、常に余裕ぶいている敵……
「イグラ——」
ズシャと左腕を斬り落とす
「無駄ダト——」
バシュと右足を斬り落とす
「ダ——」
ガシュと顎から上を斬り落とす
を、痛ぶる感じになってしまっている。
(何処を斬ればコイツは死ぬんだ……)
こんな事を考えていると、また敵は元通りにくっついていく……斬られた所からウネウネと触手みたいな赤い物が出てきてそれが結合して復活。
はぁ、めんどくさいと思って剣を振る為に右足を踏ん張ろうとして、足元が敵の血で滑りやすくなっていたのにも気づかずにわたしは転けた。
ドンッと尻餅をついて、上を向いた時にはすでに敵が棍棒を振りかざしていた。
「ユバン……ビダナ?」
顎がちゃんとくっついてないから言葉が変だが、敵はどんなに斬られてもわたしを殺そうとする気合いだけは衰えてなかった。
これはわたしの油断の招いた結果だ……情けない油断するくらいなら逃げるべきだった。左腕は仕方ないと一撃もらう覚悟をしたが一向に衝撃はこなかった。
恐る恐る目を開いて見ると、さっきまで目の前にいた赤い敵は跡形もなく姿が消えていて、代わりに黒髪の女性が目の前に佇んでいた。
白と赤の衣装を着た黒髪の女性がこちらを向き赤い目をわたしに向けて話しかけて来た。
「今のは、良くなかったのぅ」
な! この懐かしい年寄りくさい話し方と声は——
「テ、ティアなの?」
女性は驚きながら答えた。
「ほう、さぞかしその女子は妾に似ておるのじゃろうな」
まんま、ティアだ……泣きそうだけど、違うのかな?
「う、うん。そっくりだよ……」
そう言われた女性はご機嫌になり更に聞いてきた。
「そんなに、似ておるのか。どんな女子じゃ?」
え……言っていいのかな?
「綺麗な剣だよ」
ご機嫌だった顔がみるみる赤いさっきの敵の様に真っ赤になっていき、地面を何度も踏みながら怒り出した。
ダンダンッ
「な、な、なんじゃと! この見目麗しい妾を捕まえて刀に似てるとはなんたる侮辱! 表に出よ!」
ティアだよ。どう見てもティアだ……表なのに表に出ろとかティアでしかない。
怒られてるのに嬉しくなって抱きついた。
「ティアーーーっ!!」
ガバッ
急に抱きつかれた女性は狼狽え、何かを考えながらこの状況にを次第に諦めていった。
「わかった、わかった。妾の負けじゃ。あまりこの場に留まると危険じゃ、一旦下がるぞ」
——ティアの案内で、海辺の小さな小屋に来ていた。
「……ずっとわたしの戦いを見てたの?」
「じゃよ、ここに他の者が来とるとは思わんかったから、見入ってしもうた」
それじゃ、油断して尻餅した所までティアに見られてたのか……恥ずかしい。
「しかし、お主……そんな刀で良く『鬼ヶ島』に乗り込んだのぅ……死にに来たのか?」
わたしは右手に持った剣を見る……これは、かなり凄いと思うが、何が駄目なのか聞いてみた。
「ふむ、退魔が施されておらんが?」
退魔……知らない言葉だ。色々説明してもらわないと分からない。
ティアに色々聞いてみた——
《退魔》この『鬼ヶ島』にいる『鬼』を倒す為の術式みたいなものだ。忘れていたが、ビブリナのダンジョンで黒い奴を倒した時にティアでないと倒せなかった。あれと同じ物だと考えればわかりやすいね。ティアは本島では『退魔師』と呼ばれているらしい。
《退魔師》札や術などを使い、魔を祓う者の相性。ティアはその中でも珍しく刀という名の剣に退魔の術式を込めて斬る、珍しい部類の退魔師だと言う事だ。
《鬼ヶ島》今わたしたちが居る場所で、海に浮かぶ小島らしく、ここが鬼の発生源だと言われている。ティアはそれを調べに来たらしい。
《鬼》突然現れ本島を襲いはじめた。赤と青色のツノの生えた人型の巨人を鬼と呼ぶ。海からやって来て海に去って行く。最近やっと居場所を掴んだらしい。
ざっと色々教えてくれた。
ティアってこんなに凄い人だったんだ! と褒めたら……
「お主、さっきからティア、ティアと。妾は刀では無いと言うとるのに妾の名は————」
カーン
金槌の音と共にわたしは吸い出されて行った。




