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元社畜神様はコミュ症すぎて異世界でも逃げ出したい  作者: 片白
6章 怨念編

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6-7 ドワーフの国2



【アメリア】

──────────


カーン


 音が耳を抜けて行く……鬼ヶ島に行った時と同じだ、わたしはゆっくり目を開けたらドワーフの国に戻ってきていた。


「どうだった」


 語りかけてきたのはドワーフの王……この人は今まで見てきた、どの王よりも凄いのはもう分かった。

 わたしは鬼ヶ島で起きた事を話した。そして、ティアに会えた事で、ある程度何をすれば良いのかも理解したので王に聞いてみた。


「ティアと一緒に鬼退治をするのですね?」


「………………そうだな」


 なんだその間は……違うなら違うと言ってください。あれ? 師匠がいない……エルは、師匠について行ったのかな?


「あの、師匠はどこに?」


「今はその話は後にしろ」


 む……ティア優先なのは仕方ない。わたしが向こう側から帰還した事で、次の段階に進んだらしい。


 これから剣に付いた鬼の血から退魔術式を施して倒せる様に打ち直してくれる事と、まさか最初からティアに出会うとは思っていなかったらしく、次はしっかり相手の名前を聞いてその名で呼べと言われた。


 記憶は純粋なもので、こちらの知識を下手に向こう側に入れるのは何が起こるか分からないとの事。


 それならそうと、初めからちゃんと説明しない方が悪いと思います。


 そして、次に行くのは一度休んでからだと言われた。わたしはもう半日も向こうにいたらしい。

 

 わたしが勇者にされた、不思議な世界は出た時に聞いた話だと、ほぼ入った時と時間が変わらなかった。感覚がおかしくなる……そりゃ半日過ぎてたら師匠も他に何かし始めても不思議ではない。


(出来れば見守っていて欲しかったですが!)




カーン、カーン。


(うそ……今からやるの?)


 王は背中で語るとは……誰が言ったかは知らないが子供の頃よく聞かされた話だ。当時のわたしは背中向けたら刺されるじゃないか! と、思ったがこの王を見るとその言葉がすんなり入ってきた。


 もちろん、背中で語るの意味が違うのはもう子供じゃないし理解しているが、今まさに背中で語ってる王を眼にするとそのまま捉えてしまう。


「貴方は休まないのですか?」


カーン、カーン。


(ほら、背中で答えた……この場合、金槌かも知れないけど)


 この人は超人だ。半日と聞いたら途端に疲れが出てきたわたしとは大違いだ。ドワーフ王の背中を見ながら心の中でお礼を言った。


(……ありがとうございます)



【カイル】

──────────


 僕はドワーフ国の第四階層に来ていた。


 王がいた広すぎる鍛冶場の奥にあった動く箱からかなり下に降りた場所にあったのは巨大な空洞だった。上を見上げれば巨人が掘り進めた様な荒々しさと下を見ればドワーフの技術を使ったような綺麗に整地された繊細さがある不思議な空間が何処までも奥まで続いていた。


 アメリアがティアに触れてすぐ、ドワーフ王からティア復活はこの所有者にしか出来ないと言われ、今日は危険はないから、お前たちは休めと勧められた。


 では何故、第四階層に居るのかというと、人のいない所で魔道具に触れられる所ない? と聞いたらここに通された。


 「行った先で勝手に探せ」とだけ言われ、他は詳しくは教えてくれなかったがやる事もないので、もう一つの目的『少しでも魔道具を知る!』を僕は無駄足覚悟で突き進む。



 道中、心の中で意気込んでいたら服と髪を引っ張られる感覚に襲われた。


 頭のヒア、服のエルだ。正確に言えば、頭の上で寛ぐヒアと服の裾をこれでもかと握りしめるエルだ。


 いつの間にかヒアは起きたのか……エルはドワーフの国に来てからほぼ存在感を消していて僕のすぐ左後ろに潜んでいる。


「ねぇねぇ、あのデカいドワーフ。怖過ぎてお腹すいた!」

「帰ろう」


 怖いとお腹空くは共存するんだね……


 ヒアもエルも身勝手すぎじゃない? あの王を見れば成功しそうな雰囲気はあったけどさ、僕自身この世界に来て楽観視なんてするもんじゃないって何度思ったか……さて、頭の上のヒアに果物を与えて。エルには諦めてもらおう。


 第四階層は僕の索敵によれば人は居ない。そこに魔道具が本当にあるのなら僕にとっては望んだ通りの場所になる。


 僕に魔道具の知識があれば……

(カイル……精霊が限界。外に出してあげられない?)


 エルからの念話だ。精霊……確かに僕の周りの精霊も元気が無いみたいだ、そもそも何でこんなに精霊は疲弊するんだ?

 僕が精霊に聞いてみると、森がなく魔素がないかららしい。森はわかったが魔力の意味がなぁ……いまいち分からないので力を外に流してみた。


 普段、火を出したり水を出したりするには身体から力を出してそこに火や水をイメージし、現象を起こさせる。その力を現象を起こさずにただ垂れ流す……さてどうなるか。


「何した?」


 うん、成功だ。垂れ流しになんの意味もない事だと思っていたけど、こんな効果があるんだね……前が見えない。

 もっと、広範囲に広げよう——


(カイル……精霊の事は感謝するけど、何とかして)


 そんな事を言われても、力を外に広げるのがこんなに難しいとは思わなかったよ……外に飛ばす事は出来ても、広げて留められない。今は僕の周りにしか力が出てないから連れてきた精霊が光に寄ってくる虫みたいに群がって塊になりすぎて本気で邪魔だ!


(エルさ、精霊何匹いるのよ……)

(今は二万くらい、外には九万くらい?)


 へぇ……二万が僕の周りにどう密集してるんだ? 頑張ってはいるんで少しずつ力場も広がっているけど。


「ヒア、食事終わったのなら、飛んで案内してよ」


 はーい、と言ってフードから飛び出す。

 ヒアの案内で先に進みながら僕は力場を広げるべく頑張り出した。


(エルは何してるの?)

(ぼーとしてる)


 その開き直りが羨ましいよ。

 言葉通りじゃないから怒らないけどね、エルはずっと辛そうにしている。ドワーフが嫌いもあるのかも知れないけど、この場所が本当にダメなんだろうね。


 そのエルの辛さは僕の頑張りで急に消えることになった。地道な努力で力場はどんどん広がり今ではエルをすっぽり覆える程にはなった。

 その中に入ったエルの表情がみるみる元気づくき次第に足取りも軽くなったようだ。


(もっと早くやって欲しかった……)


 悲痛だね。案外難しいんだよこれ。

(エルさ、魔力を魔法を使わずに身体の外に留められる?)

 僕の言葉を聞くと、エルは集中し始めた。

 まぁ、頑張ってみて。僕より上手く出来たら師匠と呼ぶよ。


 さて、ヒアの案内で進んでいるけど、どうなっているだろう……いい加減精霊がひしめきあってるだけの景色にも飽きたよ。


「うわぁ。カイル様止まって、外凄いよ!」


 急にヒアが叫びだす。時間切れだね、僕は止まって意識体で外に出て見ると……


「確かに、これは驚いた——」


 そこにあった世界は正に僕が管理していた世界の生き写しの様な場所だった。立ち並ぶビル群、道路、自動車、近代化した僕の管理世界をそのまま持ってきた様な世界を見下ろす形で眺める事になった。


 ヒアがちょっと行ってくるーと言って飛び出してすぐに透明な壁にぶつかった。


バンッ——「ヘブッ」


 透明過ぎて僕もわからなかったが一面ガラス張りだった。僕は意識体なので、関係ないから外に出て見ると僕たちが居たのは展望フロアだった。


 高さからすると600mくらい。この街の高さはそれより高く、空があるがこれは映像だね。と、いう事はこの街は生きてる証拠だ。

 エネルギーがもし電気なら凄い事だけど、そうなると魔道具との繋がりが分からないから魔力なのかな?


 この間にも僕の力場は広がっている。段々とコツも分かってきた。もう、僕が十人は入れるくらいに広がっているが……二万かぁ、まだまだだね。


 と、そろそろ一旦戻ろう。結構時間もかかったし次来る時は転移で済むし。

 エルは力みまくってるね、それじゃヒアの念話習得時と一緒だよ。


「エル、続きは帰ってからね」


「ヒアもドンドンしない。下に降りるのは次回ね」


 ヒアは渋々僕のフードの中に戻り、エルは力みながらも僕の服に捕まったので僕たちはドワーフ王のいる部屋に飛んだ——ん?


 飛べない……どういう事だろう。

 

 ……やっぱりあの部屋何かあるかな?



 仕方ない、今回は歩いて帰ろうか。



【アメリア】

──────────


カーン、カーン。


 あれからまだそんなに時間は経ってなかったけど、わたしはドワーフ王の鍛治を見させてもらっていた。単純に見るのは楽しいのと、ここで待っていればいずれ師匠が帰ってくるだろうと思ったからだ。


 一言「見ててもいいですか?」と伝えてカーンと返事があったきり、カーン、ジューーー、ボッ、の三音しか聴いてないけど、基本はビルゴさんの鍛治と同じ工程だ。


 鉄の冷たい色だった剣がどんどん真紅に変わって来ている。ティアの持っていた刀と言う剣も真紅色だった。


 多分この色が退魔の色なんだろうと悟った。でも不思議だ『クレメンティア』の刀身は少し白みがかった灰色の剣だったのに、浄化の力を持っていた……謎は深まるばかりだ。


「え?」突然、部屋の扉が開き向こうから師匠たちが現れた——



「師匠ーーー!!」


 いつも通りすぐに飛びかかり頭を撫でられた。

 「無事で良かったよ」と言ってもらえただけで、もう他はどうでも良くなった。


「剣の中に入っていたの?」


 師匠の言葉でティアを思い出す……危なかった。余りにも普通に元気だったので、気持ちに余裕ができ過ぎていたのかも知れない。


 とりあえず、師匠に中での出来事を覚えている限り話した。もちろん尻餅は話していない。


「なるほど、それはティアの過去かな?」


 おー、それは思いつきませんでした。なるほど、過去のティアか綺麗なお姉さんだった、私の姉様より歳上かも知れない。


「そうかも知れません! 見た事ない鬼の魔物が居たのもそれで理由がつきます」


 ドワーフ王があからさまに手元を止めたのを見逃さなかったわたしは、やっぱりその辺り知っていたんだと思った。

 何も話してくれないんだから、想像が膨らんでも仕方ないですよね!


「鬼……あの角があって赤とか青の?」


 ぬあ!? 師匠も知っているのですか……もしかしてわたしの知識不足?


「エルは知ってる?」


「知らない」


「私も知らなーい」


 よし! 三体二だ。勝ち誇ったわたしの心内を知らずに師匠が軽くぼやく。


「ヒア……ちゃんと仕事してれば、知らないのはおかしいよ」


 ヒアちゃんがあからさまにフードの中で震えてる。

(そんなになんだ……師匠とヒアは知り合いみたいだけど、過去は未だに教えてくれない)

 その中で仕事って事は、同じ所で働いていたのですね! 心に刻みつけておこう。


「それなら、『鬼ヶ島』も納得がいくね。『桃太郎』——」


「師匠とやら、それ以上は話さん方が身の為だぞ」


 今までにない『威圧』がわたしたちを突き抜けて師匠に向かう……突き抜けただけで力が無くなり気を失う所だった。エルも胸を押さえて堪えてる……ヒアちゃんは師匠の頭から落ちて来て師匠に拾われた。


 そんな中、師匠はどこ吹く風で普通に会話をしはじめた。


「あー、そういう事か……ドワーフ王。ごめんね……配慮が足りなかったよ」


カーン、カーン。


 何事もなく鍛治に戻る王。


 『桃太郎』か……人の名前みたいですが、これは忘れた方が良いのかも。あちらで下手に喋ったらどうなるの?

 ……忘れようとするほど『桃太郎』が湧いてくる、これはヤバい……忘れられるかな?


「浦島太郎はどうかな?」


ガツーン


「金太郎……」


ガギーン


 あ、あの師匠やめて下さい……わたしの剣が折れてしまいます。師匠に太郎さんのお友達が多いのは分かりましたから、本当にやめてください。




「……気は済んだか?」


「そうだね。僕の仲間がいる所であんな威圧しないでね」


 え、わざとだったのですか? しかもわたしの為に! わたしの頭から何とか太郎は居なくなった。


「あとどのくらいかかるの?」


 師匠がわたしの為に聞いてくれてる! ありがとうございます。


「明日までには仕上げる。今日は寝ろ」


 そして、一枚の紙を飛ばして来たが、師匠が綺麗にキャッチせずに横を素通りして後方に飛んでいった……そりゃそうだ、ヒアちゃん持ってるので手が塞がってるもんね。


「……」


カンカンカン


 ドワーフ王が少し分かりやすい。

 師匠がヒアちゃんを頭に戻して紙を拾い、書いてある文字を……


「アメリア、読めないからお願い」


 読めなかったようだ。確かに何度も頼まれた事がある、師匠は何故かこの世界の文字が読めない様だ。


 返事をして受け取ったわたしは師匠の為に読む。


「えっと……宿屋の地図と無料券です!」


 「好きなだけ飲み食いしろ」と言ってまた鍛治に打ち込み出した。どこまでも職人だ……王様だよね?


カーンカーン


「それじゃ、お言葉に甘えて行こうか」


「はい!」


 師匠が前を歩き、エルは相変わらず師匠の服を掴みながら後ろにくっ付き、わたしはその後を追った。


 泊まる事になった場所は第三階層の宿だった。王の鍛冶場から出ると至る所でドワーフたちが騒がしく賑わっていた。最初来た時は朝だったので仕事にでも出ていたのだろう。ドワーフ国の夜の色は酔っ払い地獄だった。


 至る所でどんちゃん騒ぎ、道端には寝ているドワーフまでいた。そのままわたしたちは指定された宿屋に入るとそこはドワーフたちでひしめき合う更に騒がしい酒場になっていた。


 わたしが、カウンターのドワーフに王から貰った紙を渡すと、凄い待遇で持て囃された。

 

 余りの圧にエルはすごい顔をして更に師匠の後ろに引きこもり、ヒアはドワーフ族には全く気にされない事に気づき、わたしの静止を無視して飛び出して行き、どんちゃん騒ぎに付き合いだした。


 師匠はまた言動が荒くなってたけど、初めて師匠と酒場でご飯を一緒にできたので、言う事は無かった。

 わたし的には、すごい楽しい一時でしたが、師匠に勧められたお酒はやっぱり合いませんでした。


 騒がしい時間はあっという間に過ぎ去り、二階の宿屋の部屋の布団の中で寝る前に明日を思う。


 明日はティアの名前を聞こう……

 そして、必ず戻してあげる。そう誓いながら初めてのドワーフの国の夜が更けていった——

 



 

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