6-5 ドワーフの国1
【アメリア】
──────────
無事十日の馬車の旅を終え、わたしたちはドワーフの国の前の検問にたどり着いた。
わたしも来たのは初めてだったので、その余りの山っぷりに驚いた……
「これ、どこが国なんですか?」
「知らんな」
「ねぇねぇ、私見えてても平気かな?」
「ヒアちゃん、ここも他種族が集うので隠れてないと大変です」
「そっか……」
「……」
どでかい山脈の麓に駐屯地があり、その奥に大きな門が設置してる。多分その門の奥が通路になっているんだろうけど、これじゃ炭鉱では? わたしたちは既に馬車を降りて中に入る為の順番待ちの列の最後尾についた。
自分で言っててなんだけど、本当に他種族がいる。わたしの国では一度も見たことない竜人族もいる……凄い。あまり視線を向けると怒られそうな雰囲気だから極力自然体で……
「暇だな」
師匠が暇そうだ。確かに暇ですが順番待ちですし、しょうがないのでは?
「悪いが、少し行ってくる」
え、行くって何処へ? 師匠は列からずれて少し外れの検問官とは違うドワーフのいる所に行って何か話し始めた。
少し会話をしていると思ったらこっちを向いてわたしを手招きしている。
並ばなくて良いのかな? あ、エルに頼もうか、ここに来てから言葉数以前に一言も言葉を発さないエルに頼むのは忍びないが仕方ない。
「エル……」
「やだ」
はや! 被せ気味できた。予想してたな……
(私が行く、書状貸して)
あぁ、なるほど、その為にわたしが呼ばれたのか、まぁわたしが待つのは問題ないので、書状を鞄から全部出してエルに渡した。
それを受け取ると頑張ってテクテク走って行くエルが微笑ましく感じた。
エルが師匠の元に辿り着き、何やら会話が白熱している……何故か応対しているドワーフが怒っているような気がするがここからじゃ全く聞こえない。
わたしもあっちに行きたいが、もし駄目だったらせっかく並んだのに勿体無い、何故ならわたしの後ろにはもう十数人増えている。
こんな時にティアが居ればなぁ。
師匠たちを見たら今度はエルが手招きをして来たのでわたしは列から出て師匠の元に向かった。
「おぬし、交渉下手くそじゃろ?」
わたしが行くと師匠が罵られていた……
「な、師匠に何て事を言うんですか!」
わたしが事情もしらずに怒ると、ドワーフはしぶしぶ説明してくれた。いきなり来て待つのが面倒だから入れろと……あっちから正式に入れと断ったら、俺はエルフの国から許可を得ていると。そんな証拠どこにあるのかと言われエル参戦。書状がどれか分からず全部開く羽目に。
なるほど、わたしが行けばすぐだったような気がします。
「んで、この書状なら入れるがどうすんじゃ?」
「ああ、すぐに向かう」
「了解じゃ、ちと、直通じゃから酔うなよ」
なんか、話し方がティアぽい。見た目は髭もじゃなのに、懐かしく感じる。
髭もじゃドワーフの案内で門とは違う駐屯地の端の方に設置された小屋に向かう。
近づいてみると小屋というより檻?
「さ、これに入るんじゃ!」
え、これは罠? 檻にしか見えない……中を覗いても何処にも道がないし。
「師匠、これは……」
わたしが言い終わる前に師匠が入り、エルもそれに着いて行く。
「なんじゃ? 嬢ちゃんは行かんのかい?」
「い、いきます」
わたしも勢いに負けて入った。
それを確認して、ドワーフがレバーを引いた途端に入り口が閉まる。
ガシャーン!
な、やっぱり罠? これじゃ、完全に閉じ込められた……そんな、なんで?
「な、何するんですか!」
「なんじゃ? 行くのか行かんのかどっちなんじゃい」
ドワーフがおかしな事を言っている……意味がわかんないなか、師匠の言葉でわたしは黙った。
「早くしろ」
師匠はこの状況に全く動じてない、素晴らしいです。ただ、ここからなにが起こるのですか? ドワーフが「なんじゃい」と言いながらボタンを押すと……部屋全体が物凄い音を出して、目の前が動き出した。
「な、な、何ですかこれは!」
「さらばじゃ!」
ドワーフが笑顔で見送りながら上に上がって……これ、わたしたちが下に下がってるの?
「師匠、これ下に下がってますよ?」
「ああ、そうだな」
師匠はこんな時も仁王立ちだ。威厳があるが、顔が引きつっている……なぜ?
エルは師匠の服をずっと摘んでわたしたちしか居ないのに、後ろに隠れている……
「エル、どうしたの?」
「帰りたい」
「え? 来たばかりだよ」
エルは、念話の方で話してくれた。それはもうドワーフに対する罵詈雑言だった……臭いから始まり臭いで終わるくらいのただの悪口。
生理的に無理なの? と聞くと「そう」と一言だけ絞り出すように零した、それだけで理解出来るほどだった。
不安すぎる。
エルとの長めの会話が終わってもまだ動き続けている部屋。これって、いつまで降りてるんだろう……ガコンガコンと部屋が揺れる度に思考が部屋に移り今度は違う不安が押し寄せる。
「師匠、これは何処まで下がるんですか?」
「わ、わからぬ。静かにしていろ」
師匠?
【カイル(サタン)】
──────────
こ、これは何なんだ……部屋が勝手に動くなどあってはならん、数千年眠っている間にこの世界はどうなってしまったのだ。
普段ならこんな物ぶち壊して終わりなのに、思考が拒む……カイルの奴、ここに来るなりあっさり引きこもりやがって、ちくしょう。
俺を便利な道具としか思っていない……
今に見て、ガゴンッ! 今まで以上にでかい部屋の音と揺れに驚く。
「うおっ、な、なんだ!」
二人が不安げに俺を見てくる。
(ふざけるな、俺は怖くないぞ、こんな物、怖くないぞ!)
ガガガと音が鳴り部屋の扉が開くと、上に居た小さなオッサンが居た。
(お、おのれ、面妖な! コイツは何なんだ)
「なんじゃ! そんな恐ろしい顔して。上の奴には聞いとらんのか? 儂がこっからは案内する」
べ、別人なのか? 同じにしか見えん、どこで区別をつけるんだ……
「何しとる? 着いてこんかい」とドワーフの言葉に苛立つ。
(こいつ……俺に上からだと。この国、滅ぼしてやろうか!)そんな俺は弟子の言葉に我に返った。
「師匠、行きましょう!」
弟子は何でこんなにやる気なんだ……あぁ、友の為か……仕方ない、今は大人しくしてやろう。
俺は、ドワーフについて行く事にした。横に弟子、後ろからチビエルフ、頭上の妖精は寝ていた。
(頭の上でどうやって寝ているんだコイツは……)
動く箱から降りて明るい冷たさのある通路を通ると辿り着いた場所は、地下都市だった。
「惚けとらんで行くぞ」
特に説明もせず歩き出すドワーフ。
ここは何だ、とか説明をする場面じゃないのか?
こちらから聞くなどというのは有り得ん。こんな時の弟子は何をやっているのだ?
横を見てみると惚けていた……使えん!
「行くぞ」
もう知らん。こっちから聞いて恥などかけん、知らずに押し通す——
【アメリア】
──────────
「行くぞ」
師匠がこの凄い景色を見ても怯みもせず堂々とした佇まいに誇らしく思う。
正直、もう少し見たかったが師匠が進み出した為に小走りで着いて行く。
「はい、待ってください」
ふと見るとエルが師匠の服を掴みながら必死で後をついて行ってる……少し羨ましいがエルは無理してついて来ているので今回は大目に見よう。
ドワーフの国はエルフの国と打って変わって要塞の様な面持ちを持っていた。まず眼前に一際目立つ建物、そこから波状に町並みが広がって、外壁の岩肌をよく見るとそこにも、人がいる様な明かりがチラホラ見えて、見上げたら岩壁の上は遥か遠く、まるで夜空の星のように灯りが散っていた。
(……明かり?)
自分で思ってて気がついた。何でこんなに明るいのだろう、ここ地下だよね?
師匠が堂々としているので、頭が回らなかったけど、朝みたいに明るいし空気も澄んでる……いくら、大きな空洞だからって殆ど外界から遮断された場所なのに明らかにおかしいと思うのだけど。
「あの、何でこんなに明るいのですか?」
目の前をせっせと歩くドワーフはピタッと止まり後ろを振り向く。
「さては、この国初めてじゃな? 田舎もんか?」
何処を取って田舎者なのかは分からないが初めてなのは事実だ。
「はい、初めてなので驚いてます」
わたしが褒めたと思い、明らかに上機嫌になるドワーフが色々教えてくれた。
簡単に言えば、全ては魔道具らしい。広範囲を明るくする魔道具、空気を浄化する魔道具、他にも移動に使える魔道具などもあるらしい。
「ならさっきの箱の乗り物も魔道具ですか?」と聞いたらあれは太古の魔道文明以前の遺物らしい、普段は危ないから使わないが、今回は立っての希望だから起動したんじゃぞ! と言われた。
「どう言う事ですか?」
「あん? エルフの国の書状に書いてあったぞ、『昇降機』で入れてくださいとな」
な、そんな危ないものを使わせるとか……エルフはやっぱり敵だ! そんな小賢しい嫌がらせを企んでいたなんて。
(一応、言っとく。多分、大昔の記憶……その頃はきっと新しい乗り物だった。こんな遠くにエルフは頻繁に来れない。絶対に!)
突然エルが念話で教えてくれたけど、なるほど……そんなのわかるかい!
あまりにも時間の感覚が違うんじゃないだろうか? でも、一応心の中で謝ろう、ごめんなさい。
ドワーフの街を歩いていると、またおかしな事に気づく、上では他種族が順番待ちしていたのに、街の中にはドワーフしか居ない。
普通に商店街らしき所を抜けて来たが、食べ物を売ったり武器や工具を売ってる所にさえドワーフしか居なかった。
疑問が出ると聞きたくなるので聞いてみたら、わたしたちが今いる所は第三階層に当たるらしい。主に王様が居るドワーフの為だけの場所。
観光や世間に流れる装備品、お土産類などは第一階層。魔道具などの発注や依頼などを中心に動いている第二階層。そして、第三階層が実質のドワーフの国、偶に国賓なども来ることがあるが、現在はほぼないらしい。
少しだけ第四階層の話もでたけど、中身がわからないまま話が変わった。
「じゃから、嬢ちゃん達が久々の国賓じゃの……酒は、飲めるか?」
「いえ、成人はしていますが、飲んだことはありません」
わたしはその手の物には興味がない、昔お父様が美味しそうに飲んでいたのを勝手に飲んで酷い目にあったから寧ろ嫌いだ。
わたしの言葉を聞いて明らかにガックリ来ているドワーフは「つまらん」と言って歩の速さを上げた。
なんか、わたしだけが話していた気がするが、師匠もエルもちゃんとついて来ていた。
そして、わたしたちは一番奥にあった岩壁を綺麗に掘った様な作りの一番大きな建物に到着した。
「ちと、待っとれ」
ドワーフはそう言って大きな扉の横にある、小さな四角い箱に近づき操作をし始めると、その奥にドワーフが現れた。
「か、鏡ですか?」
わたしの声にビックリしたドワーフは後ろを向いてシーッと人差し指を立てたので訳もわからず黙ったら鏡のドワーフが喋り出した。
「来たんかい?」
会話している? どう見てもわたしたちの事を向こう側のドワーフと話し合っていた。
これは、わたしたちの念話に似ている?
(エル、これって念話みたいなもの?)
(みたいだけど、魔道具……本当に無理)
(どうしたの?)
(精霊が怒ってる……カイルはどう?)
(あ、あぁ……キレてるな、違う意味もあるだろうが)
違う意味がよく分からないけど。そんなに、魔道具と相性悪いんだね……
「なんじゃ、さっさと開けろ!」
最後の方は喧嘩腰で会話していた様に見えたので心配したら、呆れて「いつもの事じゃよ」と言われた。
グガガガガ……ガゴンッ
重い扉が両開きで開くと、熱風が吹き荒れた。何故か王様の居る場所と聞いた様な気がしたのに、外より大きな音で鉄の叩く音や物凄い破裂音などが鳴り響いていた。
ビルゴさんの鍛治を見たことあるから分かるけど、これは完全に鍛治をしている……何故ここでやってるの?
「さぁ、入れ! 王が会うとよ」
わたしたちは熱気で包まれたドワーフがひしめきあった大きな鍛冶場を抜け、二階かと思ったら下に連れて行かれた。
カーン!
ドンドン……カーン!
バフバフ……カーン!
地下に通されると、上よりも広い空間なのに鍛冶や魔道具の工具や機器に囲まれながら何かを叩いている一際大きなドワーフがいた。
「あの、あの方が王様ですか?」
「じゃよ、んじゃ儂は行く。畏まらんでいいぞ! 酒か面白いもんを渡せば機嫌は良くなる」
んじゃなーっとさっさと来た道を戻って行った。なぜ、ドワーフの王を一人きりの所に何処の馬の骨かもわからないわたしたちを置いて行っていいの?
ドワーフの感覚がわからない……
カーン、カーン。
わたしたちが居るのを知ってか知らないか熱心に叩き続ける王……えっと、話すタイミングが分かりません。
ジューーーッ




